書を捨てよ、チェキを撮ろう。 | 劔樹人の「男のうさちゃんピース」

書を捨てよ、チェキを撮ろう。





楽しみにしていたはずなのに、いざその時を迎えると逃げ出したくような気持ちになるものって誰でもあるんじゃないかと思うんですが、僕にとってはアイドルとの接触がまさにそれなんです。



握手会でよく何周もしている人がいますが、僕は一回でくったくたに疲労してしまいます。

とてもではありませんが緊張で会話ができないので、過去、剥がしのスタッフ(粘る客を引き離す係)に触れられたためしがありません。

チェキ会でも、本人たちの顔を直視できないので、もしそこにいるのが別人だったとしても、チェキを確認するまで気付かないと思います。

何もできない、気の利いたことのひとつも言えない自分に毎回ショックを受ける。傷つき、落ち込む。いや、まあ直後は明らかにニヤけているのですが。



だのになぜ、自分は握手会に、チェキ会に行くのか。そんなにしてまでーー。







そんなわけで、先日のGWも、モーニング娘。’15のチェキ会に行ってきました。

僕が今回選んだのは、グループチェキA組(鈴木、石田、小田、牧野、羽賀)。
いやー、いいメンツですよねー。



シングルをBOXセットで買うと参加できるこのイベントは、毎度ツーショットチェキ、個別握手、個別サインなんかもあるのですが、道重さん卒業後、明確な推しを喪失している僕には、グループチェキがちょうどいい塩梅なんです。



早起きして失礼無いよう身を清め、会場へは徒歩で向かいました。その日は絶好の行楽日和という感じで、乾いていない髪が風に吹かれてとても気持ち良かった。

時間は朝の10時、渋谷のイベントスペースに整列します。

その頃になるともう随分緊張してきたのか、少し前の人が係員にクレームをつけているのも本当にどうでもよくて、全く頭に入ってきていませんでした。

ただ、会場内でビリビリ、ビリビリ、と何かを破るような音がしていることにふと気が付き、音のする方を探すと、全身黄緑の全身タイツを着て、顔を黒く塗ったヲタが、自分の身体に白いガムテープを巻きつけているのが見えました。

ハロヲタが大好きな僕にとっては、どんな凄いのがいるのかというのもコンサートやイベントの大きな興味関心ではあるのですが、この時気になったのは彼くらいだったでしょうか。



整列していると、思いのほか早く自分の番がやってきました。

もうチェキはいいから帰りたいという気持ちがピークに達したその時、「次の方」と係員に呼び込まれ、ブースの前で希望のポーズを聞かれました。

僕はいつもこれが本当に苦手で…。
本当は恥ずかしいから、「お任せします」とか言ってしまうのが一番楽なんですが、それだと自分に負けてるなと思って。

だから常に勇気を振り絞って「うさちゃんピースでお願いします」と言い続けてきました。



その日も同じように意を決して、男性の係員さんに「うさちゃんピースでお願いします」って言ったんですよね。

そうしたら、その人、たぶん知らなかったんですよ、うさちゃんピース!


こっちは道重さゆみさんが残した大切な遺産だと思っているから、「うさちゃんピース」というその一字一字に大層思い入れがあるんですが、その係員さんは、ブースの中のメンバーと撮影係にこう叫んだわけです。



「うさぎちゃんピースでーす!」



その声と一緒にブースに入る私…。

マジか!
これじゃ自分が間違えてるみたいだよ!



ただでさえメンバーを直視できないのに、一層恥ずかしくなった僕は、完全に下を向いたまま、「よろしくお願いします…」と小さな声でつぶやいて、座るべき椅子に素早く座ると、横と後ろにいるメンバーからのオーラを完全にシャットアウトしつつ、チェキのレンズだけを見つめて満面の笑顔でうさちゃんピース!

そして、逃げるようにブースを去る!


ちなみに、ここでチェキを受け取らずに帰ろうとする人ってすごく多いんですよね。
やっぱり、みんな気が動転していますからね。
僕もいつもそうで。ニヤニヤしながら、そのまま帰ろうとしてしまうんです。

「ちょっとお客様!チェキです!」

と言われ、まだうっすらとしか絵の浮き出ていないチェキフィルムを受け取って見ると、メンバーがうさちゃんピースをしてくれていることがわかりました。


ぼんやりしてチェキ会場を出ると、ちょうど先ほどのガムテープの人が、整列場所から会場に入るギリギリの位置に並んでいるのが見えました。
全身黄緑だったから普通に生田ヲタだろうと思っていたけど、体はほぼ白いガムテープが巻き付けられているため足の先くらいにしか緑がなくなり、得体の知れない姿になっていました。よく見ると身体の前面に黒い文字で何か書いてあります。

何て書いてあるんだろうと気になって、仕切りの外から体を乗り出して覗き込むけれど、角度的に見えない。もうちょっとこっち向いてくれたら…!と願うものの、その人は体をガチガチに固めているので、直立したまま微動だにしない。

どうしても何て書いてあるか見たくてしばらく粘ったんですが、列が進み彼は膝から下だけでチョコチョコ歩いて、会場の中に消えて行きました。






建物の外に出ると相変わらず風と太陽が気持ちよくて、せっかくなので僕は、知らない道を歩いて帰ることにしました。



何をしに来たのかもわからないようで、でもなんとなく楽しかったようで、不思議な気持ちでした。

チェキ会ではいつもこういう気持ちになります。

誰かと共有したいけど、ここに友達はいない。

仮に友達がいたとしても、チェキのブースにはひとりで入らなければならない。

人は、生まれるときはひとり、死ぬときもひとり、そしてチェキを撮るときもひとりなんだなとつくづく思います。




太陽の下ですっかり色の出たチェキを見直すと、僕の横にはズッキとだーいしが、後ろには小田ちゃん、まりあちゃん、羽賀ちゃんがいたことがわかりました。

そこではじめて、彼女たちが、確かに自分のそばに居たんだなと実感したのです。


彼女たちは笑っている。
モーニング娘。’15が精一杯生きた時間が、そこに刻まれている。

そして自分も。




チェキ会はいつも、自分を見つめ直す機会を与えてくれます。

孤独。

喜びと悲しみ。

過ぎてゆく時間。

そして、生きている意味。


僕たちは何のために生きて、この世に何を残すのか。





ふと我に帰ると、道の先にあるチェーンのサンドイッチ屋が目に入りました。

ちょうど喉も渇いているし、こんなとこにこんな店があったんだなあと思って入ると、そこは坂の半地下にある店で、窓の少ない店内は想像以上に暗く、お客さんはひと組のカップルしかいませんでした。


暇そうな店員さんに僕は、

「飲み物だけでもいいですか」

と、ジンジャーエールを注文しました。





新しき街並みは 時に寂しく 時に切ない

だから負けられない



頭の中では、会場で流れていた「夕暮れは雨上がり」が鳴っていました。