三浦しをんさん/「人生激場」「月魚」 | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

最近の私の読書の仕方はちょっとずるくて、エッセイ・考え方の類から、読んだ事の無い作家さんに入門する事が多い。考え方の本ってちょっと読み辛いかなあ、と思っていたのだけれど「どこに着地するのかよく分かんない小説」を読むよりもストレスが少ない事が分かったし、日常を書いたエッセイはそもそも読み易いし。さらに最近の読書としては、金銭的な問題(無職なので)や時間的な事(暇ですからね)から、図書館の利用頻度が非常に高い。当然賞を取った本なんかは、貸し出し中な事も多いけれど、その作家さんの本が他にないわけでもなし、装丁や冒頭が気に入ったものなんかを借りてきて読んでいる。

前置きが長いですが、で、三浦しをんさん。まずは、エッセイ「人生激場」を読んでみた。面白かった。女性の作家さんって、日常の物事に対し、突っ込む方が多いのかなぁ。山田詠美さんのエッセイにも似てる。あちらよりも、当然若いけれど。ヒステリックさを除いた、氷室冴子さんのエッセイのようでもある。

それで、「月魚」という言葉と、著者の着物姿の古風な近影に惹かれて、こちらの本を借りてきた。

三浦しをん「月魚」角川書店

古書の世界に生きる幼馴染の男性二人の物語。古書の世界も興味深いし、齟齬も無い。文章の巧みさは、かなりのレベル。

その細い道の先に、オレンジ色の明かりが灯った。古書店『無窮堂』の外灯だ。瀬名垣太一は立ち止まり、煙草に火をつけた。夕闇が迫っている。道の両側は、都心からの距離を考えれば今どき珍しい、濃縮された闇を貯蔵する雑木林だ。街灯はあるが、それも木々に覆い隠されている。瀬名垣の訪れを予知したかのごとく、『無窮堂』の灯りは薄暗い道を淡い光で照らした。霧の港で船を導く、灯台の灯火。寄港の許しを請う合図のように、瀬名垣の口元の小さな赤い火が明滅した。

こんな書き出しの冒頭、素敵でしょう。でも、何となく騙されたような思いが残る。なぜかというと、この作品には、矢鱈とやおいの薫りが濃いのです。ちょっと読み進めるのがきつかった。いいなあ、と思った箇所もあったのだけれど、これ男女では駄目だったのかなぁ。同性愛に偏見があるわけではないけれども、色素の薄い美少年キャラと、快活で豪胆な背の高いその相方、ってのは如何にもやおい的典型に感じてしまった。

ちなみに、いいなあと思った箇所。

瞼の裏に、記憶の底に刻みつけられた緑の山々の稜線が浮かび上がる。奥深い山の間を流れる細い沢。流れに沿って並ぶささやかな家々。私の生まれた場所。今はもうない故郷の村。(中略)「天気のいい日に砦のような見学用の橋の上から覗き込むとね、澄んだ青い水の中に、ゆらゆらと村が見えるんだ。細い川にかかっていた橋が、雑貨屋の前にあった赤い郵便ポストが、そのまま水底に残っている。」

若いけれどいい作家さんなのだと思うのです。技量にも問題はないのでしょう。ただ、巧いのだけど、伝えたい事がよく分からなかった。

気に入らなかった本について、何だってこんな長々と書いたかと言うと、「面白い作家さんだとは思うので、このブログにいらした方で、『しをんさん、これが面白かったよー』、というのがあれば教えて下さーい」ということに尽きます。ご存知の方、お手数ですが教えて下さい~。あ、もし「月魚」を読まれた方がいらしたら、そちらの感想もお聞きしたいです。
著者: 三浦 しをん
タイトル: 人生激場
著者: 三浦 しをん
タイトル: 月魚
「月魚」、ハードで読みましたが、文庫になっているようです。

*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。