天井裏の棲み人 | 文藝PIERROT

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サブカルに光あれ

「明日は出掛ける用があるので」と、ネットを通じて大富豪で遊んでいた友人らに告げ、ぼくは寝床に入った。
安布団だが、それでも、眠れば都。
じんわりと、それでいて、ぬっくりとした暖かみに包み込まれ、眠りに落ちていく。
はずだった。
ドンッ! ドドンッ!
天井裏から激しい物音が響く。半覚醒して、ぼくは思わず声を漏らした。
「またなのか・・」
ドンッ! ドンドンッ!
子どもが飛び跳ねている。そんな音だ。
枕元においた携帯電話を手に取る。
午前2時。
ドンッ! ドドドンッ!!
「何をやれば、あんな音が‥」
長い棒があれば、ムムッ!くせ者ッ!!よろしく、天井を思い切り突っついてやりたい。そんな衝動に駆られた。
しかし、残念ながら、せせこましく最低限のものしかないぼくのワンルームには、そんなものはない。
清掃具は掃除機だけだ。壊れたら、後悔どころじゃすまない。
そもそも、暴力的アクションを起こしたからといって、問題が解決するわけではない。
ドンッ! ドンッ!
天井裏からの激しい物音は、夜が明けるまで、不定期に絶え間なく続いた。

しかし、不思議なことがある。
ぼくは、隣近所と真上の部屋を引っ越しのご挨拶で回った。
いついっても、誰とも顔を合わせることは無かった。
都会だから近所付き合いがないのは仕方が無いことなのかもしれない。
だが、気になるのは、上の階はチャイムすら鳴らなかったことだ。

あれから8ヶ月が経った。
誰かが引っ越してきた可能性は充分にある。
それでも共同郵便受けのつじつまが合わない。
ぼくの部屋の真上に位置する部屋の郵便受けには、未使用を意味する緑のテープが張られたままなのだ。

天井裏には、暴れまわるダレカが住んでいるのだろうか。
それとも、ダレカですらないナニカが棲んでいるのだろうか。