指導において大事なのはキーファクター | 坪井健太郎のブログ from スペインバルセロナ

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2008年からバルセロナでサッカー指導者。プレサッカーチーム代表: サッカー指導者の育成アカデミーを運営。
オンラインコミュニティ「サッカーの新しい研究所」運営

こんにちは。

 

前回の記事では、トレーニングにおけるオーガナイズで終わらずにコーチングで選手を変化させることの重要性を述べました。

 

では、コーチングで選手のパフォーマンスを向上させるためにはどうしたら良いのでしょうか?

 

○○メソッド、○○方式、などという形で日本には魔法の指導方法と信じられているもの語られていますが大事なことはそうではなく、サッカーの構造を理解し選手に対してわかりやすい言葉を投げかけて指導(コーチング)をすることです。

 

前回の記事で述べましたが、オーガナイズとはあくまで選手がプレーする条件を与えることにすぎません。

 

週末のゲームで狭いコートで試合をするのであればスペースを小さめにして窮屈な中でどうプレーするかに順応させる必要がありますし、前線からプレスにくる相手であればDFラインのビルドアップ時に守備者がプレッシングを実行するような決め事でトレーニングを実施するということです。

 

多くの指導者がここまでで満足してしまっているのですが、実は設定のみをしてあとは選手に任せるだけでは選手の能力は上達しません。

 

確かに状況に順応はし、うまくなったように見えますが私の考えではそれだと以前とは異なる状況下で選手が順応し感覚的にプレーしているだけで、プレーモデルにおいて必要なプレーを理解し獲得しているかというとそうではありません。

 

選手の能力としてできることは増えたが、試合で効果的にプレーするようには至っていないのです。

 

大事なのは、与えられた状況下で選手にどのようなプレーをしてほしいのかを伝えることであり、それこそがコーチングということになるのです。

 

では、試合に直結するように今回はどのようにしてトレーニングの組み立てをしたら良いのかを紹介したいと思います。

 

 

◆4つのモーメントのチョイスから

 

まずはトレーニングをプランニングするにあたり4つのモーメントの中のどこをチョイスするかです。

 

  1. 攻撃
  2. 守備
  3. 攻撃から守備のトランジション
  4. 守備から攻撃のトランジション

 

このチョイスを的確に行うためには、サッカーのゲームを見ながらその瞬間が4つのうちのどこにあたるのかを分析できるようになる必要があります。(今回はこの部分は割愛させていただきます。)

 

そして、チームのパフォーマンスを分析し問題のあるモーメントを抽出します。

 

例えば「ボールを奪った後にすぐに取り返されてしまう」という現象が起こっているとします。

 

その場合は、モーメントは攻撃から守備のトランジションになります。

 

そして、自チームがボールを失った時に相手が実行する「失ったボールへのプレス」を回避して『ボールを保持する』という戦術意図を達成できていないことがチームが抱えている問題となります。

 

次に考えることは、この状況下で

  • チームの戦術アクション
  • 個人の戦術アクション
  • 個人のテクニックアクション

の何が必要とされているかを考えることです。

 

 

これは一例ですが、この状況下であれば

  • チームの戦術アクション:サポート
  • 個人戦術アクション:幅、深さ
  • 個人のテクニックアクション:パス、コントロール

の要素が大きく関与しています(もちろんビデオなどで分析した際には別の原因があることは十分ありえます。)

 

 

ここまでで、モーメントの選択改善すべき戦術・テクニックアクション、の選択ができました。

 

さて、ここからが一番重要なところです。

 

それはキーファクターの設定です。

 

 

そもそもキーファクターとは何でしょう?

 

日本人指導者のトレーニングメニューのキーファクターなどを見ると多いのが(協会から出される指導案にも実は多く見られます)、

 

パスの質

正しいポジション

良い準備

積極的な○○

etc

 

というような非常な曖昧なものです。

 

このキーファクターで選手たちのパフォーマンスは向上するでしょうか?

 

 

 

◆キーファクターとは

 

 

私が考えるにはキーファクターとは「指導者が選手に投げかける言葉そのもの」にあたります。

 

ですから、パスミスが起きた時に指導者が上記のキーファクター通りに「パスの質を良くしよう!」と声をかけたらパスは通るようになりますか?というのが大事なところであり、今回の記事で私が一番問いかけたちところでもあります。

 

選手からすると、「パスの質?何それ?」だったり「質のいいパス出したいけど、どうやったらそうなるの?」というのが曖昧なキーファクターで指導される選手の気持ちでしょう。

 

残念ながらこれでは選手のパフォーマンスは変わりません。

 

これらの曖昧なキーファクターにはいつ?どのような?どこへ?というような細かい部分が足りていないのです。

 

パスの質に関するキーファクターであれば

 

  • 足元へのパスは相手にパスカットされないような強さで出す
  • スペースへのパスは、味方の走るスピードを落とさないような強さで味方が走る前方へパスする

 

というようなものになるべきで、状況別に5W1Hを基準にして考えると良いかもしれません。

 

 

 

さてキーファクターの概念を明確にしたところで話を戻しましょう。

 

守備から攻撃のトランジションのモーメントにおいて

  • チームの戦術アクション:サポート
  • 個人戦術アクション:幅、深さ
  • 個人のテクニックアクション:パス、コントロール

の戦術・テクニックのコンセプトを獲得・向上したい場合にどのようなキーファクターを準備すれば良いのでしょうか?

 

そもそもの問題は奪ったボールをしっかりとパスを繋いでボール保持をできていないことが問題で、その原因はパスコースを作るという意味でのサポートができていないことになりますので、一つ目のキーファクターは「ボールを奪い返した時に、ボールを持っていない選手はパスコースを作る」というものなります。

 

そして、その次のステップではそれがどのように行われるべきか?ということになります。

 

そこで出てくるのが個人戦術の深さと幅というコンセプトです。

 

ボール保持するためにパスコースを作り、さらに十分なスペースを確保できるような深さと幅を各個人が作るためのキーファクターを用意します。

 

明確なキーファクターを準備するためには、やはり明確な状況が準備されている必要があるので、ここではメニューもある程度設定を決めておきましょう。

 

今回はシンプルな設定として、3vs3+2フリーマンのポゼションを挙げてみます。

 

 

◆3vs3+2フリーマンのポゼション

 

 

フリーマンを合わせると攻撃が5人vs守備が3人という、良くあるトレーニングですね。

 

ポゼッションゲームですので、継続的にボール保持をし続ける、尚且つ攻守のトランジションが発生するという設定になっています。

 

ここで攻守の切り替えが発生し守備していたチームがボールを奪った時に各個人がどのようして幅と深さを取る必要があるのでしょうか?

 

ここでは黄色チームがボールを奪いました。

 

ボールを失った赤チームはすぐに「失ったボールへのプレス」を図のようにかけますので、この時に黄色チームがグループで行うべきアクションはボールを保持するためにパスコースを作ること、各個人は深さと幅を取ることになります。

 

ここで、問題が解決されていない場合は下の図のようになってしまうでしょう。

これではスペースもなくパスコースも無いのでボール保持は難しい状況です。

 

 

 

改めて言いますが、ここで指導者として言うべきことは「サポートをしろ」ではありません

 

いつ、どのようなサポートをして欲しいのかを明確に伝えることです。

 

 

この時に各選手は状況によって深さを作るのか、幅を取るのかは変わりますので以下のようにキーファクターを用意することになります。

 

「ボールを奪った時」に守備をしていたチームの選手は…

ボール保持者の横の選手は、守備ブロックの外側にパスコースを作るように幅を取る

ボール保持者から遠い選手は、守備ブロックの奥側にパスコースを作るように深さを取る

 

となります。

 

また、パスコースを作ったあとも相手はプレスをかけ続けてきますのでボールを広いスペースへとチームで動かしていく必要があり、相手のポジション修正に合わせて深さと幅を調整することが求められます。

 

さらに、その状況に合わせてその時々に必要な解決策とテクニックアクションのキーファクターを以下のように準備します。

 

  • 相手が中からプレスをかけ続けてきた場合は、素早く逆のスペースに展開できるコントロールとパスのアクションを実行する

 

  • 相手のプレスが逆サイドへのパスを切ってきた場合は、1タッチでのプレーで中を使うコンビネーションプレーを実行する

 

 

 

このようにして、起こり得る各状況を想定して私たち指導者は、

 

とある状況下で、いつ?誰が?どのような?アクション起こすことが有効なのか

 

をキーファクターを準備しておく必要があるのです。

 

これによって、「動け」や「足が止まってるぞ」というような抽象的なコーチングを避けることになり、より選手は何をするべきなのかがわかるようになります。

 

 

 

◆改めて整理すると

 

改めて整理すると

 

モーメントの選定

チームの戦術アクション:サポート

個人戦術アクション:幅、深さ

個人のテクニックアクション:パス、コントロール

メニューの作成(人数、広さ、スペース、タッチ数、ノルマ)

キーファクターの準備

 

となります。

 

ぜひ指導者の皆さんには、この部分には拘って準備してもらいたいと私は考えています。

 

今回もお読みいただきありがとうございました。

 

皆さんからのご意見、ご質問もお待ちしていますね。

 

それではまた!