原風景/「はじまりの記憶」  | 旧・日常&読んだ本log

旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

大きな事故や人為的事件があると、思い出すのが柳田邦男さん。
多くの優れたノンフィクションを著されていることで著名な方。
基本的に人間はミスを犯すもので、そのための安全装置が必要であること、また事故が起こった時に犯人探しをするのではなく、それをもって再発防止の糧とすることの重要性を説かれている。
事故原因の追究とともに、再発防止策が採られることを祈っています。運転手とそのご家族が、必要以上に責められ、暴かれることがありませんように。

今日は次の一冊。

柳田邦男 伊勢英子「はじまりの記憶」

著者: 柳田 邦男, 伊勢 英子
タイトル: はじまりの記憶

私は伊勢英子さんを全く知らなかったのだけれど、絵本・児童書を中心に活躍されている絵描きさんとのこと。
絵本を見たら私にも見覚えがあるのだろうか。
息子さんを亡くされた柳田さんが、宮沢賢治の絵本「風の又三郎」を手に取ったことが切っ掛けで、新聞連載の「「死の医学」への日記」の挿絵を伊勢さんに依頼されたらしい。伊勢さんもノンフィクションに興味がなく、お互いに存在を知らない互角のスタートであったとのこと。人の出会いってほんとうに不思議だ。

プロローグの後は、お互いの原風景を探すということで、テーマに沿ったエッセイをお二人で書かれている(duoエッセイ)。一人で内面を探索するのもいいけど、表現方法の違う人と刺激し合いながらやってみるのも、意外な発見や展開があって面白だろうということらしい。

挿絵も各々がつけておられるので、ノンフィクション作家柳田邦男さんの絵まで見ることが出来てしまう。ちなみに、柳田さんはたいてい花を挿絵にしておられるのだけれど、文章そのままの端正で丁寧な絵です。

かなしみ、空、ころぶ、存在理由、忘れる、音楽、マイ ウェイ、眠る、身体感覚、笑う、夢、自立の各テーマにも、勿論いいなーと思った箇所が沢山あるのだけれど、キリがなさそうなのでプロローグから、少し引用します。

心にたくさんの引き出しを持っていて、そこには生まれたときからいままで見てきた風景とか感性とか涙とかがいっぱい入っている。それらはどういうことばと出会った時に、わっと出たがるのか、自分でも知りたいし、思いがけないものが出てきたとき、あ、絵描きでよかったと、思うわけです。(伊勢

表現しようとするから見えるといってもいいと思うんです。ふつうは、作家や絵描きは人よりよく見えているから表現していると思われがちですが、逆なんですね。表現しようという衝動に突き動かされて表現しようとすると、しっかりと対象を見ていない、ディテールを見てないことに気づく。そこで詳しく調べたり、観察し直したり、歩き回ったりして、はじめて対象の核心や全容をつかみ、ようやく表現に入るわけです。詩歌や文章を書こうとするから、人間の心が見えてくる。絵も同じだと思うんです。自分の原風景だって、何かの形で表現しようとする緊迫感がないと、見えてこない。(柳田

自分の人間形成の原点を探ると、人生も心も豊かになるのではないか。その場合に、大事な体験を絵画的な情景としてとらえることができれば、ヴィヴィッドに自己形成の原点に近づけるような気がするのです。そして、自分という存在への理解と納得を深めることができる。(柳田

この本によって興味が出てきたのは、「伊勢英子」さんというひと。
「フランダースの犬」ルーベンスをもっとちゃんと知ること。
伊勢さんの飼い犬だったグレイ(偶然にもハスキー!)。
ああ、いい本を読んだなー。
(読んだハードカバー版を載せておきますが、既に文庫化されているようです。あと、本日なぜかamazonから引っ張った画像が、変な所にしか入らないので、いつもと違う箇所に挿入してます。他意はありません)

*臙脂色の文字の部分は、引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡下さい。

今、アメブロの「お知らせ」を見たら、「ネタステ」とやらで「JR福知山線の脱線事故原因」について、「ネタ」を募集しているらしい。その取り扱い方には、非常に強い違和感を覚えます。