今、新宿区教育委員会の主導のもと、江戸川小学校と津久戸小学校とを統合しようとする計画が推し進められています。学校選択制を導入した結果、江戸川小学校の児童数が減少したため、江戸川小学校と津久戸小学校とを統合する形で江戸川小学校を廃校にしようとする計画です。この計画は2年ほど前から進められてきましたが、現在は「統合等検討協議会」を設置するという段階まで進んでいます。


 平成20年度における江戸川小学校の児童数は84人です。これは、平成4年7月に出された「新宿区立学校の適正規模、適正配置及び学校施設のあり方等について(答申)」 で示された小学校の存置の目安である150人程度を下回っています。小規模校は、「活気に満ちた雰囲気に欠け、集団の相互作用による思考力の育成や、学習や運動において学び合うたくましさが不十分になりがちな傾向がある。」「集団で行う体育活動、劇、合唱、合奏などで支障をきたしやすい。」「単学級の場合、クラス替えができないことをはじめ、学力、友人関係が固定しやすい。」などのマイナス面があることから、複数の学校を統合することで適正な学校規模を維持しようというのが教育委員会のねらいのようです。


 しかし、学校の規模が小さいということは、必ずしも悪いことであるとは限りません。子どもの学力の水準が世界一と言われているフィンランドでは20人学級が標準です。クラスの規模を少人数にしぼることで、教師の負担が軽減されるとともに、児童一人一人の個性に応じたきめ細やかな教育が可能になります。小規模校なら、こうした良さを持つ少人数学級が保障されます。また、平成4年7月の上記答申においても、小規模校の学校教育への影響におけるプラス面として、「教職員が全児童生徒を知ることが容易であることから、実態に応じた個別的な指導をしやすい。」「一人一人の児童生徒が授業などで発表する機会が多くなり、教育活動への参加意識が高くなる。」などの面が挙げられています。小規模校には小規模校としてのメリットがあります。小規模校で子どもを学ばせたいという保護者の存在も視野に入れ、その意向を汲み取ろうとする配慮が必要です。


 学校選択制の本来の趣旨は教育の多様性を擁護することにあります(1997年文部省通知「通学区域制度の弾力的運用について」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/06041014/008/003.htm 参照)。保護者に多様な選択機会を提供するためにも、小規模校の存続を訴えていく必要があります。学校の統廃合によって「選択肢」を減らすのは、間違った方向性です。


 新宿区が学校選択制を導入してから6年が経ちました。その間に学校間における児童数の格差が拡大し、500人を超える小学校から80人程度の小学校まで様々な児童数の学校が生まれています。新宿区は「格差」を縮めるために学校の統廃合を進めようとしていますが、学校選択制の本来の趣旨に沿った教育行政を行っていくことを考えるならば、「格差」を「多様性」として受け止め、小規模校にも小規模校としての良さを認めていく姿勢が必要です。


 多様性を擁護するための学校選択制なのか?それとも単なる「効率化」のための学校選択制なのか?新宿区における学校選択制の運用の本質が問われています。