今日がカンヌ最終日。これを書いている間に
受賞発表が終わってしまいますタ。
いやはや、ビックリ!
「Heli」のアマ・エスカランテが監督賞だと!
なぜ、ビックリなのかは、後ほど書くとして、
今回のカンヌ映画祭、昨年よりもラテン系作品が
少なく感じたのは監督週間(これは映画祭と主催が
別なのですが)に、余りなかったからかも。
でも、初カンヌで何を観るかといわれたら、
やっぱりスペイン語映画!
ということで、まずは2本あったメキシコ作品から。
この2本に共通して強く感じたことは、メキシコ以外の
人々が「こう思いたい」メキシコが描かれているのでは
ないか、と思ったこと。
テーマは「麻薬」と「移民」
私にとっては、またかよ、な感じです。
もちろん、映像としてほ~っと感心するところも
多々あるのですが、なぜに、このテーマなのだ?と
いうのが監督に一番聞いてみたいことです。
「Heli」Amat Escalante
このタイトルみるとヘリコプター?てな感じに
思ってしまうのですが、これは主人公の名前「エリ」です。
今回、ラテンアメリカ唯一のコンペ作品。
(監督名、スペイン語の発音に合わせて日本語表記を
「アマ」にしていますが、できれば「アマッ」にしたい。
でも、ちょっとお笑いな感じになるかも?)
はいはい、横路にそれましたが、そういうことで、この監督、
初監督作品「サングレ」がカンヌのある視点部門に出品され、
東京国際映画祭にも出たので、覚えている方もいらっしゃると思います。
これが3本目でカンヌのコンペ、というラテンアメリカ生まれは
スペイン、バルセロナ。今はグァナファト在住で、
キューバのアントニオ・デ・ロス・バニョスで映画を学び、
初監督作品の後、カルロス・レイガダスの
「Batalla en el cielo」で助監督をつとめています。
「Heli」の幕開けは、乾いた大地の中の道を走るトラック。
荷台に乗せられている男2人。
そうとう痛めつけられて、生きているかどうか分からないほどの
2人がじっくりと映されます。
その後、トラックが橋のところで止まると…。
このあと、何が起きるか、というのは
メキシコの麻薬組織セタのやり方をみれば想像がつきます。
そして、そこから、この2人は誰なのか、
なぜ、こんなことになったのか、
という物語が展開していきます。
主人公のエリは、妻と自分の父、
そして中学生ぐらいの妹エステラと
貧しい小屋に暮らしながら、
かなり遠くの自動車製造工場まで、自転車で
通いながら働いています。エリが一家の大黒柱で、
自分の家族を守るために黙々と働いています。
その村には軍の駐屯地もあって、エステラは軍隊の
うだつがあがらないヤツとつき合っています。
2人でここを出て結婚しよう、という恋人の言葉に
夢を抱くエステラ。
もう、このあたりから不穏な空気。
ある日、軍が大量の麻薬を摘発して、それを
燃やすのですが…。
と、ここまで書けば何が起こるか予測可能。
でも、この映画の中で一番感じたのは「孤独」です。
彼らは別の土地から仕事を求めてやってきたので、
村からするとよそ者。その村は軍と自動車工場で
何とか住人が生きて行けるようなところなので、
大きな権力にははむかえない。
だから、皆、見て見ぬふりをする。
でも、エリは寡黙で正義感強く、何とか真っ当な道を
歩みながら家族を守ろうとします。その孤独感は、
周りを映す随所にやどっています。
広大な大地の中の小さな車、とかに
共同体の中にいれば、何とか生きながらえることも
それを敵にすると恐ろしい。誰も助けてくれない
状況に陥ることになるのです。
そういう意味では、とても納得がいく作品に
なったのに、カンヌでの上映では、拷問や暴力シーン
ばかりが注目され、エリの孤独には誰も触れない。
この作品が、センセーショナルなものになってしまったところが
残念です。この監督はレイガダス同様、プロの俳優を
使わず、オーディションで選んだ人々と長い時を
すごしながら、映画を作って行きます。なので、
演出に対する監督賞なら、分かる気がします。
余りのショックで拒絶反応を起こす人もいるからか、
批評家の判定は、ほぼ悪く、だからこそ、監督本人も
含めて驚きの受賞、ということになりました。
ああ、長く書き過ぎてしまったので、もう1本の
メキシコ映画は帰国してから書くかなあ。
いつも怠惰ですみません。
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