わたくしはイタリア語が得意なのですが、
(というか、職業なので出来て当たり前

イタリア語を勉強して良かったことの一つに、他のラテン系言語の習得がものすごく簡単になった、ということがあります。

イタリア語というのは、ラテン語の直系の娘のようなもので、ラテン系言語(イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、若干英語およびその系列)の中でも一番、大本に近いのですわ。

おおざっぱにいえば、ラテン語を使っていた古代ローマ帝国がヨーロッパ全土を攻略したときに、現地の言葉と混ざって出来た言葉がスペイン語だったりフランス語だったりポルトガル語だったり、さらには英語だったりするわけですよね。

言葉というのは、たとえば源氏物語の古語と今の日本語が1000年でこれだけ違ってしまうように、日々変化し続けていくものです。
だから当然、それぞれの言葉も、それぞれの文化や状況と融合して変化し、発展しているわけですが、

ラテン語とイタリア語の関係は、そのまま、日本語の古語と現代語のようなものですよね。
間にダンテのDolce Stil Nuobvo(新生体)とかまあ色々ありますが、とりあえず、直系の子孫であることは確かです。

なので、ラテン語系のほかの言葉が、ラテン語の孫だとするならば、イタリア語はラテン語の子供、という感じで、どの言葉に対しても共通項が多いように感じるのです。

いや、一つ一つを見ていけば、どの言葉がよりどの言葉に近い、というのは難しいところだと思いますが、何しろイタリア語は根本に近い。
なので、根本的な文法とか、語源とかを理解するうえで、かなりのアドバンテージがあると思うのです。

イタリア語自体は、使われている国が限られているし、イタリア語を話す人口って少ないし、しかもイタリアとわたくいう国自体がヨーロッパの中で見ても・・微妙・・という感じではありますが、しはイタリア語を第一外国語にして本当によかった! と思っています。
だってフランス語とか、2か月やったら、大体理解できるようになるし―。
スペイン語、ちゃんと勉強したことないけど、スペイン人と普通に意思疎通できるし―。


一度、わたくしローマの空港で、人を待っていたことがありました。
ちょっとした事情で先に一人でローマ入りをしていて、後から来る人を迎えに行ったのですね。

しかし、待てど暮らせど、待ち人来たらず。
一体何があったのかわからないまま、4時間ほど、ゲートで待ったでしょうか。

空港警備隊の制服のお兄ちゃんに涙ながらに事情を話しつつ、けれど彼もどうしていいかわからず、一緒に困ってくれるくらいが関の山、という状態で4時間。
当時はまだ海外で使える携帯が一般的ではなかったので、どうしたらいいのか、本当に途方に暮れるわたくし。

ゲートで人を待っていたほかの方々もあらかたいなくなり、いよいよどうしていいかわからなくなったころ、

後ろから一人の女の子にポルトガル語で話しかけられました。

  「あなたも、待ち人が来ないの?」

どうやら彼女も、同じ便に乗っていた恋人を待って4時間。
わたくしのようにイタリア語ができるわけではないので、警備員のお兄ちゃんという話し相手もいず、はじっこのほうで4時間耐えていたようでした。

でもわかる!
わかるのよ、ポルトガル語
ちゃんと注意して聞きとれば、意味、全部わかる!!

そしてわたくしたちいは意気投合し、しかたなく、二人で諦めて、空港から市街へ向けて一緒に電車に乗ったのでした。

彼女はブラジルからバカンスに来ているブラジル人で、今日、遅れて恋人が来るはずだったのに、連絡が取れないこと。
彼と落ち合ってからホテルを探そうと思っていたので今日の宿がないこと。
わたくしも、宿がないってことはなかったのですが、待ち人が来ないとすべてのスケジュールが崩れてしまうこと。

などなど、一人きりだったら淋しすぎる話題も、二人で話していたので、意外と笑えました。

しかしその時、わたくしの携帯に、着信が!!
公衆電話からわたくしあてに、待ち人からの電話だったのです。

でも、電車はノンストップで市街まで行ってしまうし、
ブラジル人の彼女を裏切るようで、どうしよう・・と思ったのですが・・

  「あなたは、空港に戻りなさい。私のことは心配しないで」

と、彼女は微笑みながら言いました。
ポルトガル語で。

でもすごい伝わったよ。
一人きりになって、心細いだろうに、私のことは心配しないで、っていう優しさとか。
ちょっと無理やり元気そうに笑ってくれてるところとか。

わたくしは彼女をとにかく駅のインフォメーションのところまで連れて行き、
ちゃんとしたホテルをとって、恋人からの連絡を待つのよ、と言い置いて、
そのまま空港に戻ることになりましたが、
あの後どうなったのか、今でも気になっています。

言葉はハートでも伝わるものだけど、やっぱりイタリア語ができて良かった。

いつか彼女に会えたら、またポルトガル語とイタリア語でお話ししたいな、といつも思っています。
元気だといいけど。