おしゃれで洗練された映像、美しい登場人物たち。ロンドンの風景を背景に繰り広げられるサスペンス、ですが！ 描いているのは、ほかでもない男と女の"業"と"運"。深読み加減次第で見方が変わるウディ・アレン監督作、
『マッチポイント』です！
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アイルランド人青年クリス（ジョナサン・リス・マイヤーズ）はプロテニス選手をやめ、ロンドンで会員制テニスクラブのコーチとして働き始める。レッスンに来ていた若き英国紳士のトム（マシュー・グード）と親しくなり、その妹クロエ（エミリー・モーティマー）と付き合い始める。兄妹の家は、ロンドンでも有数の実業家・ヒューイット一族。上流階級とのコネクションをつかんだクリス。しかしある日、ヒューイット家のパーティで、女優を目指すアメリカ人女性ノラ（スカーレット・ヨハンソン）と出会い、その官能的な魅力に取りつかれたクリス。しかしノラはトムの恋人だった。成り行き上、クリスとクロエ、トムとノラのカップルはＷデートを重ねるのだが…。
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男の弱さ。女の身勝手さ。もう、男も女も、本当にしょうがない生き物！ ウディ・アレンの愛に対するシニカルな視線が冴える作品です。その分、好き嫌いは分かれるかも！
全編ロンドンロケという映像は、落ち着いて洗練されていて、ちょっぴりスノッブ。人物のセリフのやり取りや動きも、ウディ・アレン監督らしく無理や無駄がなく、自然。冒頭からしばらくは主人公クリスとともに、ロンドンでの都会暮らしと、上流階級を友人に持つ生活を楽しむことができます。
しかし、ウディ・アレンの策士っぷりは、ついさらりと聞き流してしまいそうな自然な会話のなかに隠れているんですよね！
ストーリーの進行に関係のない、何気ない会話。たまたま会った友人との挨拶での、さりげない一言。観る者がこれを拾うかどうかで、この作品の奥行きはまったく変わってくるはず。
たとえば、あるシーンでは会話のなかで「結局は運が人生を決める」と発言する主人公ですが、別のシーンでは偶然会った友人は主人公に「あの頃からお前はの試合運びは手堅くて…」と言われている。一見さほど重要に思えないような一場面ですが、よく聞けばこのふたつのセリフで提示される主人公のキャラクターには、なんとなくギャップがありますよね。
この違和感が、非常にシニカルなラストシーンに繋がっていく。そこで初めて「あぁ、そういえばあのセリフ…」となるわけです。
映像的なメタファーも利いています。
テニスコート。ラリーが続き往復するボール。ネットに引っ掛かり、どちらに落ちるか、それは運次第…という予言的シーンから、物語は始まります。
元テニスプレイヤーの主人公が、上流階級出身の明るく健気な妻（劇中で結婚します）と、コロラド出身の女優の卵のあいだで、コートを行き来するテニスボールのように行ったりきたり。不妊治療に励む妻からは朝から妊活を迫られ、愛人からは女の激情そのものをぶつけられ…。
醜く打ち返されながら往復する姿が滑稽で、でも本人の必死さが悲しい。男ってしょうがない！
そして、両極端とも言える妻と愛人。最初から最後まで"育ちの良いカワイイ女"を貫き通す妻役のエミリー・モーティマーと、イメージ通り蠱惑的な女を演じるスカーレット・ヨハンソン。
カワイイ女は何だかんだシタタカで怖いし、蠱惑的な女が度を過ぎればただの直情径行で怖い。女もやっぱり、しょうがない！
加えて、リッチで鷹揚、上流階級の模範のようなヒューイット家の面々。後で考えれば、おそらくすべて気付きながら飲み込んでいたような…。これまた何気ないセリフで出てくる、カワイイ女・クロエの過去の失恋話のことを鑑みると、もしかしたら、すべてはクリスをヒューイット家に留めて理想の一家を築き上げるための"見て見ぬフリ"、建前だったのかも。
ウディ・アレンが敢えてこの作品の舞台をロンドンにしたのは、こうした「建前」文化を裏テーマにしたかったのではないか、と思うのは、うがった見方でしょうか。
ラストは、とっても皮肉な寓話のようで、「そう来たか～」と、思わず溜息とともにニヤリ。
とは言え、お話そのものはシンプルなので、同じプロットで他の監督が作ったらきっと全然違う作品になっていたはず。
ウディ・アレン監督の男性観・女性観と、卓越したクリエイティビティがあってこそ、ちょっと苦笑いしてしまうような、シニカルなコメディ要素のある作品になっています。
ウディ・アレン監督作は『ミッドナイト・イン・パリ』（PPV）も配信中。こちらは大人のファンタジーで、ストレートに素敵なお話です。
あわせてお楽しみください！
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