今週の闇金ウシジマくん/第295話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第295話/洗脳くん23



神堂からまゆみへの通電がついに始まった。

というのは冒頭のコマ外の煽り文だが、この言い方だと、話者はこの関係の果てに通電が待っていたことを最初から知っていたことになる。つまり、やはり、洗脳くんのもとネタは北九州の事件でまちがいないようだ。

しかし、僕はべつにあの事件に特別くわしいわけではないし(ネットで拾い読みして『殺しあう家族』なかばでギブアップした程度)、そもそも、このようにわざわざ物語化しているじてんで、読み手としてはむしろ「わざわざ物語化している」という点に意味を見出さねばならないので、現実にはここはこうなったとか、ここがこうアレンジされているとか、そういう読み方はなるべくしないでおこうとおもう。まあ、してしまうかもしれませんが。

しかし、とはいえ、ここまでくると、モデルにかんしてはほとんど「自明」といってもいいくらいだろう。つまり、書き手としても、読み手がこのはなしのモデルがなんであるかを知っていることを知っていると、そういうふうにはいえるとおもう。読み手がモデルがなんであるかを知っていることを了解したうえで書かれているのだ。『殺しあう家族』のアマゾンのレビューについて触れたときにも考えたが、それを物語、もっといえばフィクションとして築くことにどのような意味があるのか、ポイントはそこだろう。これは、最終回までにおいおいつめていかなければならないところだとおもうが、直感的にはやはり、前回考えたように神堂の「最悪」性、つまり、彼の構造性、彼のふるまいを分析し、ぜんたいを批評するそのことばのなかに「神堂」の要素が潜んでいるかもしれないことを最終的には誰も否定できない、そういう点につながっていくかもしれない。もっといえば、神堂の戦略・ふるまいを客観し、分析することは可能なのかと、そういうはなしである。情報として、事実の羅列として、つまり「零度のエクリチュール」であの事件を、あるいはこの洗脳くんの事件を記すことは可能なのか。そもそも、このような異質な事件に限らず、ひととひととの独特の関係性というものを、その瞬間の独特の機微、感触を、無機質なことばで浮き彫りにすることはできるのか。おそらく、「できない」からこそ、物語というものは必要とされるのではないだろうか。


いきなり書きすぎてしまった。まゆみは松田明日香の家で通電を受けている。ここは、彼女が「豚骨団子」を受け取った場所であり、そもそも彼女がこんな目にあわなければならない理由の、はじまりの家である。そのことに疑問をもたず、粛々と拷問を受けていることから、前回は、彼女が自己防衛のためにこの世界を「夢」に読み換えているのではないかと分析したが、今回、冒頭からその疑問がぶつけられる。痛みで目が覚めたのかもしれない。

神堂は明日香に命じて通電を重ねる。どんな痛みであるか想像もつかないが、大声をあげるまゆみを「近所迷惑」と断ずる。通電をおこなうのは明日香であり神堂だが、そもそも神堂にそれをさせているのはまゆみであると、そういう理路なんだろう。

次大声をあげたら声帯をつぶすといわれ、まゆみは必死で悲鳴を飲み込む。

神堂の説明では、まゆみは松田明日香にひとを殺させたことになっている。明日香は自首するかどうか迷っていて、まゆみに電話したところ、ちょうど彼女は入院していたために神堂が出た、そして相談にのったと。まゆみは松田明日香の父と不倫していて、それがもつれて、明日香に殺させたのだそうだ。神堂はまゆみを躾しなおすからということで明日香には自首しないでおいてもらい、いまにいたると。まゆみからすればなにがなんだかさっぱりわからないだろう。松田明日香の父親なんか、顔すら知らないはずなのだから。

さらに、“まゆみの罪”を黙っておいてもらうために、明日香に2000万円用意して、海外に逃げてもらうという筋書きだ。まゆみはくりかえされる通電ですっかりおびえきっている。反論しようにも、くちをきいただけでなにかと理由をつけて電気を流される。神堂はあいかわらずこれらの行為を愛の文脈で語る。そして、お得意の、ですます調と恫喝調を交互にくりかえす。


別の日、まゆみが珍しく外出して編集長と顔を合わせている。無断欠勤と経費のつかいこみでクビだそうだ。退職金も出ないだろう。編集長はまゆみのことを買ってくれていたし、強い味方になってくれたはずだが、もうなにもかもが遅い。まゆみには事態を説明することができない。というか、説明する語彙をもたない。異様な表情であるし、手のやけどにも編集長は気づくが、そこには触れない。まゆみは夫が車でひとを跳ねてしまったとうそをついて、お金を貸してくれと土下座するのだった。


編集長から多少のお金を手に入れたまゆみはすぐに神堂に連絡、時刻表ミステリ並みの緊密なスケジュールで指定の電車に乗るよう命じられる。許可を求めるが認められず、トイレにも行けない。たんじゅんに考えれば、ここで警察に駆け込んでいればとか、それでなくても逃げ出していればとか、いろいろ浮かんでくるが、もちろんまゆみにそんな選択ができるわけがない。監禁していながら外出を許し、それでいて逃走させない、神堂の洗脳はそういうものになってきているのである。

しかし予定帰宅時刻に0.1秒遅れたということで、伏せたあたまにかかとが振り下ろされる。もちろん言いがかりである。コンマ1秒を争うほどであるなら、どのじてんで帰宅とするか、またどの時計を基本とするか、あらかじめ決めておかねばならないが、そんな様子はない。遅れてないです、と、反抗的な態度をとるまゆみに、また通電。要するに、まゆみが遅れようと遅れまいと、通電は決定しているのだし、すべては神堂の胸ひとつなのである。そして、ここで重要なのは、反抗的態度こみで、「神堂の胸ひとつなのだ」ということを刷り込むことなのだ。じっさいに言いつけを守ったかとか、反抗の気持ちがあるかとか、そんなことはどうでもいい。どうであれ神堂の気持ちしだいで電気は流される。それが、表層的には「躾」、つまり「まゆみのため」という、神堂、まゆみ含めて誰も信じていない原則のもとに、とりおこなわれるのである。だから、まゆみは究極的に、「神堂の胸ひとつ」で事態がかわることを刷り込まれながら、脳内では事態を「躾」の文脈に回収していく。


神堂のいないところでは松田明日香がまゆみの監視をつとめる。態度が反抗的だったため、今日のごはんはレンジでチンする白いごはんのチンしないバージョンである。神堂がいないのだから、あれはどういうことだと、まゆみが明日香を問い詰めるようなことがあってもよさそうなものだが、けっきょくは、ちくられたら同じことだし、まゆみにはどうすることもできない。便座にお尻をつけたら肛門通電、寝たら寝耳通電ということで、いよいよ拷問は本格的になっていく。とりわけ、あたまに携帯電話をまきつけて、眠らないようにするというのは強烈である。明日香の父親や、また明日香じしんもやっていた。しかしいまの明日香はやっていない。ということは、この監禁部屋には一種のヒエラルキーがあることになる。明日香はじぶんも経験した拷問をみずから実行することで、優越感を覚えているはずである。神堂は、彼のいないところでも、拷問をさせることで、明日香をも管理しているわけである。


またべつの夜、上原一家が勢ぞろいで集められている。今回も最初から父親は反感丸出しでいるのだが、しかしそれを今度はまゆみが、父親を「重則」と呼び捨てにしてとがめる。(これでやっと父親の名前が判明した)

そして神堂は、例の不倫から殺人に至ったまゆみの犯罪物語をはなしてきかせる。当然、家族には信じがたい。だってうそなんだから。

それがほんとうなら警察に行く、という重則に、娘を売る気かと、神堂はいう。完全犯罪なのにと。このやりとりは、ちょっとよくわからない。神堂は、日本の警察の検挙率が高いのは、けっきょくのところ犯人がつかまえられそうなものしか事件扱いしないからだという。なるほど。しかし、それをいまそんなに大きなコマで話すことにどんな意味が・・・?

あるいはなにかヒントがあるのかもしれないが、ともかく、父親にも意味がわからない。ついあくびをしてしまう父親を、神堂が恫喝する。しかし重則も負けずに、毎夜毎夜つまらないことで呼び出されて睡眠不足なのだとやりかえす。これを「つまらないこと」と断ずるからには、彼は神堂のはなしたまゆみの犯罪物語をウソだと考えているということになる。

続けて神堂は例の2000万を要求するが、いくらなんでも額が大きすぎる。戸惑う両親に、それなら松田家のリフォームを手伝ってくれという。これはあれだろうか、先に大きな、明らかにむりな要求をして、次に可能な程度の要求をして通してしまうという、例の心理的なアレだろうか。それくらいなら・・・とはなしをのもうとする両親を見て、神堂は悪魔の笑みを浮かべる。

神堂は、それではと、風呂と配管の交換作業を命じる。そんなことが素人にできるはずがないと、カズヤは大声を出す。そして父親同様、毎夜呼び出されていることにも文句をつける。



「金も労力も惜しむと言うなら罰を与えます!」


「電気お願いします!」



その神堂のことばに、げっそりとやせ細ったまゆみは身を震わせる。



「上原家には秩序が必要です。


誰が罰を受けるか家族会議で決めましょう」



つづく。



監禁部屋には一種の上下関係があった。

神堂の戦略の周到さからして、彼女たちがはじめての餌食ということはありえない。これまでにも、何人ものひとびとが、同じように、わけのわからない理由で監禁され、抵抗の意志も奪われ、洗脳されていったはずである。

そうした被害者たちが重なるとき、この上下関係が生きてくる。

以前の松田明日香は、父親とともに携帯電話をあたまに巻かれ、睡眠を禁じられて、勅使川原に監視される立場だった。それがいまでは、まゆみに同じことをおこなって、監視する側にある。

彼らのルールでは、まちがったことをすると罰が下される。しかし、その「まちがい」を判定する基準は、論理とか、なんらかの普遍的な基準にあるのではない。うえで見たように、その基準は、神堂の「気持ち」にある。ということは、それがまちがいであるかどうかを判定するのは神堂なのであり、たとえば帰宅予定時刻を1時間すぎても、神堂がオーケーを出せば、それは遅刻にはならない。

罰をくらわないためには、「まちがい」をおかさないこと、ここでは、「神堂の機嫌を損なわないこと」が重要なのである。というか、この部屋におけるルールらしいルールはそれ以外ありえない。それ以外のなんらかのルールの存在は、神堂を相対化し、洗脳をほどいてしまうからである。

だから、あの部屋の上下関係も、神堂が定めている。もっといえば、神堂に気に入られたものが、上に立つことができる。これをつきつめると、彼女たちは、神堂を経由しないかぎりではそれぞれに区別はないのであり、交換可能であるということだ。明日香の、拷問をすることで生じる優越感は、まゆみを支配するというその行為そのものに宿るものではなく、神堂にそれを託されるというしかたで、その立ち位置にいることが呼ぶ、歪んだものなのである。

だから、べつにあの部屋の序列は年功で決まるわけではない。たんに、前からいるもののほうが気に入られやすい条件にあるというだけのことだろう。

彼女たちは、あの部屋ではなにものでもない。神堂の「お気に入り」の度合いでのみ差異化される、数量的な存在である。

ということは、これもまた、神堂の胸ひとつで、逆転しうるものである。じっさい、おそらくそのために、神堂はあえて理不尽な罰を連続でくらわすことで、「すべては神堂の胸ひとつなのだ」ということを刷り込んでいるのだ。

それは、下位にいるものたちにどのような心理を起こすか。もちろん、上位にいるものにおいては、その立場を死守しようという心持が生れるだろうが、それ以上に、下位のものたちの死に物狂いのふるまいが、次の悲劇を呼ぶことになる。


まゆみはもう罰を受けたくない。そして、明日香の存在を通して、じぶんたちが数量的な存在であり、交換可能なものだということも知っているはずである。そしてそれがすべてになっているまゆみは、必ず、明日香と同じく、神堂に気に入られ、「誰か」に罰を加える立ち位置に立とうとするはずである。神堂はですます調と恫喝調を効果的に使い分けるが、これは、たとえばヤクザでいえば、襟元にちらりと見える刺青、刑事でいえば、上着のしたにちらりと見えるリボルバーにあたるのではないかとおもわれる。得点をかせごうとするものたちは、以前の優しい神堂の幻像も含めて、ですます調を希うはずである。そして同時に、恫喝調が他者に向けられるよう、みずから努めてふるまうようになるのである。そういう関係の流れでは、罰はなんらかのあやまちが起こったときにのみ行われるものではなく、つねに下位のものにむけて実行されるものとなる。恫喝調は上下関係の構造のなかに移り、上位のものが下位のものにつかう言葉遣いそのものとなる。「罰」を行うことは、上位のものが上位である証となるのである。だから、上位のものは、その位置にとどまろうとするために、必然的に罰をくだすことに積極的になる。おそらく神堂は、最後のまゆみの身震いのなかに、そうしたシステムがすでに完成していることを見抜いたはずである。


さて、配管工事とはなんだろうか。おそらく神堂は、2000万手に入るならそれでよしとしても、最初からこれをやるつもりだったのだろう。ここでは数多くのひとが殺されている。少なくとも明日香の父は殺されているはずだし、解体されている。下水管がどんな状況になっているかはわからない。それがきれいになればそれもまたよし、さらに、それを片付けたものたちも、まゆみに「豚骨団子」を捨てさせたときのように、証拠隠滅とか、なんらかの犯罪の共犯に仕立てることができるかもしれない。といっても今回配管工事を命じるのは神堂じしんだから、そううまくいくとはおもえないが、神堂の笑みからは明らかに深い意図が感じられるのである。


しかし、いよいよ胸糞悪い展開になってきた。そろそろ、丑嶋社長に本格的に乗り出してもらいたいのだが・・・。今回は出会いカフェくんのパターンになるのか、それとも社長も深入りしてくるのか・・・。




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