地中鰻の吸い物 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「こちらは地中鰻の吸い物でございます」と旅館の仲居が配膳しながら料理を紹介した。

 「ほう」と私の隣に座っていた男性が感嘆の声を漏らした。「この辺りの地方では土の中に鰻が棲息しているのですか?」と彼は訊いた。

 「地中鰻は主に田畑に住んでいるのでございます」と仲居は答えた。「この辺りでは田畑を耕している時に鋤や鍬によく鰻が引っ掛かるのでございます。勝手に作物を食べる害獣でございますが、食べてみると身に野菜の味が染んでいて美味しいと評判なのでございます」

 仲居の説明を聞きながら私は鰻の身を箸で摘んで口に入れた。すると、確かに野菜の味わいが感じられた。人参や大根などの風味が舌の上に広がった。それから虫や蛙などといった小動物の味も見つけた。土の香りも感じた。地中鰻はなかなか豊かな食生活を送っていたらしかった。


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