以前書いたネタのフォローです。
 http://ameblo.jp/vin/entry-10339255403.html


 というわけでマンガ「もやしもん」での食料自給率議論の回について。


 「食料自給率が40%を切った!低すぎる!!」と言うような主張を批判するに当たって、取られる理屈には大きく2つがあります。
 一つは「実は自給率は低くない」というもの、もう一つは「自給率なんて数字そのものが何の意味もない」です。私が以前のエントリで書いたのは前者の理屈に対応したものだったのですが、実際にもやしもんで繰り出されたのは後者のお話でした。これならOKで、よくわかります。
 というわけで以前のエントリは空振りに終わりましたが、しかし後者のお話に似たようなこともすでに書いてます。
食料自給率とはなんだ
食料自給率が低くても、正直誰も困っていない


 ところで、そもそも「食料自給率が低い」てのはどういうことでしょうか。これは実は、「食料自給率が不足している」と言い換えたほうがわかりやすくなります。
 不足していると言うからには、何が何に対して不足しているのか?と言う話になりますが、食料自給率の場合は「国内の食糧生産が、食品需要に対して」不足していると言う状態を表します。
 で、ここが食料自給率最大の欺瞞なのですが、食品需要は実際にはそんなに高くないんですよ。つまり食料自給率100%の状態イコール食品需要を100%満たしている状態では全く無く、今現在すでに食品の需要は飽和していると言ってもいいです。そういう趣旨で捉えると、食料自給率は100%と言ってもいいくらいです。
 が、とはいえ食料自給率100%などと言えるものではありません。食料自給率以外に国は、農業と言う業界全体を一撃で表す指標を持っていません。結局食料自給率とは国が持つパラメータの一つであり、それ以上でもそれ以下でもなく、最初から市井の人々の食生活に密接に関わる数字では無いのです。


 一つ言っておきたいのは、「食料自給率問題なんか存在しない」とはいえ「農業問題なんか存在しない」ではない点です。食料自給率なんか虚構だ、という結論だけを持ってきて、例えば今後も食品の低コスト化を進めるならばそれ以外の方面からの問題が噴出するのは間違いありません。


 ところでマンガの長谷川さんは、「食料自給率」なるものに本当にこだわっている主体など実はいないとした上で、食料自給率が低いから上げなくてはならない、なんていう意見はいったい誰が誰に言っているものなのかサッパリわからない、と言っています。消費者が国に言っているのか、はたまた農家に言っているのか、確かに一見よくわかりませんがしかし理屈の上で考えれば、これは明らかに「政府が政府に言っている」です。
 政府が政府に、なんてぱっと見は奇妙なようですがそんなことも無く、ありふれています。つまり政府が政策目標を掲げ、そしてそれを実行すると言う形です。各省庁の無駄・埋蔵金などをかき集めて9兆円の財源を作り出す!と言ったのもやるのも政府(民主党)です。実際には3兆も集まってないがな。
 で、食料自給率とは先にも言ったとおり国に関わるパラメータの一つで、45%に上げなくてはならない!と言うのも政治目標です。つまり政府が政府に言っています。


 実はその「言う相手」を政府から一般の消費者に移そうとした運動があり、それがいわゆる食育です。
 なんかすでに懐かしいとさえ思うくらい廃れた言葉ですが、私は食育とは国産の食糧消費を促して需要を喚起し、その分食料自給率を向上させようと言う動きだったと認識しています。そういう意味で極端に単純化すると「政府が、一般の人に」食料自給率を向上させよといった事になります。


 が、国家の課題である(と設定している)食料自給率の向上を、責任を持って取り組むべき主体は当然政府であって、それをよそに投げてはいけないでしょう。いや、投げてもいいですが責任はあくまで政府が持つべきです。一部、自給率向上の主体を農家にさせる向きもあるようですがもってのほかで、個々の農家に国民全体の食糧事情に対する責任などあるはずがありません。


 ただしここで当然出てくる疑問が、このエントリ前半では「意味がない」とさえいう食料自給率を、なんでまた政府は上げようなどと言っているのか、てなところですがそれはまあ一部産業界や学者から挙がっている「農産物を安くせよ」との指令を、婉曲的に表現するためでしょう。
 とかいうと一気に陰謀論くさくなるのですが、現在の農政は「農産物(基本的に米)を大量生産して安く供給せよ、んで自給率を上げよ」というものです。が、誰もが知るとおり米の自給率は100%近く、こんなもんいくら作っても自給率向上にはほとんど寄与しません。ただ単に過剰供給で価格が暴落するだけです。
 販売価格が生産価格を下回ったら支払うとする直接支払い制度も抜け道などいくらでもあり、と言うか根本的な欠陥もあり(「生産価格では米は生産できない」)、欺瞞です。普通の人はともかく、政府が「自給率向上を!」と言う時その真の目的は自給率ではないことは明白でしょう


 というわけでもやしもんとはほとんど関係ない話をしましたが、それにしてもホントに日本から農業が消えてもいいんですかねえ。いや、いいのかもしれませんがね。自給率問題は「今は」本質的に存在しませんが、真の自給率問題が巻き起こるのはそう遠い未来じゃないと思いますよ。