最近読んだ本に、次のようなことが書いてありました。


人生は足りないことだらけであり、その人生の本質に気づくことを

知足という。足りないことを十分に承知して、満足することが重要

である。知足こそ、生きていく「苦」を「楽」に変える極意である。

(早川一光著「大養生の作法」角川書店、12~13ページを要約)


知足とは、足りないことを知っているだけでなく、足りない状態に

対する心の持ち方や身の処し方も表した言葉だったようです。


上記の「人生」を「ベンチャー企業」に置き換えて見ると、非常に

しっくりきました。曰く「ベンチャー企業は、足りないことだらけで

あることが本質である。足りないことを前提に、それに満足すれ

ば、ベンチャー企業の成長支援は楽しみになる。」


ベンチャーキャピタルが出資している企業では、月次で取締役

会と称した業績報告会が行われるのが通常になっています。

本来は、実績に基づく仮説検証や成長戦略を議論し合う場に

なれば有益なのですが、出資を受ける際に結んだ投資契約を

守るためという儀式になっている場合が多いのが実情です。


ベンチャー企業側も、当初は、アイデアを引き出そうとしたり、

相談ごとが多いのですが、キャピタリストと称する人たちは、

誰でも分かる不足点を声高に叱責し、経営陣の無能さや人格

批判を繰り返すばかりなので、時の経過とともに、形式化して

以前のシャンシャン総会と同じく、質問は出ずに短時間で終了

するのがいい、ということになってしまいます。


確かに、何が足らないのかを知らない経営者もいるのですが、

月1回ぶっつけ本番のキャピタリストが気づくことは、言われる

までもありません。足りない状態を前提として、何に挑戦して

いけばいいかが問われているところであり、仮説のヒントを提

供することが、取締役会に参加する意味だと思います。


経営陣の無能ぶりを論うキャピタリストは、自らの投資判断の

誤りを強調しているに過ぎません。ベンチャー企業の成長は、

経営者自身の成長に依存します。見えにくい事業環境の中で、

きちんと成長していくには、経営者自身の自己革新が欠かせ

ません。裸の王様になりがちな経営者が、自らの心がけで変

わっていくことは、ある意味で大変なことです。


足りないことを前提とすれば、足りないことを批判している暇は

ありません。一緒に働けるご縁に感謝して、文殊の知恵を絞り

出すにはどうすればいいか、真剣に考えていけば、取締役会は

きっと実り多きものになっていくことでしょう。

2007.9.24