【社会部オンデマンド】「スカイツリー」建設の進め方は? 「空洞」活かして効率作業
「東京タワーに代わる新しい電波塔・東京スカイツリーは、どのように建設が進められているのですか。完成時には東京タワーの2倍近い高さになるそうですが、耐震性も心配です。また、東京タワーはどうなるのでしょうか」=横浜市保土ケ谷区の男性会社員(41)
活躍する特注クレーン
東京タワーの333メートルをはるかにしのぎ、634メートルと「世界一」高い電波塔として東京都墨田区で建設が進む東京スカイツリー。平成20年7月の着工以来、順調に“成長”しており、23年12月に竣工(しゅんこう)、24年春に開業予定だ。足元は正三角形だが、上に進むにつれて円形になる独特の構造。見る位置によって表情を変えるフォルムが、早くも都民らの目を楽しませている。
「形状は非常に複雑ですが、限られた工期で最大限の効率を追求し、さまざまな工夫を凝らしました」。施工を請け負う大林組の技術本部副部長、田村達一さん(47)は胸を張る。
直径が最大2・3メートルの鋼管を精密に組み上げていくタワー本体(塔体)の建設で、効率的な作業に貢献しているのが、ビルなどの建設現場でも見かける「タワークレーン」だ。
ある程度鋼管を組み上げたら、それを支えに自らせり上がり、常に最上部で作業を進める優れもの。稼働中の3基は、高さ420メートルまで荷物をつり上げられる特注品。従来品は300メートルが限界だった。
「作業はクレーンで勝負が決まる」と田村さん。小型化にもこだわり、普通は1、2台で作業するスペースで3台がフル稼働。製造したIHI運搬機械の田中正吉課長(39)は「地震や突風、雷などへの対応が最大の課題でした。最後まで滞りなく、作業が進んでくれれば」と話す。
クレーンの活躍もあって作業は順調で、6月19日現在で約398メートルに到達。いまは同じ高さにとどまり、第一展望台を造る作業が進んでいる。
ロケット鉛筆の要領
一見、高さの成長は小休止のようだが、さらなる高層部を造る工程が見えないところで着々と進んでいる。塔体中心部の空洞内で、アンテナ用の鉄塔「ゲイン塔」の組み立てが行われているのだ。
組み立ては、「ロケット鉛筆」のような要領だ。
ロケット鉛筆の芯を押し込むように、パーツを地上から1個ずつ差し入れ、タワー内部で継ぎ足しながら塔体の頂上まで引き上げる。その後、ゲイン塔の先端部分に複数の円形のアンテナを取り付けてさらに引き上げ、最上部に固定する流れだ。
「塔体作りと並行して地上で作業するので、安全かつ効率的。ゲイン塔は人知れずできあがり、突然、にょこっと頭を出すわけです」と田村さん。
ゲイン塔の引き上げと並行して、空洞内では別の作業がスタート予定。円柱形の型枠にコンクリートを流し込みながら少しずつ引き上げ、タワー中心部を貫く「心柱」を造っていく。
心柱は、地震時などにタワー本体の揺れを軽減する構造物だ。奈良の法隆寺などにある日本の伝統建築・五重塔の工法と同様で、本体と異なるタイミングで揺れることで振動を相殺する。また、地下では突起のついた壁状のくいが深さ50メートルまで根を張る。設計した日建設計によると、関東大震災など「きわめてまれな地震でも、ほぼ無損傷」という強さだ。
竣工まであと1年半。田村さんは「いとも簡単に、すごいスピードで成長しているようだが、その裏にとても緻密(ちみつ)な計画があることを知ってもらえれば」と話す。
一方、電波塔の機能をスカイツリーに引き継ぐ東京タワー。放送局からの賃料収入を失うことで、存続を危ぶむ声も出ている。
ただ、運営する日本電波塔では「東京のランドマークとして、これからも長く癒やしの場所であり続けたい」と話す。ラジオやJRの防護無線など電波塔機能の継続を図りつつ、ライトアップや改装など、観光面の充実にも力を注ぐ。
「抜かれたな。高さ。634メートルは壮大だ。そして夢がある。完成が楽しみだ」
東京タワーのマスコットキャラ「ノッポン兄」は、「高さ日本一」の座をスカイツリーに譲った翌日の3月30日、ブログ上でエールを送ってみせた。新旧タワーの“競演”が見られる日も近い。(千葉倫之)