なんか不思議な読後感でした
大学の事務室のカウンター横だったり、病院の待合室だったり、午後9時過ぎのアーケード街だったり、ふと目にした人の誰もが「なんでそんなものがここに?」と疑問に思うような場所に気づくと設置されている櫃洗市の市民サーヴィス課臨時出張所。
銀縁メガネに黒い腕貫を嵌めた年齢不詳ないかにも役所の人間の風体の男がにこりともせずに座っている。
それぞれ、時間潰しだったり、藁にもすがる思いだったりと理由は様々ですが、相談しようとすると他に誰も並んでないのに、名簿に名前を書いて、並ぶよう言われます。
名前の通り、とってもお役所仕事。
「この人に話しても解決しないだろーなー」と思いつつも話すと、腕貫男からよく分からない返答をされて、「?」と疑問を抱えるうちに「次の人どうぞ」。
気が付くと、後ろの椅子には次の人々が待っている。
腕貫男の言葉から、思い至ることで悩みは解消!?
主人公を変えて、短編が7つ入ってますが、どれも市民サーヴィス課臨時出張所を目したときの感想が、判で押したように「なんでそんなものがここにあるの?」となります。
勿論、意図的に繰り返し効果を狙って書かれているのですが、三者三様、年齢も性別も違うのに同じ感想というのが繰り返されるので、段々ツボにハマり、思わずにやっとしちゃいます
しかも、腕貫男自体は定番の探偵小説のような謎解きをしてくれるわけではなく、相談者の話を聞いて、相談者が思いもしなかった切り口で、聞いた最初は「なんの話?」と聞きたくなるようなコメントを発して、かつ聞き返す間もなく、「次の方どうぞ」と容赦なく切り上げます。
でも、相談者はその直後、腕貫男の発言から事件の真相に思い至るわけです。
続巻も出ているらしいので、腕貫男がこのまま何の特徴もなく、淡々と相談を受け続ける役回りなのか、またはもう少し個性(人の記憶に残りにくいのが既に個性なのかな?)が出てくるのか見てみようかと。
それにしても、出てくる人の名前が皆変わってます。
実際にある名字とのことですが、蘇甲(そかわ)に筑摩地(つくま)に門叶(とかない)等々、どれも本当にある名前だそうです
著者:西澤 保彦
出版社:実業之日本社文庫
2011年12月(単行本は2005年)