"フィメールはCOMA-CHI それともRUMI" とZEEBRAがラップしていたように、フィメールと言えばその2人しか名前の出てこない時代がありましたが、10年代に入って状況は変わり日本独自スタイルのラッパーが増えてきました。コンピレーションアルバム「G.I.R.L.S RAP」もリリースされたりと、今フィメールラップがアツいです。にも関わらず10年代なフィメールラッパーのまとめ記事があまり見当たらなかったので書いてみました。長いです。
■10年代フィメール代表的な10組
・泉まくら
文化系女子ラップとも呼ばれる、ウィスパーボイスが特徴的な術ノ穴所属のラッパー。ラップをしちゃう普通の女の子というコンセプトで、福岡在住ということ以外パーソナルな情報は公開せずに自分を押し出さないスタイルも新鮮さがありました。
・lyrical school (ex.tengal6)
6人組ヒップホップアイドルユニット。豪華プロデュース陣を揃えつつもtofubeatsとの相性は抜群で、「おいでよ」「FRESH!!!」などパーティー感ある完成度の高い楽曲を武器に新たな風を吹かせました。アイドルラップというのが正当に評価されるようになったのも彼女たちの影響だろうなと。
・ライムベリー
2人組女子高生アイドルラップユニット。オールドスクール~ミドルスクールヒップホップへのリスペクトを感じさせるサンプリングが印象的。特にECDネタの「まず太鼓」やスチャダラパーネタの「ウィンタージャム」などは日本語ラップファンも唸らせました。メンバー構成もそろそろ固めてアルバムを期待したいところ。
・水曜日のカンパネラ
ヤフオクCM出演でも話題となったつばさレコーズのヒップホップユニット。歴史ネタや脈絡のない言葉を並べたラップが奇妙な中毒性をもたらします。表にはコムアイしか出てきませんが、作曲を手掛けているケンモチヒデフミはhydeout productionからリリースしていたことでも知られています。ちゃぶ台返ししましょう。
・DJみそしるとMCごはん
レシピをラップする架空のユニットがコンセプトの通称おみそはん。あまりに緩すぎるスタイルに賛否両論ありましたが、「ジャスタジスイ」のインディ感は高評価を得ました。公私ともにアイドルと交流が深く、「あんかけ炊炒飯」ではねむきゅんをフィーチャーしてラップさせています。ナイス。
・嫁入りランド
10年代ユースパーティーシーンを牽引するガールズラップトリオ。雑談ラップスタイルでtofubeats以降とも呼べるパーティー感あるヒップホップをインターネットとクラブから発信。嫁入りランドとプロポーズ名義の「しあわせになろうよ」はアンセム。
・DAOKO
泉まくらと同時に名前があげられることの多い18歳のラッパーだをこめん。ニコラップでの投稿をきっかけにLOW HIGH WHO?からリリースをしていましたが、m-floとの共演が話題を呼び今年TOYʼS FACTORYよりメジャーデビュー。ウィスパーボイスなポエトリー気味のラップでオーバーグラウンドで活動しています。
・Charisma.com
エレクトロニックなサウンドに毒舌OLラップスタイルなMCいつかとDJゴンチによるユニット。MCいつかはメリヤス♀名義でソロやC.R.E.A.M. SODAZのメンバーとしても活動していたので古くから彼女を支持する声もあります。
・Moe and ghosts
異彩女性ラッパー萌とユージーン・カイムによるゴースト・コースト・ヒップホップユニット。メインストリームでもアイドルラップでもネットラップでもなく斜め上を行く彼岸のヒップホップ。こういったまとめにあまり名前をあげられるユニットではありませんが、10年代ヒップホップを語る上で外せない重要な存在です。
・RANL
アニメ生まれヒップホップ育ちの正体不明なアニメ声ラッパー。ねむきゅんや汐りんもフェイバリットにあげるほどの存在です。ビーフにはなりませんでしたがtengal6 (lyrical school) への喝入れソングを作っていたりもしました。実在するしないは置いといて、RANLの復活は切実ですよLBさん。
まとめ記事などで名前がよく出てくるのはここらへんですかね、なんとなく10年代っぽさは把握できると思います。関連するキーワードはアイドル、インターネット、サブカルチャー、2.5次元などなど。言わばラップにスキルは必要ないし、自分で歌詞を書いてなくてもいいし、実在しなくてもいいっていう独自の発展を遂げています。ではそれを踏まえた上でこれから要注目なフィメールラッパーをいくつかピックアップ。
■アイドルラップ
・校庭カメラガール
・chelmico
現在のフィメールラップにおいて一番盛り上がりを見せているアイドルラップシーン。長らくlyrical schoolとライムベリーの2トップ状態が続いていました (セールスの差はあるにせよ)。しかしポップミュージック全般に言えますが、オマージュ的サンプリング手法は廃れていく傾向にあります。
tapestok recordsの校庭カメラガールはオマージュでしかおもしろさを提示できなかった今までのアイドルラップを過去のものへと変えてしまう存在。1stアルバム「Ghost Cat」は様々なジャンルを取り入れつつ上の世代への挑発をも感じさせる素晴らしい一枚でした。年内に2ndアルバムもリリース予定と畳み掛けに来ています。
ミスiD2014のレイチェルと鈴木真海子 (Omami) による2人組ラップユニットchelmicoも要注目。TREKKIE TRAXのヒイラギペイジによるフューチャーベースなトラック、GOMESSとの絡みもあったりとすでにブレイクへのお膳立ては出来ています。
上記2組以外にもポストリリスクなHigh Touch Girls、ポチョムキンやSBKとの絡みもある双子姉妹ユニットMIKA☆RIKA、USAGI DISCO手掛けるようこす。辺りも期待できそうです。
サ上と中江のように地上でのアイドルラップや、EspeciaもNaughty By Natureばりの曲をやったりと、90年代リバイバルな流れもありアイドルシーンでヒップホップはさらに盛り上がることになりそうです。
■ネットラップ
・nera_k
・メガネ
ネットラップと書くと語弊がありますが、ネットレーベル、ニコニコ動画、SoundCloudといったツールを主に活用しているラッパーを。インターネットから数々の才能が出てきているので絶対現場主義という価値観が覆ってより幅広い才能が出てくるようになったのは良い傾向ですね。
以前から名前を出していますが、idler recordsのnera_kは直輸入なフロウとビジュアル含め大きくメディアにも取り上げられそうな逸材。延期している「Live. Love. Hate. EP」のリリースが待たれます。idler recordsの釈迦坊主とのコラボでも知られている大阪ミュウミュウも独自の世界観で、ニコラップだからこそ出てきたようなスタイルはこれからさらに化けていきそうです。
ダークホースとして注目したいのが噂の#トウキョウトガリネズミのメガネ。Franz Snakeプロデュースでソロ作やdizとの車線変更ズとしても活動中。妙に癖になる下手なラップが中毒性ありますね (褒めてます)。
TOKYO HEALTH CLUB擁するOMAKE CLUBのMCperoや、ポスト嫁入りランドな沖縄のmc ukudada & mc iknowにも注目。正直ここらへんのラッパーは突然リリースしたり活動休止したりと動向が読めません。daokoもボンジュール鈴木 (当初はニコラップタグで投稿) も凄まじいスピードで駆け上がっていったので見逃せないですね。
■メインストリーム系ラップ
・S7ICKCHICKs
・Pinkey
現場主義メインストリームなフィメールラップはCOMA-CHI / RUMI→COPPU / Seek→MARIA (SIMI LAB) / メリヤス♀ (Charisma.com) という風に時代が流れているそうです。
現場主義な流れだとその次に来るのは恐らくS7ICKCHICKsだろうなと。ISH-ONEの「NEW MONEY」リミックスきっかけで結成されたドリームチームです。グループ内ビーフとか起きそうでゾクゾクしますね。
個人的に推してるのは大阪の2人組REPWEBのPinkey。クラブを中心に活動しつつ、ピンキー (でんぱ組.inc) ソロ曲やUptown Funkをカバーという賛否ありそうなアプローチでも許せちゃうかわいくてゆるいキャラクターがgoodです。
RAP BRAINSのHAZYや、横濱LUVRAWのレーベルからリリースしているNOPPALも良いバランスで期待できそうですね。
現場といえば今はMCバトルの時代ですが、サ上とのバトルも印象的なNaomyや、高校生ラップ選手権に出場していたMYIYUなどはその中でも楽しみな存在。個人的に注目してるのは普通に見た目がタイプなシャルル。フィメールMCバトルも活性化すればおもしろくなりそうですね。
■その他
・イミシン?
・あっこゴリラ
その他カテゴライズしづらいアプローチのラッパーを。様々なカルチャーが交わり合うここが一番おもしろくなるところです。
まずはネオ渋谷系ドリームポップバンドのイミシン?。ここ数年トレンドになっているシティポップとヒップホップをクロスオーバーさせた売れる要素しかないバンドです。
バンド繋がりで言えば元HAPPY BIRTHDAYのドラマーでもあったあっこゴリラ。武井壮をリスペクトしているレペゼン地球の紙芝居ラッパーです。紙芝居をしながらラップしたり罵倒に出場したりと突っ込みどころしかないんですが、先の行動が読めず目が離せない存在なのは間違いないです。
その他にはスクラッチしない放課後のおしゃべりガールズユニットY.I.M、おみそはんをさらにチープにしたようなTHIS IS NATS、ラッパーではないですがポエムコアアイドルのowtn.も合わせてチェックしておきたいところです。
■まとめ
という感じでアイドルとインターネットとの絡みによって既存フォーマットに捕らわれない多様なスタイルのラッパーが増えてますよという話。キーとなるような名前はあげたかったので長くなってしまいました。
先述したラッパーは誰もが今後シーンを引っ張っていけるような逸材ばかりですが、やはりRANL以上の衝撃をもたらしたラッパーは出てきていないという意見で一致のようです。それを覆してくれるような存在にも期待しつつ追いかけていきたいと思います。長々と書いてしまいましたが、このまとめがフィメールのもしくはヒップホップの入口的なものになればなと。