椋野美智子氏との意見交換会に出席した【大分市長選2015】 | 日本と大分と指原莉乃の左翼的考察|ケンケンのブログ

椋野美智子氏との意見交換会に出席した【大分市長選2015】

3月末に、大分市長選挙に立候補予定の椋野(むくの)美智子氏の話を聴く機会があった。
僕は日程上の都合から中座をしたのですべてを聴けたわけではない。
内容を紹介しながら論評していきたい。椋野氏の話の要約は、本稿の末尾にまとめておく。なお、後日にあらためて椋野氏に問い合わせた内容と、
大分青年会議所など主催の公開討論会の録画も参照した。

評価すべき点と問題点を指摘するべき点の両方があって、評価の難しい政治家だと思う。僕自身が支持できるかというと否なのだが、僕が支持できる候補が大分市長選に出ない可能性もあるので、その場合、どうするかはここでは保留しておく。僕が支持できる革新候補が、当選可能性が皆無でも出馬するように主張したい。

氏が厚生省・厚労省にキャリア官僚として在籍していたころから取り組んできた、少子化や高齢社会、男女共同参画などの問題についての現状把握はだいたいにおいて的確だと思った。俗見・偏見を振り回す、ある種の政治家の言動をチクリと皮肉る一幕もあった。
ただ、これらの問題は複合的な問題なので、社会と政治の全体の把握が的確でないと、対策となる政策体系を形成できない。この点で、大きな疑問が残ったと言わざるを得ない。

いちばんの問題点は、福祉をめぐる給付と負担のバランスのあり方についての認識である。
氏は、福祉の給付水準に負担の水準が追いついていない、という認識を示した。氏は、ここで日本の現状は「高福祉中負担」だと表現した。給付と負担のバランスがとれていない、という意味で、日本の福祉が高水準だという意味ではない、という補足があった。
国政の管轄だと断りを入れながら、消費増税は必要との認識を示した。同時に、法人・富裕層増税も消費増税を市民に納得してもらうためには必要だとも言った。
税制のあり方は確かに国政課題だから、この認識が大分市政にどう影響するかは未知数だ。公開討論会では、
給付と負担のバランスをただすことが福祉の切り捨てにならないように、とも氏は言っている。市民への負担増をやむを得ないとする傾向の市政となる可能性がある。
子育て支援や高齢者施策などの福祉施策をどう改善をはかるかについては、問題の複雑さを指摘することで、具体的な施策が見えてこないうらみも残った。

また、椋野氏がさらっとふれておしまいにしていることや語らなかったことに、問題点が伏在すると考える。
釘宮磐前市政の事実上の後継候補だから当たり前だが、前市政について批判的言及はなかった。
また、企業誘致や大型公共事業については「それだけで魅力あるまちにはならない」と対立立候補予定者を暗に批判しながら、同時にそれ自体を否定的に語っているわけではない。
僕は釘宮市政を批判的に評価しているが、その問題点を是正する姿勢は椋野氏にはないのではないか、と推測している。それで、福祉施策の充実のための財源は得られず、市民負担増に頼るのではないか、と考えざるを得ない。

椋野氏は釘宮後継であることを公には否定し、いろいろな論点でも釘宮市政を批判の声が自分に及ばないように苦心していることがうかがえるが、そこははっきりさせておかねばなるまい。釘宮市政のどこを継承し、どこを継承しないのか、あいまいなままでは、やはり「釘宮亜流」だと位置づけざるを得ないと思う。

ただ、話の組み立てを子育て支援・男女共同参画・高齢社会などを中心にすえることに、対立立候補予定者との対比で好感を持たなかったわけではない。福祉政策の経済政策上の意義も少し触れられた。
都市間競争の3Tとして、テクノロジー、タレント、トレランスを挙げたのも印象的だった。特にトレランス(寛容)を強調し、目先の生産性を個別の企業が重視することのよって生じる「合成の誤謬」を批判し、異質な人びとが交流を持つ豊かな多様性が高い生産性をもたらすことを主張したのは印象的だった。行政官の経歴を持つ人物から、異質な存在への寛容や多様性の尊重が語られるのは、厚労省の女性官僚なら、別段、おかしなことではないが、新鮮さを感じた。

そこは、聴衆があまり多い場ではなかったが、聴衆は椋野氏の主張への納得度が高かったのではないかと推測する。子育て支援・高齢者施策・女性の地位向上などを軸に語りながら、それは行政だけの取り組みでなく、市民共働ですすめていくべきで、地域コミュニティの再建・形成が必要だ、とか、経済を支える観点からも福祉を重視しなければならない、といった言説は説得的に聞こえたのではないか。
別の場面で支援者が口々に椋野氏の演説に感心しきりというのを目にしたことがあるが、なるほど、こういうことかと感じた。
「選挙に強い候補」だという印象だ。「大分市に女性市長を」というスローガンが映える時代にもなっている。

椋野氏が大分大学教授として、地域コミュニティの実情についての調査・研究に参加していたことによる知見も何回か引用された。中央官僚にありがちな「机上の空論の人」ではなく、現場を知っている方だという印象をもたらしたことだろう。
大分市内の新興住宅地が高齢化して、一部に買い物が困難な住民が生まれていることは、僕自身の実家の話でもあり、松ヶ丘や富士見ヶ丘といった稙田(わさだ)地区の地名は、そこで育った僕にはなじみ深いものである。対立立候補予定者は稙田地区の出身で、地縁をいかした選挙準備をすすめているようなので、松ヶ丘や富士見ヶ丘での調査・研究に言及することは、対立立候補予定者との関係でも有効なのではないか。
椋野氏がかかわった調査・研究は、大分大学福祉科学研究センターのホームページの以下のところに掲載されている。氏がその調査・研究を市政にどう活かすのかは、本当は未知数なのだが、知見として参照してしかるべき基礎資料だとも思う。
福祉のまちおこし研究事業 > 郊外住宅団地 (大分市富士見が丘団地・松が丘団地)
福祉のまちおこし研究事業 > 中心市街地 (別府市中心市街地)
報告書

氏が先進例として「横浜市は保育所待機児童がゼロになった」と椋野氏は述べたが、これは重大な問題だ。元厚労官僚としての限界を悪い形で示したものと言える。
横浜市は、営利企業の保育事業参入を促進するため、保育所設置基準を緩和(つまり、子どもの保育環境が悪くなってもかまわないとした)し、さらに「待機児童」の定義も国の定義から変更して「待機児童ゼロを実現」と言っている。
安倍さんが知らない「待機児童数」のナゾ(保育園を考える親の会代表 普光院亜紀 PRESIDENT Online 2014年8月21日)
横浜市 待機児「ゼロ」を考える(しんぶん赤旗 2013年5月22日)

横浜市と国のこの程度の情報操作をいまだに用いる、無知なのか狡猾なのかは問題だ。

福祉政策について、在宅ケアの重要性や地域コミュニティの役割の強調を、政府・厚労省はときに財政負担の軽減を目的としてすることがある。それらを一概に否定すべきではないが、財政支出削減が主目的であれば当事者の願いに逆行することも多い。厚労省は、実際にそういうことをやってきた。椋野氏が大分市政でそうしようとしているかどうかはまた別の問題だが、かつて厚労省に在籍していたころに、その手の施策を企画・立案・実施してきたことに反省はないようだ。
こうした僕の疑問について、いまだ未知数である。





椋野美智子氏の話の要約

首長の姿勢で市町村の福祉水準は変わる
横浜市は市長の姿勢で待機児童がゼロになった

平成10年に厚生白書を書いたとき、少子化問題を正面から取り上げた
政治や行政の立場からはいろいろと取り上げにくい問題だった
子どもを産み育てるかどうかはもちろん、女性やカップルが自分たちで決めることで、政治や行政が強制できないし、強制するべきでもない
しかし、子どもを産み育てることを望みながらできない、というのはよくないし、子どもを産み育てることがやりやすくなれば子どもを産み育てる選択をする人びとが増えるように、政策で誘導するのが政治や行政の役割だ
(ここで一部政治家の少子化問題への無理解からする失言をチクリ)
仕事と子育てを両立できるようにしないといけないが、できない現状がある
その現状を見て後続の世代も結婚・出産・子育てを断念しているケースも多い
カップルでの男性の所得によって子どもの数が違うというのは統計ではっきりしているのが現状だ
子育て支援で職場がやるべきこと多い
市がいろいろとやるべきことがある。その体勢を整えないと
ここだったら子育てをしやすいから住みたいと言える大分市にしたい

少子化で労働力が減少するのは経済成長を阻害する

企業誘致や公共事業も大事だが、国や県がやることとのバランスや役割分担を考えねばならない
市がやるべきは福祉や子育て支援などの住民に密着した事業

労働力が減少するのだから、女性もしっかり働いてもらわないと。
高齢者も働いてもらう
障がいのある方も働けるようにする
若い男性の働き方を求めてはならない。若い男性にしかできないような厳しい働き方でないと働けないというのはおかしい。それは若い男性にもつらいことだ

大分市は高齢化率は近隣自治体と比較すれば上がらないほうだが、高齢者の数そのものははり増えていく
施設介護に頼らない施策が必要だ
在宅介護の支援となる施策を総合的にやっていくべきだ

財政も厳しい。福祉を国や自治体だけで担っていくのは不可能

地域で交流をつくることを推進する

新興住宅街の松ヶ丘団地はできてから数十年経って住民が高齢化し、地域からスーパーが撤退して住民が買い物に困る状況になった。富士見ヶ丘団地も似たような状況だ
高齢化した住民が集まれる喫茶店がない
精神障がい者施設が朝市を始めて、住民に食材などを販売している
大分大学教員として研究費を取って調査を行って、住民や障がい者施設にも聞き取りを行った
そこで買い物だけでなく、人間的交流に発展している

別府市中心市街地では、NPO法人BEPPU PROJECTが事業主体になって、コミュニティーカフェをプラットフォームといって助成金をもらってつくることに分大教員として参画した
ここでは、アートによるまちづくりが主題だ
アートには、つながりをつくりだす力と元気を引き出す力とがある

都市間競争の3T(テクノロジー、タレント、トレランス)というのが言われている
テクノロジーは技術力
タレントは才能ある人材
トレランスは寛容という意味で、異質・多様な人びとがお互いの存在を許しあっていくということだ
異質・多様な人びとが集まってつながり交流すると新しいものが生まれる
ITなどで高付加価値産業の振興で異質・多様な人びとが集まるようになっているということがシリコンバレーで起こっていて、それは結局は人のネットワークがしっかりしているから

商店街のにぎわいは交流の基盤としてとらえるべき

中心市街地は大分市の顔として誇れるようなものになるべき

大分市は広い。各地域の特色に合った、地域にふさわしい施策を支所で相談できるようにしたい
支所での相談機能は縦割りじゃないものにしたい

福祉の負担と給付のバランスについては、消費税を増やしていく必要がある
日本の現状は高福祉中負担(福祉の給付と負担が見合っていない、という意味。日本の福祉が高水準だという意味ではない)
福祉の切捨てにならない効率化が必要だ
法人増税や富裕層増税で得られる税収は限られているので、消費増税がないと福祉を支える財源はまかなえない
消費増税を納得してもらうために法人・富裕層課税は必要だ

e-みらせん 大分市市長選 公開討論会 録画