メローネと居酒屋デート・前編 | 魔法石の庭ver.2

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スピリチュアル界と、ちょっとパワーストーンブログになっています。

 すっごい早起きしたので更新します。最近、早寝早起きが日課となりつつあって、でも、それで体調が良くなったかというとそういう訳でもなく……。まあ、低空飛行状態です。
 私の病気には、「消耗期」と呼ばれる、鬱状態に近くなる時期があるのですが、それなのかな……。一ヶ月とか、長い人は半年とかなるそうです。

 早く治りたいんですけどね……なかなか上手くいきません。

 さて、スピリット界の話を始めましょう。
「『嵐が丘』にしようと思うの」と、女教皇に切り出したのは、私です。なんのことかと言うと、館の名前のことです。「右川家」みたいなのは、なんか「館!」って感じがしないので、前々から考えてはいたのです。

「嵐が丘、ね……」女教皇は、こめかみを揉みながら返答します。「あなたはおば様をヒースクリフに例えたいの?」
 
 嵐が丘の元ネタは、海外小説(もちろん、翻訳版はあります)の「嵐が丘」。館から卑劣な手で追い出された青年・ヒースクリフの復讐と、館の娘であったキャサリンの愛憎劇です。昼ドラみたいな感じ?
 ヒースクリフは、自分を捨てて、上流階級の貴族と夫婦になったキャサリンを許すことができず、金を稼ぎ、裕福になってから彼女の元へ現れ、彼女もろとも、屋敷の関係を崩壊へと導いていくのです。

「違う、違うつもりです」私は答えて、紅茶を(今度は普通の味でした)すすります。「でも、たとえおば様が復讐に来ようとも、私はそれを止められない。止める価値がない」「そうかしら?」女教皇はこめかみを揉んでいた手を放します。「仮に、彼女がヒースクリフだったとしても、あなたはキャサリンじゃない。それに、この屋敷が崩壊されると私も他のガイドも困るわよ」「率直な意見ありがとう、そういう正直な所、好きですよ」私は、紅茶に映る自分の影を追っていました。
「とにかく、今日からこの館は『嵐が丘』ですからね。それを伝えに来たんです。それじゃあ、紅茶ごちそうさま」私は、これ以上痛いところを指摘される前にと、女教皇の元を去りました。

 嵐が丘。これは、同名の洋楽のタイトルにもなっており、こちらは小説を読んだ作詞家が詞を作ったとされています。本を読むのが苦手な人は、音楽から入っても面白いですよ。

 メローネは、最近、2階の玄関を見下ろせるところではなく、私の部屋にいます。ドアのところでじっとしています。顔立ちが整っていることもあり、「なんか置物みたいだなあ……」と私は思ってしまうのですが。
 私がベッドルームにいても、メローネはついてきたりはしません。まるで、何かに殉じているように、ドアの横に愛用のライフルを立てかけて、大人しくしています。

 メローネはメローネで、おば様の件について、何か思うところがあるのかもしれません。

 そんなメローネを、私は町に行こうと誘い出しました。万年引きこもりの私が、自分から町に行くなどということは、竹の花が咲くぐらい珍しいことです。
「今日は、居酒屋で飲み明かそうね」私は、さりげなくメローネの腕に自分の腕を絡ませました。愛情表現ではなく、「逃げたら承知せんぞ」の印です。
「俺は下戸だ」と、メローネがそれでもどこか機嫌良さそうに答えます。「何せ、今までの酒盛りでは5升しか飲めなかった」「どこが下戸なんだよ!」私は、いつも持っているミスリルの鉄扇で軽く頭をしばき倒しました。まあ、これもメローネなりの冗談です。5升というのは、落語の「試し酒」のことを言っているのでしょう。

「試し酒」とは、とある飲んべえで有名な男を巡って、「あの男は5升飲める!」「いや、飲めない!」という喧嘩が始まります。
飲んべえの男は、うーんと考えてから、「ちょっと待っていてくれ」と言い残してその場を去り、しばらくしてから戻ってくると、「じゃあ試してみよう」と言うのです。1升、2升と飲み終わり、ついに5升の酒を飲み干した男は、仲間に「いやー、素晴らしい飲みっぷりだった。で、途中いなくなったのはなんでだ?」と聞かれ、胸を張って「5升も飲んだことねーからな。試しに5升飲んできた」と言う……というオチです。

 しかし、この町って、私のリアルで住んでいる場所とは違うみたいなんですよね……。海が見えるし。私の住んでいるのは内陸なので、海が見えるなんてことはないんですよ。

 居酒屋のドアを開けると、一瞬こっちに視線が集中します。何せ、私の姿は、フードを深く被った、黒いローブ姿。はっきり言って、この季節にそんな姿をしている者はいません。私だって、リアルにそんな人間と会ったら、「見なかったことにしよう」と思うでしょう。さらに、イケメンと腕を組んでいる姿。「館のご主人様」とバレるのは早かったです。
 周りから、ひそひそと「あれが例のご主人様だ」「なんでこんな居酒屋に来たんだ?」と聞こえます。私は、周りから何かを言われるのはトラウマになるほど慣れているので(それは慣れているとは言うのか?)、気にせずカウンターに座りました。

「いらっしゃいませ」女将さんが、少し緊張した様子で対応してきます。「先にお飲み物をお伺いします」「この町の名産の酒があったら貰おう」「ピーチカクテルで」私とメローネは、競い合うように注文しました。すぐに、お通しが出てきます。
 「そういえば、枝豆って、海外でも人気らしいじゃん」私は、知識を掘り起こします。「本当の枝豆の旬って8月頃なんだけどね。うん、確かにその頃食べた記憶がある」「痩せた枝豆だったろう。この枝豆のようにぷっくり膨らんだものは自家栽培ではなかなか、な」メローネはそう言って、枝豆を次々に胃に収めてしまいます。
「ちょっと、私の方が食べるの遅いんだから、合わせてよね」と私は文句を言うと、一緒に枝豆をつつきます。「そういえば、軍人って食べるの早いよね、早飯早ぐ……」「待て。物を食うところで変なことを言うな」メローネの手甲をまとった手が、口を押さえてきました。
「ここはスピリット界だ。物を食べても排泄は必要ない」「まあ、そうなんだろうけど」私は、トイレを作らずに済んだことを思い出していました。

「うーん……トイレの話しながら物を食べると、あんまり美味しく感じないね」「当たり前だ」メローネはあきれたようでした。「お前のその率直さは、得する場合もあるが損をする場合もあるぞ。もっと考えて物を言え」まったくその通りの指摘に、私はぐうの音も出ません。

 長くなってしまったので、続きは後半で!