蟋蟀(菅原克己)
よなべ
ほら、蟋蟀の妻の、
さびしいミシンの音がはじまった。
秋がくれた夜なべしごと。
つかれた妻はもうねむそうだ。
とぎれとぎれにミシンを動かす。
るるる・・・るるる・・・。
時間
いつか、その短い生涯も老いてしまって。
時計の針のように
蟋蟀は自分の時をきざんでいる。
無限
ロビンソン・クルーソーには家来があり、
ガリバーにはふるさとがあった。
どんな所に行っても
人には世の中がある。
秋が終ると
お前はどこに出かけて行くのか、
部屋のすみの蟋蟀よ。