戦士よ、機械を顧みる勿れ
只進め
これ勝利への道なり
フォッシュ元帥

帝國ノ犬達-シトー

4年前の記事の修正分です。

東洋發聲
昭和11年公開
原作及び總指揮 陸軍歩兵少佐町田敬二
企畫 志摩忠兵衛
脚色並監督 山根幹人
軍犬監督 遠藤鉦太郎
撮影 石川東橘、笠間英敏
演出 川出秀治
装置 内田昌太郎
効果並現像 精巧キネマ商會
選曲 江口夜詩
録音 東洋発声映畫株式會社
後援 社團法人帝國軍用犬協會

帝國ノ犬達-チラシ

出演
近藤軍曹 竹内良一
太田上等兵 城多二郎
志村上等兵 田子明
通信兵 林寛、木島要之助、曽我修
村木特務曹長 近藤伊予吉
敵軍將校 高石明
令嬢 藤田陽子
友達 瀧川玲子、石井華子
看護婦 三島洋子
援助出演 日本學生映畫聯盟

エキストラ 千五百名
軍犬エス 陸軍大將荒木貞夫閣下愛犬 シトー・フォン・ニシガハラ
軍犬ドル 帝國軍用犬協會所有犬 カルメン・フォン・デル・ぺーテルシュティルン
 

帝國ノ犬達-竹内良一

●竹内良一とシトー(シートではありません)、カルメン。

この映画の撮影が始まる前のお話。
ある日、帝国軍用犬協会第一軍用犬訓練所を一人の男性が訪れます。
訓練所に預けられていた荒木陸相の愛犬「シトー」を映画に出演させたい、と依頼する為でした。
男性は映画監督の山根幹人。
彼は、軍用犬の活躍を描く映画を撮影しようとしており、全国の展覧会で軍用犬実演を披露しているシトーの名声に目を付けたのです。
この時、シトーはジステンパーが治癒したばかりの病み上がりでした。
監督は、「静養中なので無理だ」と渋る育成所側を説き伏せます。熱心な頼みに訓練所も折れ、同所属犬カルメン号と共に出演が決定します。
シトーとカルメンの役名はドルとエス。奉天独立守備隊第2大隊所属のドル、エス、ジョンをモデルにしたのでしょうか?

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

映画の主演は竹内良一。妻の岡田嘉子と共に愛犬家であり、蒲田撮影所内で軍用犬クラブを結成するほどでした。(映画上映から2年後、岡田は愛人と共にソ連へ亡命してしまうのですが)。

心配されたシトーの体調も問題なく、撮影は順調に進みます。
唯一の問題は、負傷したエス(シトー)が脚を引きずるシーン。
シトーにその演技は無理と判明した為、仕方なく代役のシェパードに注射を打って撮影しました。
映画館でその場面を観た荒木陸軍大将は、「シトーに傷を負わせて撮影したのでは?」と心配していたとか。
 

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ


(あらすじ)

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

廣荘な邸宅―洋風の感じのよい令嬢の部屋から、静かにピアノの音が聞こえて來る。
「今日は」とお友達の声。
「あら、いらつしやい」
「お芽出たう、赤ちやんが生れたんですつてね」
「えゝ、とつても可愛いのよ。みせてあげませうか」
「ええ!」
「でもね、ことによると今頃ねんねしてゐるかも知れないから静かにしなければ駄目よ」

母親の乳房に縋り、静かに乳を飲んで居る仔犬達!彼等の未來に榮光あれ!

「まあ可愛いわネエ!ねエ、私達のベビーちやん、今の中に決めといてよ」
「ええ、所がね、今ん處決められないのよ」
「どうしてよ」
「でもね、もう少し經つと乳離れがするでせう。さうしたら此の中で一番強さうなのを選んでワレラの皇軍に献上しようと思つてンのよ」
「まあ、犬の兵隊さん?素敵ネエ。私達のベビーの兄弟が戰場の勇士になるのよ」
「それでは皆さん、我等がベビーの兄弟の爲めに乾杯致しませう」
「OK、我等が愛すべき犬君の爲に、乾パーイ」

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

仔犬は成長する。グングンと春の日の筍の様に、乳離れがして、皇軍献上の選抜試驗の日は來た。
春光はうらゝか!陽炎も、若草も白い光にもえる。
「ヨーイ……ドン」
走り出す仔犬達。決勝戰へと急ぐ令嬢。見よ一頭、グン〃抜いた。走る〃、首をちゞめて、應援の聲は耳を聾するばかり。
「あら!エスよ。まあ、エスは偉いわねえ」かうしてエスに月桂冠は下すた。洋々乎たり彼の前途!
エスは成育した。健やかに而も雄々しく、人間ならぬ彼にも、オクニの爲めに、身命を賭す機會は與へられた。
幸なるエスよ!
彼はやがて滿洲の野に出征し、驚天動地の働きをなす日が來るであらう。令嬢は彼の爲めに國旗を縫つた。

―大連航路の船―
風に翻る日章旗。エスは吠える、玄海の荒波に。

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

↑映画の場面と、そのシーンの撮影現場↓

戦線に吠ゆ


―戦場―
見渡す限り高粱畠。青白い月は千古に變らず鐡路に冷い。
エスと軍犬ドルを曳いて鐡路に立つ二人の兵士の影。
「南滿洲の秋か!」
「丁度一ヶ月ですね。日本ぢや紅葉が散つてゐる頃だ」
「もうそんなになるかなあ」
軍曹はふと鐡路に沿つて架設してある電線を見る。
「かうして毎日警戒して歩いてゐると、鐡路も電話線もまるで生き物の様な氣がする。譬へば可愛い子供の様な……」
「さうですね」上等兵も感慨無量。
「ウー」突如異様な物音にエスの耳が動く。
「ウウー」ドルも亦、彼方の木立を凝視する。暗黑な木立の中を漏れる月光を横切る怪しい人影!
軍曹は静かにエスの首を押へ首輪を外し、低く強く座れ!と命令する。
「誰か」と軍曹の聲。
サツと矢庭に身を翻して逃げる〃!匪賊は懸命。
「オソヘツ!」彈丸の如く二つの黒い影は飛出した。後姿を見送る軍曹等。やがて犬の叫びと人の悲鳴、軍曹も亦駆け出した。
地上に投げ出された色々な道具、最後に電線切斷器具を軍曹は取上げた。
「線路ですか」と上等兵。
「いや電話だ。……だがあはよくば線路もやるつもりだつたんだ、畜生め」
近藤軍曹はフト血みどろな姿で得意然と控へて居るエスとドルに気付き「オー、でかしたぞ戰友」
二人はハンケチを取り出し静かに犬の血のりをぬぐつた。
「ウウー」
 

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ
 

かくしてこの両犬の功による我國の勝報は故國の九千萬同胞の許に、新聞社の輪転機を通じてもたらされた。
令嬢の喜びや思ひやるべし!
やがて情緒テンメンたる手紙と慰問品が、エスと近藤軍曹の下に届いた。しかし平和の日はまだ〃遠い。

第一線の塹壕内で攻撃命令を待つ兵士達の話題はいさましい。
「もうそろ〃攻撃準備の命令がありさうなもんだがなあ……、おいまだ何とも言つてこないか」
「うん、まだだ」と通信兵。
「電話線でも切れてゐるんぢやないか」
「大丈夫だ」
「一寸調べて呉れ」
ベルの音がしてAは電話を聞き始めた。
「誰だ、お前は。うんさうか。少しうるさいぞ。命令があつたら俺の方で一分の猶予もなく知らせるのが俺達の任務だ。あせらずに今の中に精々英氣を養つて置け」
ガチリと電話は切れた。
「大分みんな張り切つてゐるな」と哄笑する近藤軍曹。
敵の陣地よりは突然機關銃の方向が変へられ、猛烈に彈雨は浴びせ掛けられた。砂煙をあげて砂嚢へめり込む敵彈。濛々と立上がる砂塵。
「敵も大分張り切つてるぜ」と兵の一人。
「まあ今の中に精々むだ彈でも射つといて貰ふんだな。奴等は兵隊さんと云ふより彈打ちの手間取りに雇はれてゐるつもりなんだらうよ」
「はつはつはあ、彈打ちの手間取りはよかつたね」
「おい、それはさうと一體どうしたんだい、誰か行つてもう一度様子を聞いてみろよ」と一兵士は頷き電話に手を掛けた。
「ところがね……エゝ、それは判つて居るよ」
「何を聞いてゐるんだ」
通り掛つた將校は凡そ電話の内容を察して笑ひ乍ら云ふ。
「あつ、隊長殿ですか。本隊から攻撃準備の命令が中々出ないので、只今様子を聞いて居る處であります」
「拠點へ聞いても様子は判らんよ。ドレ一寸貸してみろ」將校は電話に掛る。
「お前は誰か?お前は誰かと聞いてるんだ。ナニ?わしか、わしは第三小隊長だ。はははつは恐縮しなくてもいゝよ」

かくして待ちに待つた攻撃命令は下つた。エスも勇躍した。兵士も腕をさすつた。
滿洲の寒風がエスとドルの鼻づらを撫でる。

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

「おや。おい、もう一度電線を調べておけ」
「はつ」
二個の中その一つにかけてみる。
「はい、異状はありません」
他のもう一つにかける。手應へがない。
兵士の顔は急に曇り、更にかけ、はつとする。
「軍曹、斷線であります」
「えゝ、どつちだ」
「第一線であります」
「とう〃やられたか」と一寸考へ「何か出してみろ」
一人の兵士がソーツと亀の子の首を出す様に塹壕の外に自分の鐡兜を出す。途端に猛烈な機關銃の乱射、鐡兜は心あるものゝ如く銃の先より轉落する。
軍曹悄然とする。
「仕方がない。どうせ總攻撃は夜中だらう。日の暮れるのを待つて保線するんだ」
チリン〃と電話の音。兵士受話器を取る。
「軍曹殿、大隊本部から電話であります」
「よしツ」軍曹受話器を取る。
「近藤軍曹であります。はつ、はつ、今夕六時を期して夜襲を…、第一線、フウン、はつ、第一線へは慥かに、軍曹責任を以て慥かに傳達致します」
暗然たる軍曹。陣中皆緊張して軍曹を凝視する。
「あと三十分」
突然兵士すつくと立つ。
「軍曹殿、私を保線にやつて下さい」
軍曹は答へない。
兵士の顔は必死だ。「軍曹殿〃、我軍の危機です。總攻撃が…、やつて下さい」
殆んど手を合さん許り。
「いかん、動くものは蛆蟲さへ見逃さぬ敵の機關銃、一間も行かない中に蜂の巣の様にされるのは判り切つた事だ」
「軍曹殿、お願ひです」
「いかんといつたらいかん。おー、さうだ、太田、エスだ、エスが居る。エスをやれ」

上等兵は思はずドルを引寄せ「ドルを先にやつて下さい」
「さうか、ではドルの胴輪へ電線の先を結びつけろ」
「ワン〃」エスの顔は不服さうだ。
「ドル、大使命だ。しつかりやれ」
「ドル、それでは訣れだぞ」
上等兵は静かにドルの頭をなで、水筒の水を口うつしに飲ませる。
ドルは飛出した、彈丸の如く。突如起る一斉射撃の音、一つの黒い影はこけつまろびつ、彈丸の中を走る。
ドルの周囲で盛に彈丸が炸裂する。漸く橋の袂迄たどりついたドル。
ドルの橋を渡り終るや、炸裂する地雷火。絡車の廻轉が止つた!
「あゝ、駄目だ。やられた」
塹壕内の太田上等兵顔を覆ふ。近藤軍曹電話線をさぐる。手應へなくズル〃とよつて來る。
蒼白の太田上等兵、何を考へたかスツと立ち上り、ドルの首輪を抱くや一目散に飛出す。
「待て太田、危いつ!」
云ふ間もあらばこそ、瞬時に起る一斉射撃の音。バツタリと倒れる上等兵。
「あゝ、いけない。やられた、太田までも」
「よしつ、小林、お前は向ふの端から鐡かぶとを一つ出せ」
鐡かぶとは出された。それを的に射撃する敵兵。その間に反對の側から飛出した近藤軍曹、あぶない、と叫ぶ間に太田上等兵を抱へ、塹壕へかけ入る。
「軍曹、大丈夫ですか。お怪我はありませんか」
「うん俺は大丈夫だ。太田がひどくやられてゐる。早く手當を。どうだ太田は」
「駄目です」兵士は力ない。
「さうか、あと二十分。さうだ、エスをやれ」
「軍曹殿、上等兵は最後に、もしエスが倒れたら俺の身を彈よけにして前線へ行つてくれと云はれました」
軍曹の目には白い雫が光る。

「太田、はかない一生であつたなあ」
エスの頭を輕く叩き、「エスよ、お前が斃れたら、今度は俺の番だ」
エスの顔も心なしか暗い。
第一線では、いつ迄も連絡のつかないのに、氣をもむ。
近藤軍曹淋しく、而し強く云ふ。
「エスよ、しつかりやつてくれ。お前が死んだら俺も後から行く。しつかり頼むぞ。それでは暫く、いや、これが最後かも知れないが、行けつ!」
エスがドルの通つた道を行く。彼も亦ドルと運命を同じにするのであらうか。エスも亦河を渡つた。
敵も亦あせり氣味。機關銃の方向は変へられた。河を泳ぎ渡るエスの身辺に盛んに彈丸が集中する。
次第〃に電線はほぐれて行く。エスは奮戰の功空しからず漸く向ふ岸へ辿りついた。
一度ズブ濡れの體を武者震ひして、又走る〃。心ある人の如く。
「おゝ河を渡つた。あと百米」
絡車を見守つてゐる軍曹は固唾をのむ。
走り行くエスの身に集中する機銃彈、アツ!絡車の廻轉が止つた!
塹壕内でハツとする一同。だが敵の射撃のゆるんだ時、切株の影に愛すべきエスは頭をムク〃動かして居た。
時分はよしと又サツと飛出して行くエス、もうあと二十米。頑張れエス!フレ〃エス!
河向ふではエスが一方の足を引摺り〃喘ぎ乍ら進んで行く。敵の機關銃は火を吹くばかり。絡車がパタリと又止まる。
又少し動き出して又止まる。
「とう〃殺られたか」と近藤軍曹。
「畜生、よしつ、五時三十分、もう駄目だ。絡車を出せ、俺が行く」
「軍曹殿、私を」と一兵士坂本。
「いかん〃、わしが倒れたらお前が行け。お前が倒れたら小林、小林が駄目なら次の者。命の続く限り、人の続く限り。やつて〃やり抜くのだ」
小林泣きながら電線をたぐりよせようとする。
河向うで倒れて居たエス、電線の刺激にハツと我に返り、今度はニ本の足を引摺り乍ら地面を這つて行く。
塹壕内では動き出した絡車に気付く。
「オヤツ、軍曹殿、エスが、エスが」
「なにつ、おゝ、エス、エスの最後の努力だ」
全身鮮血に染まり乍らぢり〃進むエス。敵の將校又必死、双眼鏡から眼を離し、機關銃のそばへ行き、射撃手を退け自らエスをねらふ。
絡車止る。サツと立上る近藤軍曹、別の絡車の電線の先を身につけ右端へ行く。
「軍曹殿、エスが、エスがまだ生きて居ります」と震へる坂本の聲。
「今度止まつたら、俺にすぐ知らせろ」
ズル〃と這つて居たエス、遂に力つきてばつたり倒れて動かなくなる。
ふとエスを見つけた第一線の兵士、「おい。軍犬だ、エスだ」
やがて細長い懸線竿が持出されたが、悲しい哉、もう少しで届かない。急に飛出して行く兵士、エスのそばへ行き自分の持つてゐたペンチで手早く電線を切り、先端を持つて塹壕内へかけこむ。かくして、幾多の犠牲の後電話の線は漸くつながれた。
静かな戰場、嵐の前の静けさか、時計の短針が六時を指した。
總攻撃の開始の時。

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

凄惨な戰跡、炸裂した砲彈の穴へ、朝日がにこやかに微笑んで居る。千切れた鐡條網、裂かれた木の幹、倒れて居る支那兵、こわれた機關銃、惨と云はうか、凄と云はうか、是も人の世の姿なのか!
兩眼を三角布で巻き、手を吊り、杖をついて蹌踉と歩み行くのは誰あらう近藤軍曹だ。
「エス……エス」あせた唇をつてい出る乾いた聲。
「軍曹殿、みつかりました」と坂本の聲。
「エスか、ドルか」「ドルです」「いゝから連れて行け」
坂本に手を引かれて近藤軍曹は冷いドルの骸にすがつた。
「おゝドルか。ひどくやられたな。だがお前の任務はエスが變つてやつてくれたんだ」
「軍曹殿、手當がおくれるといけませんから」心をあとに近藤軍曹はかくして野戰病院へ送られた。

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ
美しい花園、赤いチユーリツプの真中ににこやかに立つは令嬢だ。近藤軍曹はエスと樂しげにたわむれてゐる。
病院の中、卓上には、白百合、バラ、スヰートピイと色様々な大花束が、卓上におかれ、カーテンの白さが殊の外に新鮮だ。
窓際のベツドに眠る近藤軍曹の顔に何が嬉しいのかかすかに笑みが浮かぶ。
この様子を見て付添の看護婦もうれしさうだ。眠つて居た軍曹、ふと現實に帰る。
「おや、今のは夢だつたのか。さうだ、その筈だ。この俺がかうしてこゝに居るのさへ不思議だのに、どうしてあの激戰の前衛をつとめたエスが生きて居る筈があらう。
エス、エス、よく働いてくれたなあ。
だがもうあの語る様な眼差しにも會へないんだ。馬鹿な夢を見たものだ」
扉の外に坂本はつられて立つて居たエス、軍曹の聲を聞きつけ、扉に身をすりつけあけんとするがあかない。たまりかねて叫ぶ。
「ワン、ワン」
「おや、エスの聲だ。いや、嘘だ。そんな筈はない。俺は馬鹿だ」

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

「ワンワンワン」
「エスだ。エス、エスツ」軍曹は狂ほしく立上つた。そばの卓倒れる。扉さつと開き外に立つエスと令嬢。
「おゝエス、お嬢さん」
熱いエスとの抱擁、幾日の死線をさまよつて、再び相見えた二個の生命、語る目と目、令嬢は静かに二人を妨げまいとつゝましやかに部屋の一隅で涙を拭つた。

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ

やがて平和の春が來た。
御國の爲に働いた人達の功の表彰される日、エスの首にも軍犬功章がかけられた。
地下のドルも、太田上等兵も、エスの姿に遙かにゑみを送つて居る事だらう。

町田敬ニ『戰線に吠ゆ』シナリオより(昭和11年)

帝國ノ犬達-戦線に吠ゆ