画材屋の想い出  その3 | 雷神トールのブログ

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トリウム発電について考える

Uさんは輸入課に籍を置いてはいたけれど、転出先の営業の引き継ぎに忙しいらしく偶にしか顔を見せなかった。

貿易の仕組みと輸出入手続きの基礎的な知識を授けてくれたのは輸出課のYさんだった。
Yさんは眼鏡を掛け一見インテリ風の顔をしていたが肌の色が赤茶色をしていてなにやら
酒臭い匂いがした。毎日ウイスキーを呑むせいらしかった。

 

もう一人輸出課には、Bさんがいて、Yさんにたぶんに競争意識を抱いてるように見えた。Bさんは太っていて顔の肌も土色、唇がビールのせいかぶ厚く膨らんでいた。

輸入のまず初めの仕事は商品を発注する際に船積み条件を決めておかねばならない。条件で大事なのは保険。FOB(フリーオンボード)、CIF(シフ、コスト、インシュアランス、フレート)  C&F(シーアンドエフ、コスト+フレート)といった英語の呼び名をYさんはつぎつぎと説明してくれ、追いかけるのが精いっぱいだった。

 

海上輸送または空輸の場合も入るが保険をどこからどこまでどちら(輸入する側?それとも輸出する側?)が掛けるかによって価格が違ってくる。

荷物が港や空港に届いたら最初は保税地域に入れられ通関手続きが済むまで保管される。

 

通関手続きは普通「乙仲」(おつなか)と呼ばれる通関手続きを専門に引き受ける業者さんがやる。普通の民間人個人でもできるが輸入業者の扱う商品の数が多いし税関も顔なじみなので慣れた専門業者さんに任せるのがいちばん早い。なので君はこれから毎日この人たちのお世話になるので仲良くして親密な密接な関係を築かねばならない。

輸入に必要な書類は、インヴォイス、LC(レターオブクレジット=信用状)、原産地証明、パッキングリストなど。

また手形をいつ引き落とすか最初に決めて置く。アットサイト(即時払い)、30日、45日、60日、120日、なんと 180日後というのまである。手形を受け取ってから支払い日まで猶予期間があり、輸入業者は商品が届いてから支払うまでにその商品を売りさばいて売り上げで支払いができる仕組みになっている。などなど……。

Yさんは図を描いて説明してくれてとても解かりやすく興味が沸いた。実際の業務を進めてゆく上では初心者にはまだまだ知識が足り無くどうしてよいか判らないことが沢山出てくるのだが。そこは恥を忍んで銀行の担当の方に教えてもらいながらなど仕事を手探りでやっとこさ間に合わせその日その日を凌いでいった。

輸入の仕事を恐る恐る手探りで始めたばかりなのにさっそく営業から急いでくれという催促が入った。それも一度や二度ではなくたびたび。ほとんど全商品を特急で通関せよと営業の担当者から、そして営業部長から電話が入る。お客様が急いでおられる。乙仲に頼んで特別速く通関してもらってくれ、と。

乙仲の担当者は山本さんという温和な人だったが、たびたび、というかほとんどすべての輸入品が特急を要請されるので、すっかり慣れてしまっていた。「またですか。大急ぎでやってますので。これ以上急げといわれても、どうしてもやらねばいけない手続きがありますので……」電話の先で疲れたようなしわがれ声が返って来るとそれ以上催促を掛けられなくなった。

いちど港の艀の組合がストを打ったことがあって、それに急ぎの品がひっかかってしまった。品物は、入社して早々に持ち上げて腰を痛めた粘土だった。

 

社長からじかに電話がかかってきた。だいじなお客さん(大手自動車メーカー)だからね。
どうしても来週(3日後)までに届けて貰わないと困るんだ。ウチにはとってもだいじなお客さんだ。きみは一升瓶持って横浜まで行ってくれないか。山本さんにたのんで艀にちゃんとブツが乗ってるか確認して、それから税関に行って事情を話すんだ。これはウチだけの話じゃありません。日本にとって大事な仕事なんだって言うんだ。ストが解決するのを待ってなんかいられない。例外的に手続きして通してもらうよう頼んでくれ。それが社長の命令だった。