サヨコさんは、この世界の主で、ポストくんに届いた手紙を受け取る主でもあります。ポストくんは生まれてからずっと、サヨコさんに届いた様々な気持ちを手紙として受け取ってきました。両親の生まれてきて嬉しいという気持ち、歩けるようになって嬉しいという気持ち。小学校に入学して嬉しいという気持ち、中学生なったサヨコさんを誇らしく思う気持ち。友達のサヨコさんに対する気持ち、先生のサヨコさんに対する気持ち。ポストくんはずっとサヨコさんに届けられた色々な想いを受け取ってきたのです。
 しかし、サヨコさんが中学二年生になった頃から、届けられる想いは心ないものへと変わっていきました。馬鹿、うざい、消えろ、うっとうしい、めざわりだ。ポストくんが錆び付いて、塗装がぼろぼろになってしまうまでその心ない言葉は届けられ続けたのです。
 今では、心ない言葉が届くことはありません。でもその代わり、あんなに優しく穏やかだったサヨコさんの想いがポストくんに生み出され、誰かに届けられることはなくなってしまったのです。また、どんなに暖かい想いでも、サヨコさんが受け取ることはなくなってしまったのです。
 ポストくんはそれがどういうことなのか、理解していました。そう、サヨコさんは自分の心を閉ざしてしまったのです。
 明るかった太陽は隠れ、青々としていた草は色褪せ、鮮やかに咲いていた花は散り、サヨコさんの世界はぼろぼろになってしまいました。ポストくんは誰かの手紙がサヨコさんに届けられるのをずっと待ちました。でも、どんな暖かい言葉も、励ましも、サヨコさんが想いを返してくれることはありませんでした。このきれいで寂しい世界を抱えたまま、サヨコさんは今も苦しんでいるのです。
 誰かに助けてほしい、ポストくんはそう祈っていました。
そうして今、こころちゃんと出会っていたのです。
「そうだったんだ」
 ポストくんがどうして誰かに助けを求めたかを聞いて、涙をぼろぼろ流しながらこころちゃんは何度も頷きました。
「僕は、サヨコさんにとってつらい気持ちばかり受け取ってしまったんだ。僕が受け取らなければ、サヨコさんはこんなに苦しまなくてすんだのかもしれない。でも、僕はポストだ。サヨコさんのポストだ。気持ちを受け取るのが、僕の役割なんだ。でも」
 ポストくんの塗装がぼろぼろとはがれていってしまいました。まるでそれが涙の代わりであるように、とめどなく落ちていきます。
「ポストくんのせいなんかじゃないよ」
「僕が悪いんだよ。僕だってサヨコさんを守れたんだ。でも、僕が何もできないばっかりに、サヨコさんを苦しめている。誰の手紙を届けても、受け取ってくれないのはその証拠だよ。僕がサヨコさんを苦しめていると、サヨコさんは気付いたんだ。だから、僕なんてもう必要ない。ずっと、この寂しい世界で生きていくしかない」
「ポストくん」
「こころちゃんも、そう思うだろ? 僕はみんながサヨコさんを傷つけるのを止められなかった。僕のせいでサヨコさんは、心を閉ざしてしまったんだ。もう手遅れだよ」
 無言で、こころちゃんはポストくんを抱き締めました。ぼろぼろと零れる涙が、乾燥していたポストくんに染み入っていきます。ポストくんはただそれが心地良くて、暖かくて、ずっとこうしていたいと思いました。
「ポストくん」
 そう話し掛けるこころちゃんの声は、やるせないような、押し殺された悲しみに満ちていました。
「ポストくんのせいなんかじゃない。手遅れなんてこともない。今からだって間に合うよ。だから、自分を責めるのはもうやめて。ポストくんには、どうすることもできなかったんだよ。ポストくんのせいなんかじゃない」
「でも、でも、サヨコさんは今、心を閉ざして」
 なおもそういい募るポストくんを、こころちゃんは優しくなでて、宥めながら。
「ポストくん。サヨコさんに手紙を送ろうよ」
 そう、言ったのです。
                         続く・・。
 (前回までの話は、同じテーマの最新記事をクリックすれば読めます。)

<悩みを下の応募先で受け付けています>
手紙の場合:〒651-0001 神戸市役所内郵便局留
VFM神戸ペンフレンズ係
または〒102-8799 東京都麹町郵便局留
VFM東京ぺンフレンズ係
メール(携帯メールでもOK)の場合:mailfriend@vfm-info.com
VFMのHPはこちら:http://www/vfm-info.com/vfs/
・秘密は守ります。ボランティアだから無料です。
メールの場合は匿名(ペンネーム)でも結構です!