無痛鰻の蒲焼き | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「こちらは無痛鰻の蒲焼きでございます」と旅館の仲居が配膳しながら紹介した。

 「ほう」と私の隣に座っていた男性が感嘆の声を漏らした。「痛みを感じない鰻ですか。しかし、痛みはあくまでも主観的な感覚でしょう?その鰻が痛みを感じていなかった証拠があるのですか?」と彼は訊いた。

 「無痛刀で斬られた鰻なのでございます」と仲居は答えた。「無痛刀はあまりにも切れ味が鋭いので痛みを感じさせずに肉を切断できるのでございます。その昔、刑場にて斬首用に使われていた際には罪人の胴体が切られた事実に気付かないので死後硬直がいつまでも起らなかったと伝えられています」

 仲居の説明を聞きながら私は鰻の身を箸で摘んで口に入れた。自分が死んだ事実に気付かないまま焼かれた肉には生前の弾力がそのまま残されているようで美味しかった。その料理を味わいながら私は無痛刀を手に入れたくなった。様々な動物を斬って食べてみたいと考えた。


鰻料理関連作品

純粋鰻の白焼き
地中鰻の吸い物
鰻酒

目次(超短編小説)