第184話/ヤミ金くん⑤
舞台は転々として、今回は丑嶋や柄崎のむかしばなしだ。
最初のほうで丑嶋の過去について問う高田に対して飲みながら教えてやると柄崎がいっていたのが、ここで拾われている。
ちなみに、前回のおしまいでは丑嶋も飲みに誘われていたけど、「うさぎにエサをやるから」ということで遅れて合流らしい。そういうわけで、いまのところ高田と柄崎のふたり。飲み中の、プライベートな丑嶋も見たい気もするけど。
⑫巻所収、短編「タクシードライバーくん」編によれば、柄崎と丑嶋は小学校からの仲というはずだったが、じっさいにはクラスがちがったために交流はなかった。
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あのときの柄崎は今回以上にべろべろに酔っていたし、社長との深い仲を自慢するために、ウソはつかない程度に多少のおひれをつけたというところだったんだろう。丑嶋は小六のときに転校してしまうのだが、決定的なきっかけとなる出来事はふたたび丑嶋が地元に帰ってきた中二の冬におこった。
中二の丑嶋はそりこみの入った坊主頭、フォルムはENARIだけれど、目つきなどの内訳は完全に鋭利なウシジマくんそのものだ。坊主頭と数年の空白期間はあることを連想させるが、そのくわしい事情については明かされない。柄崎もよく知らないのかもしれない。
転入生としてクラスに紹介される丑嶋を、若き柄崎と加納がねめつける。柄崎には、いまとおなじ浅く唇をなめる癖が見えるけれど、ふたりとも風貌はかなりちがっている。中学生くらいのヤンキーはこれまでも出てこなかったわけではないが、なんか格闘中心のヤンキー漫画に登場する人物のような、異質な迫力がある。ついでに、今回の胆人物とおもわれるいかにもお利口さんな竹本優希もこれを見ている。そして、なぜかはわからないが馨という名前に反応している。
柄崎のいまとかわらぬ潜在的な暴力の気配にまったく屈せず、ばかりか強気な態度をとる丑嶋を、彼らはそれをじっさいに行使するかたちで集団リンチにかける。優希を除くC組全員がこれに参加したらしい。全員が金属バットを手にし、バットは陥没して先端に血がついている。彼らの囲むその中央に丑嶋はうずくまるが、何人か腹を抱えたり出血したりしている者も見えて、丑嶋がひとりで果敢に立ち向かったものとおもえる。しかしここに見える重要なことは、丑嶋のいわゆる腕っぷしの強さより、現在の彼らがよく行使するところの暴力性に、彼がまったく屈服していないというところだ。
優希はこれに不参加であるから、クラスメートを召集した柄崎は「後でシメとく」と仲間にうそぶくが、あとのコマでは優希はふつうにうつっている。くちではそういっても、なんらかの理由のために柄崎たちは優希と距離をとっていたのかもしれない。
それからどのくらいの時間がたったのか、入院した丑嶋はまだ学校にはきていない。そこでなにをはじめたのかというと、リンチに参加したクラスメートへの逆襲である。阿部(デブ)という巨漢を待ち伏せしていた丑嶋は、いまとよく似た(同じ?)服装でこれを襲う。中二ながらすさまじい肉体をもっているようだ。そのくらいの年であんまり筋トレやりすぎると身長とまるから気をつけたほうがいいよ。
といっても、これだけの描写では、その肉体がもともとガクランのしたにあったものなのか、マンガ的に入院中に鍛えたものなのか、判断はつかない。しかし、リンチ前の柄崎とのやりとりや、集団に対してもまったく臆した様子がないところなどから、ウシジマに潜勢する暴力性の象徴となる肉体は、すでにあったものではないかとおもわれる。したがって、早計すぎるかもしれないが、このエピソードからは、「丑嶋馨」ではなく、「サラリーマンくん」や「フリーターくん」などとおなじ意味での、他者との関係性における“場所”の名称としての「ウシジマくん」がいかにして成り立ったのかというような事情の説明は、期待できそうもない。『ろくでないブルース』の川島みたいに、小六から中二までの不透明な期間になにがあったか、「ウシジマ」の人格形成については、たぶんここが重要なのだろうとおもう。
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とにかく、丑嶋はタイマンで阿部を圧倒する。阿部にお友達紹介してもらった丑嶋は、続いて井上という少年を襲う。クレーンにつるされた井上のいうところでは、C組のほとんどの人間は加納や柄崎に強制されてリンチに参加したようだ。丑嶋は「嫌なら断れよ」というが、井上たちは断れない。なぜなら、彼らは柄崎たちの内側に隠しもたれている暴力性をおそれているからだ。丑嶋とはちがうのだ。
丑嶋は井上にいう。
「俺は集団で囲んで来た汚ェ奴等を、
一人ずつブチのめすだけだ!!」
丑嶋のこのふるまいの原動力は、柄崎が集団でやってきたというところへの憤りにあるのかもしれない。
理不尽に仕掛けられる喧嘩だとか、やられたことそのものではない。
こんなところに、のちの丑嶋の、明らかにアウトローの住人として生活していながら、奇妙な道徳性のようなものも同時に抱えている、あの世界観の萌芽が見えているのかもしれない。
丑嶋は井上にまたお友達を紹介させる。その相手はC組ナンバー2の加納だ。
つづく。
これはおもしろくなってきた。
こういう展開は嫌いじゃないです。
中二とはいえ、丑嶋が決定的にやられている描写がはじめて出ていた。
しかしくりかえすように、暴力に屈したわけではないところがおもしろい。
かといって暴力を否定するものでもない。
ひとりひとり、カレンダーをぬりつぶすみたいに、じゅんばんに倒していくのだ。
独特のとがった倫理性のようなものが、すでに見られる、ような気がする。
今回いちばんおもしろかったのは、柄崎と加納の風貌だろうか。
柄崎の無骨な荒っぽさや加納の底の知れない感じはまちがいなくあるのだけれど、そうしたを特殊性をのこしつつ若い彼らが描写されているというのは、やっぱりおもしろい。
まだまだ先が見えないけれど、しかしこれまでいっさいなかった丑嶋の本質に触れる描写がここまで展開されてくると、これが最終章なのかなという気もしてくる。
そう考えるとちょっとさびしいな~
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