オフィシャル「Larks' Tongues In Aspic (太陽と戦慄)」収録前の英国ツアーから,1972年11月10日ハル・テクニカル・カレッジ公演と,2週間後の11月25日オックスフォード・ニューシアター公演のそれぞれ前半部分をオーディエンス収録し,2004年に Reel Mastersレーベルからリリースされたものですが,どう見てもレーベルは Sireneのような気がします.(笑)
 収録順は何故か,11月25日がDisc1で,11月10日がDisc2となっていますが,こういうのは公演日順に収録して欲しいですねぇ.
 数少ないジェイミー・ミューア在籍時の音源という事と,音像としても非常にクリアでバランスがとれており,演奏も素晴らしいです.
 キング・クリムゾンは,このメンバーでの唯一のオフィシャル・アルバム「Larks' Tongues In Aspic (太陽と戦慄)」の収録前にバンドリハーサルを行い,ドイツのフランクフルトとブレーメンでのウォームアップ公演を経て,英国ツアーを開始します.
 ジェイミー・ミューアは,翌1973年2月10日ロンドンのマーキー・クラブでのライブを最後に未だアルバム発表前にも関わらず仏教修行の為脱退します.その後は4人編成でツアーを続行しますが,ジェイミー・ミューアが非常に短期間の在籍という事もあり,その即興性のある演奏は今や伝説となっています.
 ちなみにジェイミー・ミューアの脱退は,当時怪我によるものとの公式発表されましたが,後に本人が仏教修行の為と訂正のコメントをしています.

 Disc1に収録の11月25日:オックスフォード・ニューシアター公演ですが,演奏を開始する前から収録が開始され,収録開始当初はテーパーがマイクを触るノイズが目立ちます.
 "Larks' Tongues In Aspic (Part 1)" の導入部も輪郭がはっきりしてきており,5分過ぎからのロバート・フリップのギターのリフも1973年のものと比較すると,かなりジャジーなフレーズを弾いています.7分過ぎからのデビッド・クロスのバイオリンパートのバックでは,ジェイミー・ミューアが鳥の囀りを笛で表現しています.このバイオリンパートは非常にクリアに収録されており,ここだけ聴くとSBD録音と言われても判らないでしょう.ここでは 2週間前のDisc2収録のハル公演とは明らかに異なり,コーダ部が存在していて,ほぼ完成形になっています.
 "Book Of Saturday"も完成形に近く,ビル・ブラフォードのドラムも絡んではいません.またここからつながる20分に及ぶ異例の "Improvisations" の導入部は,ロバート・フリップのもの悲しげなスパニッシュ風のギターフレーズを聴くことができます.デビッド・クロスのバイオリン,ジョン・ウェットンのベース,ビル・ブラフォード/ジェイミー・ミューアのドラム,パーカッション等が絡み,導入部の静の構成から徐々に動の構成へと導きます.そして最終部で静に戻り,そこから "Exiles" へと引き継がれます."Exiles" もかなり完成形に近付いており,ドラマチックな演奏となっています.

 Disc 2に収録の11月10日:ハル・テクニカル・カレッジ公演の方ですが,Disc1の公演日よりも15日前の演奏であり "Larks' Tongues in Aspic (Part 1)" は,ビル・ブラフォードおよびジェイミー・ミューアのパーカッション部隊が凄まじく,強烈です.そしてこの時は,未だ終盤のコーダ部が存在しておらず,鳥の囀りをバックに "Book Of Saturday" へとシームレスに繋がっていくという非常に興味深い演奏です.未だこの時点でオフィシャル「Larks' Tongues In Aspic (太陽と戦慄)」の収録前ですから,ツアーの中で完成形に近づけていったというところでしょうか.
 MCとサウンド・チェックの後に演奏される30分弱の "Improvisations" は,導入部から全員が絡む構成で,Disc1のものよりは,テンポも速く,曲調が経過時間とともに変化していきます.後ろの "Exiles" がつながる形式ですが,"Exiles" が導入部しか収録されていないのが,残念です.
 特に "Improvisation" は約30分にもわたる圧巻の演奏で,この時期に多かった "Book Of Saturday" から引き継がれる "Improvisation" では無く,単独で演奏される "Improvisation" で,且つ 5人編成での即興演奏の醍醐味を極限まで感じさせてくれます.そして30分にわたる演奏を収録している故に,このCDのタイトル「Improvisation」を付けたのでしょう.

 余談ですが,元々マスターとなっているテープを録音したテーパーは,日本のレコード会社勤務の日本人で,1972年に英国に渡って収録したようです.裏話としては当時キング・クリムゾンのライブを,日本のみで独自にリリースする企画があったようで,そのサンプル音源として録音したものを持ち帰ったのだそうです.そこまで記載するとレコード会社がばれてしまいそうですが (笑)
 ただその企画はボツになり,このテープだけが独り歩きして,ブートとしてリリースされたようです.1公演を 1枚に納め,2公演で 2枚組のサンプルを作成しようとした関係から,各公演46分前後の収録なのでしょうか.(アナログLPは片面が23分前後しか収録できない)

 メーカー情報では
 『狂気のパーカッショニスト、ジェイミー・ミューアを含む、「太陽と戦慄」レコーディング・ラインアップ5人によって行われた1972年秋のUKツアーより、11月25日オックスフォード・ニューシアター公演と11月10日ハルはテクニカル・カレッジ公演の、それぞれショウ前半の約46分を収録。
 ヘヴィでダイナミックなバンド・アンサンブルに、ミューア&ブラッフォードのけたたましいパーカッション、笛、ドラムが鳴り響き、壮絶な音宇宙を展開していく様子を生々しい高音質で堪能することができます。ウェットンの説得力あふれるボーカルで歌われる未完成のBook Of Saturdayに続く、強烈極まりないインプロヴィゼーション・パートは、それぞれのディスクの最大の聴き所です。(オックスフォード公演では19分、そしてハル公演では、BOSからのメドレーではなく、強烈なパーカッシブなイントロを伴った独立したインスト・プレイが、実に29分に渡って繰り広げられます。)
 クラシカルな旋律からスタートし、ミューア大爆発のパーカッションの見せ場パートを挟み、幽玄から躍動に、強烈にそのサウンドの色彩を変えていく様は、全てのプログレファン必聴と言っても過言ではありません。音質がクリアーなだけでなく、サウンドバランスも素晴らしく、72年ツアーの決定版タイトルとして、全てのクリムゾン・マニアに自信をもってお薦めできるたいへん高品質な1枚です。』
との事.

Improvisation (Reel Masters-002)
 $cinnamonの音楽そしてときどき競馬予想-King Crimson - Improvisation
 Live At New Theatre, Oxford, UK 25th November 1972
 Live At Technical College, Hull, UK 10th November 1972

  Disc 1
  (New Theatre, Oxford, UK 25th November 1972)
   1. Intro.
   2. Larks' Tongues In Aspic (Part 1)
   3. MC
   4. Soundcheck
   5. Book Of Saturday
   6. Improvisations
   7. Exiles

  Disc 2
  (Technical College, Hull, UK 10th November 1972)
   1. Intro.
   2. Larks' Tongues In Aspic (Part 1)
   3. Book Of Saturday
   4. MC
   5. Soundcheck
   6. Improvisations
   7. Exiles(Intro Only)

  Robert Fripp: Guitar and Mellotron
  David Cross: Violin, Viola and Mellotron
  John Wetton: Bass and Lead Vocals
  Bill Bruford: Drums
  Jamie Muir: Percussions

 Larks' Tongues In Aspic (Part 1):Disc1
 
 Book Of Saturday:Disc1
 
 Improvisations:Disc1
 
 Exiles:Disc1
 

Larks' Tongues In Aspic (Part 1):Disc2
 
 Book Of Saturday:Disc2
 
 Improvisations:Disc2
 


[参考]
 1972 Tour Dates
  Oct
  13 Zoom Club, Frankfurt, GERMANY
  14 Zoom Club, Frankfurt, GERMANY
  15 Zoom Club, Frankfurt, GERMANY
  17 Beat Club T.V., Bremen, GERMANY
  29 Jazz Club, Redcar

 Nov
  10 Technical College, Hull, UK 
  10 Yorkshire Hull Technical College, Hull, UK
  11 University, York, UK
  13 Civic HallGuildford, UK
  14 Town HallWatford, UK
  16 Kings HallDerby, UK
  18 UniversityExeter, UK
  19 Festival Hall, Torbay, UK
  20 Guildhall, Plymouth, UK
  21 Pavillion, Weymouth, UK
  24 Essex University, Colchester, UK
  25 New Theatre, Oxford, UK
  26 Winter Gardens, Bournemouth, UK
  27 Winter Gardens, Malvern, UK
  28 Top Rank, Bristol, UK
  29 Capitol Theatre, Cardiff, UK
  30 Guildhall, Preston, UK

 Dec
  01 Greens Playhouse, Glasgow, UK
  02 Empire, Edinburgh, UK
  03 Hard Rock, Manchester, UK
  04 City Hall, Sheffield, UK
  06 Top Rank, Swansea, UK
  08 Odeon, Newcastle, UK
  09 Empire, Liverpool, UK
  10 Town Hall, Birmingham, UK
  11 Dome, Brighton, UK
  13 Rainbow, London, UK
  15 Guildhall, Portsmouth, UK