「トリツカレ男」 | [Twinkle-Box]

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トリツカレ男 (新潮文庫)/いしい しんじ

(単行本2001年刊・文庫2006年刊)


文庫を 店頭で見かけたときに。

クセのありそな 愛嬌の

表紙に描かれた キャラクターに惹かれて。 


ぱらぱらっと してみると、

ナンセンス&コミカルな童話のような…?


ということで、読んでみることに。



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主人公の ジュゼッペ氏は、

とにかく、何かに心惹かれたなら

とことん とことん とことん…


四六時中、そのことで

頭が いっぱいに なっちゃう。


頭だけでなくって、

口にも、行動にも、出ちゃう。



たとえば、「オペラ」が

ふいに、彼の気に留まったなら。


観客として劇場に通いつめる…

とか

本格的な 歌の修行をしてしまう…


などという、

真っ当なハマり方ではなく。


日常のコミュニケーションの すべてが

らららー、な、うたーに、なっちゃう~っ!


という、実に いいかげ~んなノリの

トリツカレ方を してしまう~。



職場でも どこでも その調子、

おおいに、文句も言われるのだけど。


もう、「それ」がなくっちゃ


~いーきさえ、でーきないー、ばかなおれー


のだと、

自分でも どうしようもなさそうな ご様子。



結局は まわりのみなさんも

悪気があるわけでなし…、ま、いっか…的なノリで

いつしか 彼の奇行に 慣れてゆくのだけど…。


そのころには、また実に あっさりと。


彼の興味は、また つぎの、

はたから見てれば たわいのない、でも

彼にとっては むしょーに 心惹かれる…

ものへと…。



そうして つぎつぎに

そんな 夢中になり方、アリですか…っ(笑)


…なもの達と、出会って、


そのたんびに、

とことん 自分の時間と 手間と 興味と

必要なら、ありったけの経済力も

注ぎこんじゃって…


周囲からは、また何かに トリツカレテるみたいだよ…

と、可笑しがられてる… 

ジュゼッペ氏が


…あるとき。



たぶん、初めて…

「心」を持つ 対象に

トリツカレる。


…ある、名前も知らない

やせて 無口な女の子の 

やわらかな ほほえみに…。



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彼女への アプローチも、

ジュゼッペ氏ならではの、あれやこれや。


それまでの トリツカレ歴を総動員して、

あららー、何で あれがまた、

こんなとこで活かされることに…!


…という、お見事さ。



でも、彼女の 心のなかの

本当に 近づけば 近づくほどに…


彼の、滑稽なまでに 一途な想いが

痛々しくなってくる。


そこまで やるコトないでしょーっ(笑)!?

…と思って読んでたのが、


ああ、そこまで深く、

彼女を 思いやれるんだ…


…、という、せつなさに…。



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何かに 夢中になる姿は、

ひょっとしたら。


見た目は

クールな カッコよさばかりでは

いられないかも しれないですけど。


無条件に 夢中になれる 何かを

いつも、胸に抱ける、っていうのは

とても、幸せなことだなぁ…、と。


ファンタジックにナンセンスな 語り口で

描かれていく ジュゼッペ氏に、

思いました…。