「大きな猫ですね。何歳ですか?」
「この猫ですか?いや。存じませんな。少なくとも私が子供だった頃にはこの家に居着いていましたし、話に聞いたところによると、私の祖父のまた祖父がまだ幼かった頃に道端で拾って飼い始めたらしいのですが、それから何年になるのか、今となると正確なところは誰も知らんのですわ」
「まさか。嘘でしょう?本当ならば、この猫は不死者である、という事になりませんか?」
「どうでしょうな。殺せば死ぬかもしれませんし、今後も永遠に死なないという保証はどこにもないわけですが、とにかく随分と長生きをしているという事は確かでしょうな。ええ。私もあなたと同じような疑問を持っています。この猫は死ぬのでしょうか?しかし、回答を得る為には殺さなければなりませんな。まぁ、そんな残酷な真似はできませんわな」
「なんだか気味が悪いですね」
「不死者の存在は異質ですからな。しかし、これは優しい猫ですよ。人間が自分よりも短命な生き物であると知っているのでしょうな。我々に対して哀れみとか、慈しみとかいった感情を抱いているらしい。思えば、私は子供だった頃からこの猫にそのような気持ちで見守られていたような気がします。最近になって気が付いたのですわ。この猫が私の曾孫を眺めている様子を見て気付いたのですな。猫の態度はずっと一貫しておったのです。ええ。実に優しい猫ですわ」
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