おうちの味 | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

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 我が家では、爪の垢ほども脳みそがないと認定されただんご。
 でも、優しく人なつこく我慢強いのが美点。
 子どもたちにいじられてもじっと相手をしてくれる。

 うちは、お釜でご飯を炊いている。
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 自動炊飯器のように、好きな時間にご飯が炊きあがるような便利さはないが、ひとつだけ、美味しいものができる。
 それはおこげだ。
 うちでは夫もお釜でじょうずにご飯を炊くのだが、上手すぎてすべて真っ白いご飯、おこげはできない。
 私はがさつなので、必ずといっていいほどおこげができてしまう。
 しかし、このお釜の底のおこげをこそいで、おしょうゆをたらして塩むすびにすると、ほんとうに香ばしくて美味しい。
 私の好物だ。
 私の子どもの頃は、自動炊飯器が普及する直前で、母はよくおこげでこうしておむすびを作ってくれた。これが欲しくて、私と妹は、ご飯が炊きあがるたびに「おこげない?」と、母につきまとった。
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 あれから40年。
 うちの子どもたちも、おこげのおむすびが大好きだ。
 私がご飯を炊くときには、必ず「おこげできた?」と、聞く。
 それまでは、おこげができないようにこまめにガスの火を見ていたりしたが、このごろは、わざとぞんざいに炊く。
 「おこげおこげ」と、できた塩むすびは奪いあいで、私の口にはひとつぶも入らない。
 子どもは、こういう素朴な食べ物が好きな生き物だ。
 サンドイッチを作るときに出る、パンの耳も大好きだ。
 あの、ちょこっとだけバターがついていて、ハムや卵の切れはじがわずかについているものが、美味しいのだ。
 私も子どもの頃、サンドイッチのパンの耳も好きだった。
 そういえば、太巻きのはじっこも子どもの好きなものだ。
 おうちで料理するときに出る、あまりものや切れはじをつまみぐいする子どものぜいたく。
 こういう食べ物が、意外に一生の記憶に残るのだ。