Especia「Primera」 | Rotten Apple

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[Japan,Pop/Funk/Soul]

01.We are Especia ~泣きながらダンシング~
02.Interlude
03.West Philly
04.Sweet Tactics
05.シークレット・ジャイヴ
06.Skit
07.さよならクルージン
08.Security Lucy
09.Outro


"私は小さい頃から人前で歌うのが夢でした"。Especiaのアルバムがこんな歌詞から始まるだなんて誰が予想出来ただろう。味園ユニバースの煌びやかなステージがプリントされたCDを開けば、一昔前の洋楽アルバムを彷彿とさせるカタカナ表記のトラックリストに一枚もの歌詞カード兼ライナーノーツ。アートワークまでぶれないなと思えば上から目線のライナーノーツにイライラさせられる。今回もEspeciaには驚かされることばかりだ。

アイドルに大きな音楽的成長は望めないとは思わないし必ずアーティストへと脱皮していくものだとも思わない。ましてやアイドルはホンモノの音楽への入口でも踏み台でもない。パブリックイメージ通りのご期待に添えなくて申し訳ないが、多くの方が様々な音楽ジャンルを経た上でEspeciaへたどり着いたはずだ。逆に言えば先述したような先入観を壊してくれたのが彼女達だったように思う。
Pharrell Williamsが仕掛けた「Get Lucky」や「Happy」に代表される80's ディスコファンクやブラックミュージックテイストをEspeciaはそれより前から取り入れていた。SoundCloudで全音源のフルストリーム、OTOTOYでのフリーダウンロード、カセットテープVHS、ライブ動画撮影OKなど数歩先を行くアプローチで聞き手を翻弄。何より「アバ銀」のMVを観てVaporwaveだと反応し、新曲が公開されれば即座に元ネタを探し当てるような"真の音楽ファン"がメインの客層なのだ。現場で加速しインターネットで拡散されるコンテンツとして虚構的な大人の悪ふざけに各々意図的に踊っていた。バブルをリアルタイムで過ごした存在としてベタなドルヲタとして。

本作「Primera」に対する不安要素はその悪ふざけがメジャーでも続けられるのかという点のみだったが、先行公開された「We are Especia」はその不安を煽るには十分すぎる曲だった。コンテンツとして完成されている彼女達にとって、物語性や心情吐露なんてものはローコンテクストで、絶大な信頼を寄せていた運営への揺らぎと受け入れられると信じていたメンバーの戸惑い含め否定的な意見がTLに飛び交っていた。
運営の悪ふざけに良くも悪くも振り回され背伸びしてアーバンな曲を歌う彼女達は果たしてEspeciaを自分達のグループだと思えていたのだろうか。曲が良いとかプロモーションがおもしろいという言葉を耳にする度に置いてきぼりされる感覚を味わっていたのかもしれない。メンバーも共にEspeciaというコンテンツを楽しむため、そしてこの5人で続けていくんだと決意してもらうためには自らと向き合いそれを共有することが必要だったのだろう。この曲はライブで披露される毎にフロアに受け入れられ、メンバーひとりひとりを尊重しつつ憂いをバカ騒ぎでかき消すようなパーティチューンへと成長していった。ただのEspeciaだいすきおじさんだった若旦那の人柄によるものもあるだろう。

その後は期待通り以上のEspeciaサウンドが用意され、前作からも予想されたようにより90年代へとシフトしている。海外サイトでも話題となったボイトレ先生Rillsoulによる「West Philly」は「Foolish」のアップグレード版なイメージのメロウチューン。この曲のドラムはぜひバンドで聞いてみたい。続く「Sweet Tactics」も同系統のジャズファンク。とても20代の女の子に歌わせるために作ったとは思えない黒さ。
ドバイのトイレをイメージしたMVも話題の「シークレット・ジャイヴ」は、前作でも「くるかな」を手掛けたマセラティ渚によるスウィートなフュージョンポップ(タイトルはCASIOPEA意識?)。銃声の後に続くLUVRAWによる「さよならクルージン」はレイドバックしたウエッサイG-FUNKを意識しているとしか思えない。もはやお得意技の80'sシンセポップ「Security Lucy」はより歌唱力の増したリードボーカル2人のVS的構図が素晴らしい。
前作よりも黒さと統一感をアップグレードした挨拶代わりの素晴らしいミニアルバム。結局は紙切れにすぎなかったライナーノーツに書かれていたホンモノの音楽とは何を指しているのかはわからないが、恐らくルーツ(元ネタ)を知れということなんだろう。ならば逆に最先端をちゃんと知れと返したい。今の国内音楽シーン最先端を走ってるのはEspeciaだ。

個別インタビューなどメンバーひとりひとりがフィーチャーされることも今後増えていくだろう。最初はコンテンツ的おもしろさに惹かれEspeciaを追いかけていたけれど、いつの間にか人として5人を好きになってしまったのかもしれない。清水さんが言っていたように人がやってる限り続けるだけで物語は生まれるのだ。涙ながらに人前で歌うのが夢だったと語る彼女達の夢が少しでも長く続くことを、そして脇田もなりちゃんの幸せを願ってやまない。