
スバルBRZ
一昨日の
“BRZって、どんなクルマ?”の続きです。
題して、
“スバルBRZって、こんなクルマ”と
いうことにしておきました

さてさてこのクルマ、
ひと言で表現するなら“素”のクルマ
ということでしょう。
驚くべき新技術が盛り込まれている
わけではなく、フラット4エンジンも、
そのマネジメントとして採用された
トヨタのD4システムも、
大枠において既存のものです。
FRレイアウトの魅力を存分に引き出す
機関系のレイアウトやボディは、
このクルマのキモですが、
もちろんFRレイアウト自体が
何ら新しい技術でないことは
言うまでもありません。
サスペンションもマクファーソン
ストラットとダブルウィッシュボーンの
組み合わせで、これももはや
古典的な技術です。すなわち、
高度な制御技術の完成によって
ハイブリッドシステムを備えた
パワーユニットが現実のものに
なったとか、
ビスカスカップリングの発明に
よって新世代のフルタイム4WDが
実現したとか、新発想の具現化に
よって次世代のポテンシャルを
備えたマルチリンク
サスペンションの時代が
始まったとか、そういうことが
一切ないクルマです。
もしあなたが、デパートの
催し物会場で行われる“袋詰め放題”の
売り場で人混みにもまれながら、
気になるものを端からギュウギュウに
詰め込むような買い物に心躍る
タイプだというなら、同じような値段の
プリウスを買ったほうがいいでしょう。
フリーマーケットでバラバラに
分解したクルマを売るときに、
プリウスの方がずいぶん儲かると思います。
前回、BRZのことを書こうとしていた
にも係わらず、その前にFRポルシェに
ついて書いた古い原稿を紹介しようと
思いつきました。
私自身、944S2 Club Sportと968CSの
2台を所有したことがあるFRポルシェは、
本当に楽しく、胸躍り、クルマを
運転することはこんなに素敵だと
いうことを私に教えてくれたクルマでした。
けれども、今さらながら思い返してみると、
技術的な背景を発売当時に遡ってみた
ところで、個々の技術には取り立てて
革新的なところはなく、
既存のモノを組み合わせつつ1台の
クルマとして構築していう過程において、
ひたすら磨きあげ、研ぎ澄ますことに
専心した結果に過ぎないクルマだと
いうこということに気づくんです。
素晴らしいクルマとはなにか。
ドライバーをワクワクさせて止まない
クルマとはなにか。
クルマが求められるシーンやオーナー像は
実に多様ですから、すべてを網羅する
クルマは存在しません。
電気仕掛けを盛り上げたようなクルマが
好きな人には、そのような趣向を
満たしてくれるクルマがいいでしょうし、
レーシングカートのような裸の
クルマが好きな人もいるでしょう。
経済性を問うても、利便性を問うても、
ゴージャスさを問うても、
それ様のクルマを見つけることは
可能なはずです。
ただ、昨今の新車事情を見ていると、
“盛り”の派手さ加減が、求めるカタチへ
到達する最善の手段であるような風潮が
台頭しているような気がします。
ここで是非を問うことはしませんが、
経済性や環境性を求めるための
手段として、ハイブリッドという
キーワードがメーンストリームを
突っ走るような状況は、
まさにその代表例と言えるでしょう。
そんな中に登場した、BRZであり、
トヨタのハチロクというのは、
その流れに一石を投じるという意味では、
やはり注目に値する新型車だと思います。
もう少しBRZの具体的な部分に
触れてみましょう。
スバルが試乗会の舞台として
用意したのは、サーキットでした。
すでに色々な媒体で試乗記が
紹介されていますが、
総じて「楽しい~!」みたいな雰囲気に
なっているようです。
当たり前だと思います。
私も含めてクルマを仕事にしてしまう
ほどのクルマバカを集めて、
新型のFR車をサーキットで
走らせてみてください、というような
シチュエーションが楽しくないはずが
ありません。
もちろん私も例に漏れず、
楽しい~思いをさせていただきました。
極論を言わせてもらうなら、
用意されたクルマがBRZでなかった
としても、やはり楽しかったんじゃ
ないかとさえ思います。
少なくとも日常的にサーキットを
走ることを仕事にしているわけではない
私は、そう感じたに違いありません。
当日は一般路を試すコースも設定されて
いましたが、そちらの印象は、
近々広報車を貸していただいて、
ゆっくり試してから機会があれば
お話ししたいと思います。
そんなサーキット走行を中心とした
試乗会でしたが、ただキャーキャー
言って走っていたわけではなく、
私もプロの端くれなりに、
エンジンを中心として徹底的にこだわった
という低重心化の恩恵が顕著に
感じられることや、
6MT車のペダルレイアウトが
とても扱いやすくなされていること、
VDCと呼ばれる横滑り防止装置の
セッティングが恐らく峠の一般道でも
ダラダラとつまらないドライビングの
原因にならないよう絶妙に仕立てられて
いること等々、いろんな感想を
持って帰ってきました。
それやこれやを総じて、どうなのよ、と
問われれば、やはり楽しい~と思わせて
くれるクルマであることには
間違いないので、
「楽しい~」インプレッション記事には
全面的に賛同するのですが、このクルマ、
そのような表面的なこと以上に、
もっと奥の深いクルマだと
感じたんですよね。
私は四十路後半の男ですから、
同世代の多くがそうだったように、
人並みにオーディオに凝っていた
時期がありました。
カタログを集めて、レコパルやら
FMファンのようなオーディオ雑誌の
発売日を待ちわびているような
中学生でした。
当時の日本のオーディオメーカーと
いえば、それはもう世界的にも
飛ぶ鳥を落とす勢いで、
オーディオ機器のスペック、
例えば周波数特性やS/N比、
ダイナミックレンジ等々の数字は、
新製品が登場するたびに確実に
向上しました。
そのような数字の進化を
追い求めることがオーディオ趣味と
いうものだと信じていたのは、
私がまだ子どもだったせいだから
かもしれませんが、
確か当時の大人たちも、
もはやマッキントッシュや
マランツのアンプは雑音まみれの
時代遅れで、JBLやタンノイの
ような紙製のコーン紙が主体の
スピーカーでは原音再生など
適わないというような
風潮だったと思います。
ところがですね、
素敵な音楽再生の正体は、
周波数特性でもS/N比でも
ダイナミックレンジでも
なかったんですね。
それが証拠に、
当時世界を席巻していた
日本のオーディオメーカーは、
今では存在そのものが
消滅してしまったところも含めて
すっかりメーンストリームから
退いてしまいました。
一方で当時でさえ時代遅れと
された年代物のマッキントッシュや
JBLは、訪ねるところを訪ねれば、
今でも大切にされ朗々と音楽の
素晴らしさを表現し続けてます。
オーディオで音楽を楽しむという
行為は、感性を心地よく刺激する
ということであって、
それを実現する手法は、
少なくとも製品を手にする我々に
とっては数字を追いかけ回す
ことではなかったというわけです。
“心地いい”という感覚は、
数十年程度の人間の進化では
ほとんど変わらない、
普遍的なものなんだなと思うわけです。
話をBRZに戻しましょう。
このクルマには革新的な
新技術が何1つないと、
冒頭でお話ししました。
ですから、そのような新しモノに
興奮したり、盛り上げ満載な
お得感がたまらないという人には
向かないということも、
お話ししました。
それではあなたがBRZに試乗して、
欲しい! と高揚することが
あるとしたら、その気持ちの正体は
何なのでしょうか。
それは、作り人の感性に
共鳴してしまうことだと思います。
話し方が得も言えず心地いい人、
仕事に対する姿勢が得も言えず素敵な人、
ハートを射抜かれたような衝撃を
覚える容姿の人。
そんな誰かに会ったことがあると
思います。BRZの魅力は、
そんな“得も言えない”不思議な感覚を
多くの人の気持ちの中に
思い出させてくれることじゃないかと
思うんです。
私がオーディオ趣味の世界で存在を
知ることができた、
心地よい感覚の普遍性と同じ
じゃないかと思うんです。
BZRとそのトヨタ版のハチロクとは、
商品企画とデザインをトヨタが、
設計・開発と製造をスバルが担当する
コラボレーションの下で誕生しました。
これは取材を通じて私が感じた憶測に
過ぎないのですが、スバルの男たちは
その心血を今までにないほど猛烈な
勢いで注ぎ込んで、このクルマの
開発に取り組んだに違いありません。
失礼ながら、富士重工業ではなく、
その自動車部門であるスバルとして
考えたとき、あらゆるものごとの
規模において、トヨタの方が格段に
大きいであろうことは想像に
難くありません。
技術者の人数、開発設備や施設、
資金力、販売力、所有している
特許の件数等々、尋常でない
スケール感の違いに、
スバルの面々は当初、恐怖心さえ
感じたのではないでしょうか。
そんな中で、新たなプロジェクトの
開発を託されることになったら、
どうするでしょうか。
私なら、裸になることを
決意すると思います。
もう裸一貫、素になって
“我ここにあり”というところを
ぶつけていくしかないと考えると
思うんです。
企業としての規模こそ違え、
スバルにはスバルとしての
歴史があって、その中で育まれた
DNAが流れていて、それこそが
今こそ抜くべき伝家の宝刀だと
確信すれば、あとは素になって、
そいつをめいっぱい振り回して
やろうと心に決めるような
気がするんです。
その必死さが、ひしひしと
伝わってくる、そんなクルマが
BRZというクルマの最大の魅力で、
もしあなたが葛藤に満ちた
その過程の中でBRZに
宿っていった彼らを源とする
このクルマの感性に共鳴して
しまったとすれば、
これはもう楽しくてうれしくて
仕方ないことになるんじゃないかと
思うんです。
もちろん開発の過程で
プロフェッショナルとしての
エンジニアやデザイナーは、
数字を追いかけ苦悶するものです。
けれども作品として完成したときに、
我々が感じ取る魅力は、
やはり数字ではないと思うんです。
今回、試乗会の会場で
スバルマンたちと話していて、
あはは、やっちゃったね! と
大笑いしたい気持ちになったのは、
BRZがそんな魅力にあふれていた
からじゃないかと、
思い返しているわけです。
BRZの値打ちとは、“袋詰め放題”の
袋をはち切れさせるような有形の
何かではなく、吟味して選ばれた
一つ一つの中身が持つ意味に
知らず知らずのうちに共感して
心震えてしまうようなあつらえに
こそあると思います。
そういう意味では、やはり大人の
クルマなのかもしれませんね。
そうそう、
1つだけ残念だったことがあります。
BRZには、競技車ベースの
モデルとして、装備をそぎ落とした
安価なRAというモデルが
設定されています。
ハチロクにも同様の設定が
ありますから、ひょっとしたら
ハチロク&BRZによるワンメイク、
正確にはツーメイクかな、
そんなレースを開催するつもりが
あるのかもしれません。
エアコンレスはもちろん、
上級モデルでは16インチサイズの
フロントブレーキディスクが
15インチ化され、
ホイールは16インチのスチール製、
トルセン式のLSDも未設定です。
ワンメイクレース用の
ベースモデルであれば、
高性能であることよりも、
レースにおける各チームの
ランニングコストを抑える目的が
優先された仕様になることも
ありますから、
仕方ないのかもしれません。
けれども、この仕様じゃ、
ワンメイクレースへの参加者以外には
関係ないただの廉価版なんですよね。
もし私だったら、
BRZ Club Sportとして、
多くのユーザーの心をも捉える仕様を
企画したいですね。
エアコン、パワーウインドウ、
標準サイズのオルタネータは
オプションです。
リアシートは下ろして2シーター
として登録認証を取ります。
そうすればハードシェルの
軽量フルバケットシートを
採り入れることもできますね。
ブレーキは上級モデルと同じで、
LSDも標準装備です。
Club Sport専用デザインの
アルミホイールもいいですね。
専用の派手なソリッドカラーも
設定しましょう。
まるでポルシェが用意する
Club Sport仕様と同じですが、
軽いことは百利を得ます。
装備を盛り上げることでは
実現できないクルマの楽しみを
提案したBRZ、ハチロクなのですから、
その究極版をワンメイクレースに
参加しない人たちにも
提供してあげたらいいのに、って
思うんですよね。
お仕事のように行数制限がないと、
いくらでも書いちゃいますね。
長々と失礼しました!!

水平対向エンジンがどれだけ
低重心化に貢献しているか、
よく分かりますね。
上に載っかっている黒い部分は
主に吸気系の補機ですから、
ほとんどが軽量な樹脂製です。
ゴツンと重いエンジン本体は
タイヤより低い位置に収まってます。

エンジンを正面から見たところです。
低重心化に寄与する水平対向
エンジンならではのシリンダー
レイアウトではあるものの、
こうやって見ると、エンジンの
下側にある排気系がいかにも
邪魔だということが分かります。
もしスバルに革新的な新開発を
期待するなら、この排気系を
エンジン下側にレイアウトせずに
済むようなシリンダーヘッドの
デザインです。このテーマは、
水平対抗エンジンの大家である
ポルシェでさえ実現できていません。
そんなの無理だよぉなんて言わずに、
アッと驚かせてほしいと思います。
不可能を可能にするのが
エンジニアリングの力で、
在りようにしかできないと
いうのであれば、エンジニアの
存在価値は半減しますから。

ツインリンクもてぎで開催された
試乗会の会場に、一般の男子たちが
集まってきて、BRZを興味深げに
眺めていました。
BRZ、ハチロクともに、新車販売の
ターゲットは40代の男性だそうですが、
こんな彼らが憧れるようなオトナとして
素敵に乗りこなしたいものです。
僕らの世代も、そうだったようにね。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover