前置きが長いですが、で、三浦しをんさん。まずは、エッセイ「人生激場」を読んでみた。面白かった。女性の作家さんって、日常の物事に対し、突っ込む方が多いのかなぁ。山田詠美さんのエッセイにも似てる。あちらよりも、当然若いけれど。ヒステリックさを除いた、氷室冴子さんのエッセイのようでもある。
それで、「月魚」という言葉と、著者の着物姿の古風な近影に惹かれて、こちらの本を借りてきた。
三浦しをん「月魚」角川書店
古書の世界に生きる幼馴染の男性二人の物語。古書の世界も興味深いし、齟齬も無い。文章の巧みさは、かなりのレベル。
その細い道の先に、オレンジ色の明かりが灯った。古書店『無窮堂』の外灯だ。瀬名垣太一は立ち止まり、煙草に火をつけた。夕闇が迫っている。道の両側は、都心からの距離を考えれば今どき珍しい、濃縮された闇を貯蔵する雑木林だ。街灯はあるが、それも木々に覆い隠されている。瀬名垣の訪れを予知したかのごとく、『無窮堂』の灯りは薄暗い道を淡い光で照らした。霧の港で船を導く、灯台の灯火。寄港の許しを請う合図のように、瀬名垣の口元の小さな赤い火が明滅した。
こんな書き出しの冒頭、素敵でしょう。でも、何となく騙されたような思いが残る。なぜかというと、この作品には、矢鱈とやおいの薫りが濃いのです。ちょっと読み進めるのがきつかった。いいなあ、と思った箇所もあったのだけれど、これ男女では駄目だったのかなぁ。同性愛に偏見があるわけではないけれども、色素の薄い美少年キャラと、快活で豪胆な背の高いその相方、ってのは如何にもやおい的典型に感じてしまった。
ちなみに、いいなあと思った箇所。
瞼の裏に、記憶の底に刻みつけられた緑の山々の稜線が浮かび上がる。奥深い山の間を流れる細い沢。流れに沿って並ぶささやかな家々。私の生まれた場所。今はもうない故郷の村。(中略)「天気のいい日に砦のような見学用の橋の上から覗き込むとね、澄んだ青い水の中に、ゆらゆらと村が見えるんだ。細い川にかかっていた橋が、雑貨屋の前にあった赤い郵便ポストが、そのまま水底に残っている。」
若いけれどいい作家さんなのだと思うのです。技量にも問題はないのでしょう。ただ、巧いのだけど、伝えたい事がよく分からなかった。
気に入らなかった本について、何だってこんな長々と書いたかと言うと、「面白い作家さんだとは思うので、このブログにいらした方で、『しをんさん、これが面白かったよー』、というのがあれば教えて下さーい」ということに尽きます。ご存知の方、お手数ですが教えて下さい~。あ、もし「月魚」を読まれた方がいらしたら、そちらの感想もお聞きしたいです。
- 著者: 三浦 しをん
- タイトル: 人生激場
- 著者: 三浦 しをん
- タイトル: 月魚
*臙脂色の文字の部分は、本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。