bacho「最高新記憶」 | Rotten Apple

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[Japan,Rock/Emo]

01.さよなら
02.最高新記憶
03.ビコーズ
04.ショートホープ
05.いつかの約束
06.落葉(flashback)
07.高砂
08.これでいいのだ
09.自分抄
10.ドリームドランカー
11.孤独な戦い


趣味や娯楽としてではなく日々ライブハウスへと足を運ぶ人はぼんやりとした不安を抱え満たされぬ日々を過ごしているのだと思う。日々の不安を忘れさせてくれる非日常的な空間へ入り浸るけれど、そんなことをしても人生は進まない。いつになればこれでよかったんだと思える日が来るのか。こんなはずじゃない、きっとおれの人生もっと素晴らしくなるはずなんだ。今は気の合う仲間と音に酔って嫌なことを忘れよう。だけど本当は誰かにこのままじゃダメだろと焚き付けられるのを待っている。

姫路を拠点に活動するbachoの13年目にして初のフルアルバムは、ぼんやりとした不安を抱える全ての人の心を震わせる。日々の鬱憤を吐き出しながらも理想を追い求め、ネガティブ一辺倒じゃない "今に見てろよ" という強い思いが込められている。
サウンド的には激情ロックにカテゴライズされるんだろうけど、この聴後感はMOROHA神門のアルバムと似ている。男くさい歌声でスポークンワードのように言葉を吐き出し、日本語の表現方法を模索するような言葉遊びで心の深いところを突き刺す。百人一首や漢詩の引用、夢を諦めたバンドマンを描いたストーリーテリング、ネット社会への問題提起、朝帰りの景色、複雑な思いの絡まる地元愛、そもそもアルバム名こそ言葉遊びだ。

タイトル曲「最高新記憶」、各駅停車で進む人生も悪くないと思わせられる「これでいいのだ」、文学的描写が男くさい歌声とは対照的に美しい「落葉」はアルバムの中でも特に印象的。
歌詞を引用して語りたくなるアルバムではあるけれど全ては「さよなら」の "重なる一瞬の日々に輝く一瞬の火花 共に眺め、心震わせようじゃないか" という一文に詰まっているように思う。心震わせる言葉がこのアルバムには詰まりすぎてる。一時の楽しさに逃げている自分のことを恥ずかしく思えてくるくらいに。

音楽は逃避行じゃない。バンドマンは今夜も孤独な戦いを続ける。二束三文のmusicはいつしか回想の日々のBGMとなる。これでよかったんだと思える日が来るまで、最高の記憶は塗り替えられるのを静かに待っている。次にこの歌を雑居ビルの地下で歌うとき、きっと前より重く心に響くんだろう。夢の中じゃなくて遠い理想じゃなくて なりたいようになりたいなら 這ってでもいいからにじり寄っていくような今日を、明日を、あさってを。