歌舞伎と双眼鏡 | びっくりビクセンBlog

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八代目によるビクセンの褻(ケ)

ツイッターなどで時々つぶやきますが、

歌舞伎を観にいくのが好きです。

大学の恩師が、歌舞伎や落語好きだった

ことや、社会人になってからの友人が

歌舞伎に誘ってくれたことなどがきっかけ

だったと思います。

当時、歌舞伎だけでなく狂言にも

通いました。横浜能楽堂の会員になったり

杉並能楽堂に山本家を観にいったり

していました。この頃から伝統芸能全般に

興味を持つようになりました。

結婚してからは夫婦で着物を着るように

なり、伝統芸能に行く機会が増えました。

歌舞伎座建築中は、新橋演舞場で

歌舞伎を楽しみ、落語カフェで落語を

楽しみ、国立能楽堂で狂言を楽しんで

きました。


せっかくの舞台ですから、仕事を忘れて

楽しんでいたつもりでしたが、

客席で双眼鏡を使われる方が

いらっしゃいます。

当然気になります。

ビクセンの製品であればちょっと嬉しいです。

メーカー名もさることながら気になるのは

スペックです。

舞台の大きさ、客席からの距離などにより

双眼鏡には適したスペックがあります。

特に歌舞伎や狂言は、舞台が近くて

マイクを使わない生音の迫力が醍醐味の

ひとつです。

あまり高い倍率では、演者の動きが楽しめません。

また、プリズムの入っていないオペラグラスでは

視界が狭く、せっかくの舞台を「覗き見る」事に

なってしまいます。

もっと舞台に合った双眼鏡を使ってもらえれば

と考えていました。

正しく双眼鏡を使ってもらえれば、舞台は

さらに楽しめます。



そんな思いで、ひとつの双眼鏡を企画しました。

3年前のことです。

コンセプトは、

着物で歌舞伎座に行きたくなる双眼鏡」です。

企画は、このコンセプトを私なりに忠実に

追いかけました。

スペックは手振れの少ない6倍とし、対物の口径は

軽量化を優先して16ミリとしました。

舞台は照明がありますので、

それほど大きいレンズを使わなくても、

明るく見えます。

それより長時間使っていただけるよう、

手のひらに収まるもの

であることが大事です。

2軸の折り畳み式にしたのは

この為です。


表面素材はアルミとしました。

通常の小型の双眼鏡はアルミにプラスチックで

カバーをします。

大型になるとラバー素材でカバーします。

これは屋外で使うとき、落下の衝撃を防ぐ

など
の理由のほかに、寒いときなどはアルミを

直接触ると冷たいからです。

双眼鏡は手で持ちますので、

手触りは重要です。

今回は、カバーをかぶせずにアルミの

ままとしました。

理由は、屋内専用だからです。

最初は少し冷たいかもしれませんが、

少し使っていると、双眼鏡は手のひらの

温度と同じ温度に温(ぬく)まります。

この適度な温度の手触りは、アルミ表面

のさらっとしたシボ処理
(シワ模様をつける表面加工処理)

とあいまって

長く持つことに違和感を与えません。

長く持っていたいと思わせるほどだと思います。


色は、「山桜色」と決めていました。

双眼鏡は当たり前ですが、顔の近くで使います。

着物を着て髪をまとめた女性に使って

いただくには、顔の肌色との相性も大事です。

客席で双眼鏡を使う着物姿を「絵」に

するには、「山桜色」が良いのではないかと

想定しました。

この色を決めるのに、一番の時間がかかった

かもしれません。

photo:01

この写真は、山桜か山桃で染めた着物の端切れを

塗装屋さんに持ち込んで、試し塗りをしたものです。

この頃、「山桜色」のイメージを固めるために

新宿御苑の桜を見に行ったりもしていました。

最終的な製品は、塗装ではなくアルマイト(アルミ染色)

としました。

かなりイメージに近い色になったのではないかと

思っています。


化粧箱もコンセプトに忠実に企画しました。

ハレの日に使う双眼鏡ですから、

忘れずに持っていってもらいたいです。

そこで、持って行くのが楽しみになるような

工夫を考えました。

外装、内装に桜の花をちりばめ、存在を

主張します。


photo:02

内箱には、柿渋色を使い、

リビングなどに置いておいても

違和感のないものとしました。

これで、引出しの中に追いやられなくなれば、

忘れずに歌舞伎座に持っていって

頂けるのではないかと思います。


photo:03

内箱の内側にも桜の花びらを一片。


photo:04

photo:06

photo:05

ご家庭でケースとして長く使っていただけると

嬉しいです。

仕舞っておくためのケースにこだわった反面、

通常は付属させているものが、

この双眼鏡にはついていません。

ストラップと持ち運び用ケースです。

ストラップは、つけなくても構いませんし、

付けるならば

その日の装いに応じて付けて

いただければと思い、

あえてはずしました。

気に入ったものを付けていただければ

と思います。

持ち運び用ケースも付けませんでした。

歌舞伎の客席では、ケースは邪魔になりますし

取り出しにくいです。客席でベルクロの

「ベリベリ」という音は興ざめです。


おかげさまで、この双眼鏡は無事に

商品化されました。

現在、「saqras」として発売されています。

そして新しく開場した歌舞伎座では、

この、「saqras」の貸し出しを

行なっております。

歌舞伎座に行かれた際には、

この双眼鏡でさらに舞台を楽しんで

頂けたらと思います。



「saqras」ご紹介はこちらのHPです。→saqras