京極 夏彦
「旧怪談―耳袋より (幽BOOKS)
」
メディアファクトリー
江戸時代に、南町奉行、根岸鎮衛によって書かれた「耳嚢」。これは、好奇心旺盛だった根岸鎮衛が、友人知人から聞いた面白い話、奇妙な話、町の噂話、迷信などを書き留めたもの。怖がらせようという意図はなくとも、中にはなんとなく怪しい話、つまりは”怪談”として受け止められてしまうものもある。
この本は、京極さんがそういった怪しい話、奇妙な話を、現代の人間が”怪談”として読むことが出来るよう、現代風に書き改めたもの。原文そのものも併録しているところが、古典と現代を繋ぐ京極さんのお仕事たる所以でしょうか。興味が沸いたら、ぜひオリジナルの「耳嚢」を、ともあるしね。
この本には全部で三十五のお話が収められていて、原文のタイトルの他にも、現代風のタイトルが付けられている。「どすん」(原題:戯場者為怪死事(しばいものかいしをなすこと))とか、「もう臭わない」(原題:藝州引馬山妖怪の事(げいしゅうひくまやまようかいのこと))とか、一体何のこと??とちょっとそそられます。
文章の方は流石読み易いんだけど、現代語訳としてデモンストレーションとか、ミーティングなどは、ちょっとやり過ぎ?という気もするなぁ。普通に漢字でも、もっといい表現がある気がします。原文もルビがふってあって、比較的楽に読むことが出来るので、そっちと比べて読むと確かに楽しいかも。私は原文の方は、全部読んだわけではないのだけれど。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」なわけですが、生きていれば不思議なこと、割り切れぬ事に出会うこともある。そんな字余りのようなお話たちを楽しめます。
Wikipedia
によると、「耳嚢」は”全10巻1000編もの膨大な量”とのことだけれど、作家さんたちはどうやってそのうちのいくつかをセレクトするんでしょうねえ、すごいなぁ。
「耳嚢」と言えば、宮部みゆきさんの、まさに根岸鎮衛その人が登場する「霊験お初捕物控」のシリーズがありますよね。シリーズの第一作「震える岩」の巻頭には、「耳嚢」の巻六からとられた「奇石鳴動のこと」が載せられているし、主人公お初の不思議な力が、作中の根岸鎮衛によって記録されたりもするのです。