永遠の花 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 永遠の花が売られていたので私は一輪だけ購入して家に持ち帰った。陶器製の瓶に入れて窓辺に置いておいたのだが、花屋の店員が説明していた通り、数十日が経過しても枯れる気配がなかった。

 変化が乏しいので徐々に関心を失っていき、存在を忘れて半年ばかり放置していたのだが、それでも表面に埃が積もっただけで咲いたままの状態が保たれていた。瓶を覗いてみると既に水がほとんど涸れていた。どうやら私の世話など少しも必要としていない様子だった。

 あまりにも強靭なので本当に生命を宿した植物なのだろうかという疑念が湧いてきた。私はそれを枯らす方法を店員から教えられていた。店員は花を傷付けないようにと忠告していた。現状が維持されている間は枯れないが、ちょっとでも傷が付くと均衡が破れ、休止状態にあった老化現象が再開されて死に至るらしいのだった。私は指先で花びらを一枚だけ摘んだ。それを千切れば枯れていくはずだった。

 あれから数十年が経った。花は随分としなびてきたが、まだ咲いている。私は今でも時折り当時の行動について考えてみる。ほんの一時の好奇心によって花から永遠の命を奪い取ったのである。残酷な所業であったと自責の念を抱く時もあるし、おかげで生物らしさが感じられるようになったと胸を撫で下ろす時もある。

 とにかく私は自分がもたらした結果に責任を負うつもりで最期の時まで花の老化を見守ってやろうと考えている。ただ、その速度があまりにも遅いので生と死の境界線が曖昧になっている。既に死んでいるのではないか、と疑っている。少なくとも花はもはや枯れていくばかりである。

目次(超短編小説)