堂山物語 第87話
堂山町から足を洗ったとは言えど僕の職場は堂山町に存在している。
日常的な行動は、あんまり変わっていなかった。
けど気持ちが全然違っている。
遮那王の3年目は、理不尽な南川店長もヒョウドウ厨房長もいない。
若干、カタヤマ店長に不安は覚えるもののヒトをイヤな気持ちにさせるヒトではなし、
オオサキ厨房長も何かあったら地元の 「香川ではなぁ~」 が口癖だがイイヒトだった。
そして、何よりもミキという女性を愛していこうと決心したのだ。
正直、料理の世界の給料は安い。
バイトの身でありながら、僕が堂山で稼いでた金額(チップ込)の半分も無いのではと思う。
只、ミキと付き合うようになってからは風俗通いはピッタリ止めた。
今までの僕の生活を知るヒト、特にヒロさんなんかには
ヒロ 「信じられへんわぁ~!」
とよく言われた。
そう今まで風俗で遣っていた金額が如何に多かったのか
風俗通いを止めてわかる。
また当時、僕はまだ実家暮らしだったので出て行くお金も少なかったので
遮那王のお給料で別にお金に困るという事には無かった。
ミキとのデートもバンバンお金を使うような事はしなかった。
それこそ一応2人で付き合った記念日に設定した空港に行った日は
美味しいモンを食べるために、ちょっとイイ感じの予約をしたりもしたが
普段は讃岐うどんとかラーメンとかお好みとかで済ましていたし
2人ともそれで満足していたのだ。
ミキと2人で木曜日と日曜日にデートしていたら必ず行っていた場所がある。
ちょうど僕がふぐふぐで働いていた時、バイト帰りに初めて見たストリートの2人組だった。
何故だか知らないが木曜と日曜の夜10時から1時間だけ
ストリートライブをしていたヒト達に僕は興味を持ってしまう。
ひとりはボーカル兼アコギ。
でもうひとりは三線(さんしん)という沖縄の三味線と
変わった感じの音楽を繰り出す二人組で当時、結構人気があったように思える。
ストリート場所はいつも梅田の地下街。
とある百貨店のシャッターを背に2人は座り込んで歌っていた。
だから観客も前列の方は座り込んで聞いていた。
観客は多い時は百人くらい集めていたような気がする。
僕達もこのヘンテコなストリートに魅了されていった。
♪さいさいやーやーよー!
こんな感じのオリジナル曲や なごり雪 や 花 とかをよく聴いていた。
♪汽車を待つ君の横で
ぼくは時計を気にしてる
季節外れの雪が降ってる
なごり雪を聴いていた時にミキがボソっと言った。
ミキ 「いつか一緒に住めるかなぁ…」
堂山 「えっ?」
ミキ 「だって、なかなか会う時間ないやん…」
堂山 「まぁ、そうやけど…」
ミキ 「仕事の時間滞が逆やからしょうがないねんけどねぇ~…」
堂山 「っていうか一緒に住みたいん?」
ミキ 「えっ?」
堂山 「って住みたくないんかい!?」
ミキ 「住む?」
堂山 「住もうか?」
突然ミキが提案した一緒に住むという事がこの時から2人の間で動き始める。