麻生首相がダボス会議で、世界経済再生に日本が主導するだの、アメリカの過度な消費を批判するだの、偉そうな演説をしたそうだ。

いろいろなものの見方があるだろうが、私は、現在の不況の原因はアメリカの過度の消費のファクターは小さいと思っている。日本のバブルのころを思い起こしてもらえばわかるが、あのころ、たとえば自宅の土地にペンシルビルを建てて、のちに借入金が担保割れした人たちは過度な消費や過度な借り入れをしていたわけではない。そうではなくて、土地の値段が上がっているという錯覚にしたがって、その範囲で消費をしていたのだ。要するに土地の値段が上がるという錯覚のもとにアメリカ人が消費をしていたわけだし、金もないのに金を生む、証券化やサブプライムを含めた、ねずみ講に世界がだまされたからだろう。

こんな消費不況がきていて、無理にでも、消費を産み出そうとオバマが莫大な経済対策をしているのに、日本は実は国債の発行にしても、税収が減った分だけ国債を発行するなど、まともな需要を増やそうとしていない。

第一、確かに日本は莫大な個人金融資産をもっているが、これをよその国のために使って、デフォルトでもされたらどうするのか?もちろん、銀行に金を預けていては危険だと思わせて、多少、預金を引き出させる効果はあっても、それが消費に回るとは限らない。

いずれにせよ、この消費不足の折に、消費が悪だと思う発想があるから、従業員の首切りをバカバカやって、さらに消費を冷え込ませている。

私が頭がいいとは思わないが、なぜ日本の政財界のえらいさんは、その程度のことに頭が回らないのだろうか?それと比べるとアメリカの、とくに政治のトップレベルの人間の知的レベルの高さはきわだつ。

実は、私は、今、日本の学歴社会の将来の本を書いている。この学力低下と国際化の波の中で、私は日本が学歴社会化する(もともとは実は学歴と収入の相関が世界でももっとも小さい、学歴社会でない国である)と見ているからだ。

しかし、ふと最近、日本が本当に学歴社会化はしないようにも思えてきた。

トヨタを見ればわかるように、学力の高い人間を優遇する社会にしてしまうと、世襲が難しくなる。政治家などはなおのことだ。

これで勉強をしている人間を優遇しないまま世襲社会が続くと、子供はよけいに勉強しないで、優秀な人材も欧米に流れていくことだろう。マルコス時代のフィリピンがそうだったように。

優秀な人材が外国に流れるのは、税金が高いときより、世襲で努力しても偉くなれないときだ。日本だって戦後の税金が高い時代に、企業の人間については、ほとんど頭脳流出していないが、教授がいばって、若いうちにろくな研究ができないから基礎研究の分野はずいぶん頭脳流出した。税金の高さより、ヒエラルキーのほうが、優秀な人間は毛嫌いするのだ。

アメリカではオバマの当選後、マイノリティの人間が、勉強すれば偉くなれると、勉強の機運が高まっているという。日本はトヨタが大政奉還と喜び(これまでの豊田家出身の経営者はすべて名古屋大学か東京大学の卒業生だが、今回の新社長は世襲の象徴の慶応大学卒である)、首相を含め大臣の3分の2が世襲だ。

少なくとも、世襲社会と学歴社会が、どちらがましかは考えたほうがいい。前者のほうがましと思っているから、世襲議員が当選を重ね、寄付をろくにしないセレブがバリバリバリューのような番組で崇め奉られるのだろうが。