製作年度:2012年 製作国・地域: 日本 上映時間: 103分
【※ネタバレ含みます。知りたくない人は右上のバツを押すべし。】
とある田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、
クラスの中では地味で目立たない、校内ヒエラルキーの最下層に位置する存在。
監督作品がコンクールで表彰されても、
クラスメイトには誰からも相手にしてもらえなかった。
そんなある日、学校で一番の人気者・バレー部のキャプテン桐島が
突然退部するという事件をきっかけに、
各部やクラスの人間関係は歪み始め・・・
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邦画史に残る傑作。
・・・と言い切ります。
あえて「邦画史」と称するには理由があって、
極めて日本的な価値観が凝縮されている映画なのです。
白か黒か、YESかNOか・・・の自己主張が明確な欧米型じゃなく、
グレーな決断や、言葉にしない奥ゆかしさや、
上辺と本音の葛藤だったりと「うわ!日本人!」を
ここまで表現した映画はなかなかないと思います。
個人的に大好きな西川美和監督(【ゆれる】【ディアドクター】etc)も
人間のエゴとか複雑な感情の機微を描くのが得意だけど、
彼女にも同様に「日本人!」をよく感じます。
要するに何が言いたいかというと、邦画が世界に勝るポイントって、
“人間の本質を深くえぐること”なんじゃないかなと。
サスペンスやド派手エンターテイメントとなると、
お国柄ムリを感じてしまうんですよね。
さて。
本作を鑑賞した方は、みんな自分の学生時代を振り返り、
あの校内ヒエラルキーを思い出すでしょう。
様々な人物の目線から、繰り返し語られる金曜日。
おそらく誰かしらに感情移入させられるほどに、
多種多様な・・・そして確かに学生時代にいたキャラクターたち。
圧倒的大多数は親に養われ、深く考えることもなく、
自動的に“高校生”というものになる。
狭い狭いコミュニティーが、彼らに取っては“世界”そのもの。
電車に乗れば、飛行機に乗れば、いや、歩いていける距離にだって、
別世界が広がっていることは知識で知っているはずなのに、
彼らが感じる世界というのは場所ではなく、
そこに存在する人間関係なのだ。
それぞれがそれぞれのポジションを演じていて、
群れることで増す優越感や存在意義。
3年間抜け出すことの出来ない閉鎖空間の中で、
いかにアイデンティティーを確立するかというゲーム。
そんな中で、ヒエラルキーのトップに君臨する桐島の不在が、
彼に依存していたイケてるグループに動揺を生む。
この映画のすごいところは、
青春群像劇には欠かせない“成長”という要素を、
イケてるグループの弘樹(東出)に託したことですよね。
ベタな映画であれば地味でダメな奴、
本作でいうなら前田(神木隆之介)が
何かをきっかけに成長していく・・・というのが普通!
でも、前田はまったく成長しない。
これは悪い意味ではなくて、すでに出来上がっているんです。
映画という“譲れないもの”をすでに持っていて、
それさえ追えていれば、他人の目や序列なんてどうでもいい。
無謀な夢に依存している痛い奴かというとそうじゃない。
分相応を知っていて、それでも大好きだと言えるものがある。
太い芯がしっかりと一本育っているんですよね。
その対比として描かれる弘樹。
一見、ルックスも良くて何でも出来るイケてるグループの筆頭格。
桐島に一番近い男でありながら、
どこかで満たされない気持ちを引きずっている。
“自分探し”という言葉があるけど、
そんなものは社会人になったってわからないもんで。
でも、思春期の頃は焦るんですよね。
それを体現している前田や、
来るはずのないドラフトを待って部活に出続ける
野球部のキャプテンみたいに“自分を持っている奴”を見ると。
正直、この2人以外は大なり小なり
桐島不在の影響を受けて、アイデンティティーを揺さぶられてる。
「桐島が屋上に来ている!」
弘樹含めたイケてるグループも、バレー部の面々も、屋上に集まる。
そこでゾンビ映画を撮影している前田たち。桐島はいない。
このとき、最下層の前田たちなんて眼中にない。
撮影なんておかまいなしに場を荒らす彼らに、カメラを回す前田は・・・
「おかしいのはおまえらの方じゃないか!」
「こいつら全員食い殺せっ!!!」
最下層ゾンビたちに号令をかける。
ボコボコにされながらカメラを回す。
ここ名シーン。
ちなみにこのゾンビ映画自体も、顧問の先生に全否定されたのに、
前田は自分の意思を通して撮影しているものなんですよね。
外因じゃ揺らがないんです。
下に見ていたはずの彼らの方が、よっぽど強い。
このことに唯一気付き、感化される人間が弘樹。
前田の中に、自分が持ってない何かを見つける。
いままで接点を持とうとなんてしたことのない存在に問いかける・・・
「将来は映画監督?」
何気ないセリフ。きっと間を埋めるためだけの。
「多分そうはならない。でも、好きなものと繋がっている。君は?」
跳ね返ってきた質問に答えられない自分がいる。
それまでに学校生活で築いてきたすべてが無価値に思えた瞬間。
「オレはいいよ。」
・・・と、涙目で去っていく。
このやり取りも本当に素晴らしい!!
これ下手な監督だったら、弘樹に号泣・慟哭させて・・・
「オレには何もなかったんだ!何もぉ~!!」
・・・とか言って、その場で膝から崩れ落ちさせますよ。
このシーンに限らず【桐島~~】は、
視線や仕草やセリフの行間に、
言葉で表せない戸惑いを細かく丁寧に演出してるんですよね。
よくダメな映画に「不誠実」という言葉を使ってるけど、
この映画はとにかく真面目です。
間違いなく、個人的邦画ランキングのベスト3に入る映画。
ラストシーン、野球部のグラウンドを見つめながら、
桐島に電話をかける弘樹。
電話がつながらないままエンドクレジットってのも最高!
鑑賞者ごとへ解釈を委ねるという。余韻バッチリですよね。
きっと、観る人次第でいかようにもとれるもの。
前田と弘樹以外のエピソードも書きたかったけど、
キリがないのでやめました。
それくらいどれも染みるんです。
この映画観て、起承転結もないし、オチも弱くてつまらない、
とかいう人がいたら、オレはその人の感性を疑う。
それこそ、全てにテロップを入れて、
ナレーションで「弘樹は自分を見失いかけていたのだった」とか
入れないといけないんだろう。
空気を読むだとか、コミュニケーション能力に難ありというか。
それくらい、見事に微妙~~~~~っな表現を、
描き尽くしていると思います。
これのパロディーで、社会人編とかあったら、
期待はしないけど観てみたいですね。
【◯◯、会社やめるってよ】
離職率の高いうちではまったく珍しくないし、
会社は誰が辞めようと、3日も経てば日常が戻るっていうね。
つくづく大人になっちまったなぁ。
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次回、更新予定の映画タイトルは
【新しき世界】です。
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これきっかけで観てみ。