触れよう触れようと思いつつ、触れなかったことに、兵庫県知事の舌禍事件がある。1週間のニュースの総ざらいのような番組でまたたたかれていたから、多少は同情したい。

東京なり、関東に大地震があれば、関西のチャンスというのは、確かに東京側の人間からすれば、不謹慎きわまりない許せない発言なのだろうが、「気持ちはわかる」

少なくともメディアをすべて東京が抑えている。テレビのキー局がすべて東京にあり、新聞社の本社も中日を除くとすべて東京が本拠の体制では、東京の価値観で世の中が動く。

その証拠に小泉首相以来、ずっと子供のころから東京で教育を受けた人間が首相になる。東京人の気持ちとシンクロしないとマスコミの受けが悪いからだろう。かくして地方の立場はすっかり無視される。

選手が自分の自由を主張すれば、お金のあるチームや東京のチームに人が集まるのが当たり前なのは、地方の医者不足をみればわかることなのに、広島カープが弱いのは経営が悪いからということになる。地方が、たとえば東大に入るような優秀な人材(地方の金で育ち、教育を受けている)を全部東京にかっさらわれていても、東京から地方に交付金を与えるのは、たかり扱いをされる。飲酒死亡事故の減少数(200件かそこら)より、それによって客が激減した地方の飲食店の経営者の自殺や、自宅で酒を飲むようになったためにアルコール依存に陥った人のほうがはるかに多いかもしれないのに、事故を起こしていない飲酒運転の厳罰化は「絶対善」のように語られる。

こんな東京メディアの横暴に対して、兵庫県の知事もただ謝るのではなく、「確かに不謹慎かも知れまへんけど、ほかにどうやったら関西が東京に逆転できるか教えてくださいよ」とでも言ってほしかった。

実際、現行の制度が続く限り、私は今後30年のうちにカープが優勝することがないと思っているのと同様に、地震がない限り、東京一極集中が終わることはないと思っている。地震があっても、その間に、たとえばテレビのキー局のようなさまざまなインフラが地方に分散しない限り(たぶん兵庫県知事は、地震のあと、しばらくはテレビが大阪の準キー局から全国に流される体制を期待したのではないか)、すぐに東京の天下に逆戻りするだろう。

逆に言えば、東京一極集中の弊害を解消するには、地方に金をまくより、地震がなくても、東京集中の原因になっているインフラを政治の力で地方にばらすしかない。テレビのキー局しかり、3大メガバンクがすべて東京に本社があるのも異常だし、東京大学だって東京にある必要はない。ハーバードはニューヨークからすると仙台くらいの位置にあるし、ワシントンDCからすると北海道の果てにある。がんだって、緊急手術はないのだから、がんセンターや癌研を地方の広い土地に作れば、はるかに環境のいいホスピスも併設できる。

東京人の発想で、地方の人間の失言をたたくのは簡単だ。しかし、識者と称するテレビのコメンテーターや新聞の言論人にこの手の共感能力や、その発言の背景を考えようとする姿勢がないことのほうがはるかに問題ではないか?

少なくともいえるのは、地方経済がだめになり、土建屋もだめになると、パチンコ屋くらいしか、地方の政治家や地方のメディアのスポンサーになれるところがなくなるから、パチンコ屋の税務調査も進まず、換金が合法か非合法かの論議が進まなくなって、北朝鮮の思う壺になるのである。