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シドニー大学の非常勤助教授であるジョン・リー博士による、「韓国の日本バッシングに伴う戦略的コスト」という分析レポートがとても興味深かったので、皆さんもぜひ読んでみて下さい。


I found the following analysis of the strategic cost of South Korea’s Japan bashing by Dr. John Lee, an Adjunct Associate Professor at the University of Sydney, to be fascinating. I hope you will read it and post any comments you may have.


The Strategic Cost of South Korea’s Japan Bashing:
http://www.businessspectator.com.au/article/2014/11/5/asia/strategic-cost-south-koreas-japan-bashing


Dr John Lee:http://sydney.edu.au/arts/government_international_relations/staff/profiles/j.lee.php



この情報を教えてくれた友人が翻訳した日本語訳を以下に載せます。
The Japanese language translation by the friend who gave me this information follows here.
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韓国の日本バッシングに伴う戦略的コスト



先週末、北朝鮮は弾道ミサイルを発射できる新しい潜水艦を進水させた。北朝鮮が、ソビエト時代の潜水艦に改造を加え、未だミサイルを搭載していないにしても、朝鮮人民軍はミサイル発射実験を数十回地上と海上で実施している。ここ数年、北朝鮮により複数回実施された核実験や、潜水艦から発射される弾道ミサイルに搭載できるほどの小型核弾頭の開発に向けて行われている研究開発に続くものである。もし、北朝鮮が核ミサイルを発射できる潜水艦を現実に開発すれば、この地域におけるアメリカ軍のほか、韓国や日本に対する既存の脅威を著しく悪化させるであろう。



韓国の戦略的思想家は、同国の存在に脅威をもたらす、核武装している隣国を最も懸念している。朝鮮半島の両国は、公式には依然戦争状態にあり、国境の両側に軍隊を駐留させている。しかし、北東アジアの中で、複雑でしばしば不条理な政治状況のもとでは、数週間前に私が出席したシンガポールのワークショップにおける韓国政府高官の発言が、ナショナリスト的感情がどれほど理解しがたいものであるかを端的に表している。その高官はこう言ったのである。「日本が核武装しない限り、中国が核兵器をどれほど保有しようが、北朝鮮がもっとたくさん (核兵器を) 開発しようが、韓国は気にしないだろう!」



韓国にとっての問題は、戦略的・政治的不合理性が、たとえそれが日本の帝国主義的行為に対する深く真正な歴史的痛みに基づくものであっても、コストがかかる可能性があるということである。このような力学により大きな勝利を収めるのは、明らかに北朝鮮であり、また中国である。中国は、日本が帝国主義的な歴史のことで絶えず困惑や屈辱を被るのを見て喜んでいる。大きな損失を被るのはもちろん日本であり、またある程度はアメリカである。アメリカは、北東アジアにおける同盟国である2 国間の敵対感情を取り持つ必要がある。



しかし韓国も、自らを苦しめることになるかもしれない。韓国は中国との安定した関係を必要としているが、日本についても、自らが考えているよりずっと必要としているのかもしれないのである。北朝鮮が本当に無謀なことをした場合には、戦略的利益よりも日本バッシングという人気取り政策を優先させるのは賢明な手段ではない。



なぜ韓国は、数百年にわたり朝鮮を定期的に属国にしてきた中国に対しては無関心に見えるのに、日本を憎悪しているのか? 大きな理由は、近代朝鮮のナショナリズムが前世紀における日本による朝鮮半島植民地化の時代に形成されたことである。もうひとつは、日本軍の「慰安婦」になるよう朝鮮人を強制し、だましたといった戦争時の行為に対し、日本政府・国民が十分謝罪していないと韓国国民が日本政府・国民を非難していることである。



こういった理由により、朴槿恵韓国大統領は習近平中国国家主席とは2013 年以降5 回、最近では2014 年6 月の北京における首脳会談で会談しているが、日本の安倍晋三首相との首脳会談へのオファーについては幾度も拒否している。



韓国国民の日本に対する現在の怒りが理にかなったものであるか、また、日本の帝国主義の結果大きな苦難を被ったマレーシアやフィリピン、シンガポールといった国々の国民や政府のように、韓国国民が60 年以上前に起きた出来事から気持ちを切り替えるべきかは、別の機会に議論したい。


しかし、一般韓国国民の日本に対する憎悪の深さや、この憎悪を政治的利益のために利用しようとする韓国政府の意欲は、軽視すべきではない。このような感情は、2013 年12 月に起きたばかげた出来事に示されている。このとき、スーダンの韓国平和維持軍は差し迫った脅威に直面し、銃弾の補充を求めて緊急要請を行った。日本の自衛隊が現地で同じ口径の銃弾を持っている唯一の部隊であったため、日本政府は直ちに自衛隊に対し韓国軍に1 万発の銃弾を引き渡すことを許可した。しかしその後、韓国国内で非難がまきおこったため、銃弾が返却された。このことが示唆するのは、日本に対する大衆の反感は、自国軍に十分な武力を確保しようとする気持ちよりも強いことである。



日本の影響範囲を広げようとする戦略的野心を持つ指導者である安倍晋三の出現が、韓国国民の感情を揺さぶったことには疑いがない。世論調査によれば、韓国国民は核武装を行っている北朝鮮によりもたらされる軍事的脅威よりも、想定される日本の再軍備を心配している。同様に、安倍首相指導下の日本を、習近平主席指導下の中国より不安視している。中国が急速に軍備を増強し、北朝鮮の体制や軍隊を保護し、物資を供給し、維持しているという事実にも関わらずである。



中国に関しては、次の事実に留意する必要がある。日本の防衛予算が過去10年のうち2 年を除いて伸びておらず、その伸びた年である、2013 年に0.8%、2014 年に2.4%の伸びが予想されるに過ぎない一方、中国の軍事予算は20 年間2 桁のパーセントで伸びており、2014 年の軍事予算は日本の3 倍の規模に達している。



日本バッシングは一次的に歴史的な傷を和らげ、政治的手段として役立つかもしれないが、それにより韓国は中国により利用されるがままの状態に置かれることになる。中国はアメリカの同盟国である両国の間に常に亀裂を生じさせようとしており、これはとりわけ、韓国と日本が敵対すればするほど、アメリカがアジアの同盟国との説得力のある、継ぎ目のない集団的戦略を考案することが困難になるためである。



この問題に関する中国の狡猾さを、ある一つの出来事が示している。2014 年1 月に中国は中国北東部の省都であるハルビンで朝鮮人の独立運動家・安重根を称える記念館を開設し、このような文脈で韓国のナショナリズムをたきつけようとした。1909 年に安は当地を訪れていた日本の政治家、伊藤博文をハルビンで暗殺し、その後、日本帝国政府により捕えられ、処刑された。記念館というアイデアは、朴大統領が2013 年中頃に習主席と首脳会談を行った際に行ったもっと控え目な提案 (安を追悼する記念碑を中国が作ってはどうか) をふくらませたものである。



日本は安を犯罪者と考えている一方で、韓国は彼のことを歴史上の国民的英雄と考えている。自国の領土内で外国人の英雄を称えるという異例の手段をとることで、中国も安を英雄と考え、上機嫌になっている。たとえ、中国の領土で韓国と日本の亀裂を公式に目に見える形にし、そして定着させることは、朴大統領の意図ではなかったとしてもである。



このようなポピュリスト的政策は、韓国の戦略的利益にかなわない。韓国政府が中国政府と共に、再三「集団的自衛権行使」を可能にするための、日本政府の憲法解釈の変更を非難していることを例として見てみよう。集団的自衛権とは、日本の利益が危機にさらされたときには、日本の同盟国を援護するために出動することを聞こえがよいように表現した言葉である。



総計120 万に達する北朝鮮兵の大軍が韓国を侵略した場合、アメリカ軍は北朝鮮軍を撃退するために多数の兵士や資産を必要とするであろう。このためには、アメリカはほぼ確実に日本の軍事基地を使用する必要がある。安倍首相が憲法解釈を変更しなければ、これは違法である。



さらに日本の安倍首相は、アメリカ軍が日米安保条約の条項に基づき他国を防衛するために日本の基地に配置されている部隊を使用する場合には、アメリカ政府は日本政府の明確な了解を得る必要があることを明らかにしている。このことが意味するのは、韓国がその継続的かつ最大の戦略的・軍事的脅威に対し反撃するためには日本の承諾が必要であるため、これ以上日本政府との争いを悪化させる余裕はないということである。



さらに広義に見れば、韓国が中国を比較的、好意的に見ているにもかかわらず、現実は、北朝鮮、中国の両国がこの地域におけるアメリカ主導の同盟体制が両国を抑圧するためのものであることを正確に理解したうえで、その有効性を弱体化させることを狙っているということである。



この両国が共同、あるいは単独勢力として持ち出すもののために、この安全保障体制の最重要項目は日米同盟となっている。いわゆる「平和」憲法にかかわらず、日本の海軍力と空軍力は依然、中国より上である。これは、日本が、アメリカ主導の安全保障体制に貢献でき、その体制において地域的バランスを形成できるほど強力なアジアにおける唯一の大国であることを意味している。



同盟体制が維持され、中国がアメリカの戦略的・軍事的優位を次第に浸食していくことに順応するのであれば、地域における主要な同盟国は、アメリカの安全保障上の負担をこれまでよりも多く引き受ける必要があるだろう。つまりは、永遠に無力で、韓国国民が後悔を続けるような日本を望んでいるにしても、韓国の戦略的利益に合わないということである。



最後に、北東アジアは、いわゆるアジアの世紀 (この言葉については、私を始め多くの著者がほとんど分析的・記述的価値をもたないと非難してはいるが) の中心点である。この世紀を何と呼ぼうと、北東アジアで目にしている混乱と憎悪はますます悪化している。


オーストラリアやアジア地域がアメリカの力を超越するべきであり、望ましいことではないにせよ、中国優位の必然性を受け入れることを望む者にとっては不愉快なものであろう。しかし、我々はこれまで以上に、当地域においてアメリカの力を必要としているようなのだ。