夢の中で幼い少年と並んで道を歩いていた。彼の顔立ちは私とはまるで似ていなかったが、弟という設定になっているようだった。私の方は既に成人しているので随分と歳が離れていた。
一直線にどこまでも伸びている道で果てが見えなかった。しかも、人影がなくて閑散としていた。建物もなく、地面には野原と道しかなかった。随分と単純な風景なのだった。
傍らを確認すると必ず弟が歩いていた。私は彼の名前を知らなかった。しかし、弟は私と目が合う度に人懐っこい笑みを浮かべていた。私は慕われているようだった。
夢を見ているという自覚はあったのだが、現実の家族構成を思い出そうと試みても記憶が明らかにならなかった。私は父や母の顔さえ思い出せずにいた。それで、傍らを歩いている弟だけが自分の身内であるという気がしてきた。
離れてはいけないと思い、彼の手を握った。とても小さくて柔らかな手だった。その瞬間、私は夢から醒めたくなくなり、ひどく切ない気持ちになった。弟とずっと並んで歩き続けていたいと望まずにはいられなくなっていた。
目次(超短編小説)