今週の範馬刃牙/第191話 | すっぴんマスター

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(※注:ゲーム攻略サイトではありません)書店員。読んだ小説などについて書いています。基本ネタバレしてますので注意。気になる点ありましたらコメントなどで指摘していただけるとうれしいです。

第191話/そっとして…




オレタチの徳川光成の豪邸を、ピクルの今後について問題になったときに登場した現総理大臣、波斗山征夫が訪れている。

一国のリーダーも、光成の前では恐縮しきり、ざぶとんにも座らず、顔を伏せたまま儀礼的な応答に終始している。

どうしてそこまで光成がエライのかというと、まあ、徳川家の末裔ということもあるだろうけれど、波斗山(変換がクソめんどい)のびびりぐあいには、ちょうど勇次郎とはなしていたときのオズマ大統領みたいな、どこに逆鱗があるかわからないドラゴンになんらかのお願いをしているときのような緊張感がある。なにか、たんに儀礼的な、形式的なあいさつにとどまらない、死活的ななにかが感じられる。それほどまでに光成の財力が桁違いだということなのだろうか…。


冒頭のコマの煽り文(?)で、光成は「財界の頂点に君臨せし一人の強き者」と形容されている。光成は格闘家ではないけど、けっこうキケンな目にあってる。勇次郎を怒らせたこともあるし、ピクルに殴られたこともある。花山や独歩ら白格闘士たちが集まっているところにのりこんできたドリアンに、炎の攻撃をうけたことだってある。だけど、そのすべてを光成は生き残っている。直接の理由というのはなくて、それはたまたまというのがほんとのところなのだろうけど、それでも、光成はやっぱり強者なのだろうな。げんに生き残ってるんだから。ちっちゃいおじいちゃんのくせして。

法(万人の認めるルール)の機能しない、ホッブズの「普遍闘争」の世界では、腕力や武力はそのまま彼の関係性のなかにおけるランクのようなものを指示するかもしれないが、大勢の人間の合意形成のもとに成立しているふつうの社会では、これは通用せず、強さというものは、もっと広い意味をもつことになる。そして、現代的なちからをもつものは、それを必要とするばあい、多くじっさいにそれを行使する必要はほとんどなく、その気配を潜在させておけばよい。勇次郎とむきあっているときに自然と生じる緊張感は、もっとずっとフィジカルな、身近な身の危険にかかわることが原因だけれど、光成のばあいは、彼の「実行可能なこと」の範囲の面積があまりに広大すぎて不明瞭だというところにたぶんよっている。つまり、あんまりお金持ちすぎて、「このひとはいったい、なにができて、なにができないのだろうか」ということが、ぜんぜんわからないのだ。現実的ないいかたをすれば、光成はその財力で、大好きな格闘家たちに便宜をはかり、むずかしいこといわずにたたかいに集中できるように環境を整えているけれど、そのことで生じた人脈のようなものは、どちらもそんなふうに「実用的」な意味でつきあっているわけではないにしても、結果としては、たとえばドリアンという危険を招きながら、このときは花山の手によって、光成は同時に救われてもいる。


とはいっても、それは、波斗山だっておなじことだ。この波斗山と現実の総理大臣はまったくべつものと考えたほうがいいかもしれない。こちらはむしろたたき上げなのかも。勇次郎のことも知らないようだし。


就任してまもない波斗山に、光成はナニかをわたすつもりのようだ。



「ときに波斗山


悩みの種であるその重荷


軽くするために何キロいる?」



「銭というものはのう波斗山


円ではなく――


キロ単位で数えるものよ」



てっきり金塊が出てくるのかとおもったけど、ふすまのむこうからあらわれたのは300キロの札束だ。スケベ親父のエロビデオベッドみたいな。30億ぐらいらしい。


光成は総理大臣に頼みごとがあるらしい。波斗山は300キロの万札とともに、防衛大臣の北澤俊男、それに文部科学大臣・川端達巳のもとにこのたのみごとを持ち帰る。それは、範馬勇次郎と刃牙の親子喧嘩を黙認してもらいたいというものだった。

波斗山は、その意味がわからない。しかしまあ、範馬親子のことを知らないのなら、これはふつうの反応だ。しかし新任とはいえ総理大臣がそれでいいのだろうか…。

防衛大臣はこのことを前任者から申し送られて知っていた。文部科学大臣も、噂程度とはいえ、知っていた。なぜ総理大臣が知らない…ッ!これは板垣恵介流のなにかの皮肉なのだろうか…。エリア51を知らなかった『インディペンデンス・デイ』の大統領みたいだな。しかもそれを、あれほどのびびりようを見せる光成伝いに聞くことになるとはね。光成にはどういう返事をしたんだろうな。


防衛大臣の北澤は、ことの意味、範馬勇次郎という意味をよーく理解しているらしい。そしてそれだけに、事情をなにひとつ知らない波斗山に対してどのように説明すればよいのかわからない様子だ。なるほど、ちょうどアレですね。「バキってどういう漫画?」って女の子に聞かれて、「二億年前からよみがえった原始人とたたかうおはなしだよ。いや、すごい、ほんとにリアルファイトの漫画なんだYO」って熱っぽく主張しなければならなかったあのころの感じと一緒ですね。


防衛大臣は事実だけを伝えているのだが、もちろん波斗山は理解してくれない。勇次郎の強さというか、その意味を、一般の世界に伝えるには、その「意味」が、一般の接触するとどうなるかということを、これもまた事実として伝えるほかなく、北澤は仲曽根総理時代の、範馬勇次郎の総理官邸襲撃事件について語る。すでに勇次郎によって予告がされていたために、警備は万全、百人の機動隊員が武装して待機していたが、勇次郎はこれを正面から、力で突破した。

これも総理大臣は知らなかった。仲曽根総理が緘口令を敷いたからだ。だけれど、川端達巳文部科学大臣は「噂程度」には知っていたらしい。たんに友達がいないか、じぶんの認識枠外にあるものはまったく信じないというタイプの、傲慢な、成長に向かない種類の人間なのか、あるいは最高権力者にはもっとも重要なことは教えないというような、フィクサーを感じさせる操作があるのか、ともかく、波斗山はナニも知らない。



仲曽根総理の箝口令は治安維持が目的だった。官邸突破は、勇次郎にしか為しえないことだ。しかし、そういうことがひとによっては可能であるということを大衆が知れば、たいへんなことになる。ひとりに口頭で伝えるぶんにはたぶん問題はない。しかしそれを「大衆」が知るということは、「じぶん以外のほかのにんげんもその事実を知っている」ということを知るということ。普遍闘争の世界ではきっとなしえなかった資源の効率的な共有ということや戦争の抑止ということが、公的な、大多数の人間から承認をうけて成立する公的なものにちからを委ねることで、可能となっている。しかしそのためには、必ず誰かが最初に「腕力を放棄」しなければならず、けっきょくのところそこでおこることは、強大なちからをもった共同体が、それよりもうすこし小さい集団を支配するということで、そのことが、世界にたしかな秩序をもたらしている。じっさいの国際関係というものはもっともっと繊細はものだろうけど、基本的にはこの原理があまねく働くことで、むしろ社会は平和に成り立っているんじゃないだろうか。しかし、まだ世界に触れ始めたばかり、「他者」の概念をリアリティをもったかたちで獲得しようともがいている青少年が勇次郎のような人間の存在を知ることは、この秩序を成り立たせるもっとも基本的なこと…「国家というものは強力なものである」という前提を、きっと決定的にゆさぶってしまうだろう。問題なのはそれが暴力賛歌につながるというよりは、将来を担う若者の「国家」という概念をゆさぶることにつながってしまうということなんだろう。



とはいえ、日本には武力がある。自衛隊がある。ピストルがある。ミサイルがある。洗練された戦術がある。やっぱり波斗山は腑に落ちない感じだ。うん、しかたないよ。おれだってなんだか納得いかなくなってきたもの。



対して北澤は、「ひじょ~にワカりやすい事実」を伝える。それは、何話か前に描かれた、アメリカ合衆国の、範馬勇次郎個人に対する友好条約である…。




つづく。




なんだか毎回おんなじことをやってるような感じがするなぁ。


とはいえ、それはそれだけ意味のあることなんだろうけど。



煽り文を見る感じでは、このはなしにはまだ続きがあるっぽい。日本政界最強の男が、勇次郎について語ってくれるそうです。


勇次郎は単体で一国に匹敵する暴力をもつものかもしれないが、それであっても、日本国もアメリカ合衆国もちゃんと成立している。

それもまた、国の力というものだろう。

勇次郎と戦争したってなんの得もない。

正面からぶつかれば、いかに強大な暴力を有していようと、一国の軍隊が全滅してしまうとは、いくらなんでも考えにくい。

しかるにこの目の上のたんこぶを誰もしとめようとしないのは、べつにそれによって国家が崩壊しかねないからというようなことではなくて、これも、ひとつの国がほかのよく知らない、あるいは仲のよくないある国と接触するときおなじく、外交的な問題なんでしょう。

気に入らない国だからって爆弾うちこまないでしょう(ふつうは)。

…そういうことなのかな。



といっても、勇次郎のちからがそれだけ強大なものだとしても、それを黙認せよとはどういうことか。


勇次郎が力むと周囲の街がぜんぶふっとんでしまうとかならまたはなしはべつだけど、それこそただの親子喧嘩で、みんなのいない、地下闘技場とかでやればいいだけのはなしではないだろうか。


つまりこれは、この喧嘩がそのものというより、喧嘩によって起こるもろもろを見逃してくれということなのかもしれない。


勇次郎が喧嘩をするくらいだから、相手のバキもまた、同等のレベルの暴力を有しているはずだ。


つまり、これは、小さなふたつの国の戦争とみてもよい。


勇次郎の暴力が国家レベルであるなら、彼もまた、地球上全体で見た国家間のバランスというものの一端を、彼には不本意だろうが、担っていることになる。論理的には、彼と同等レベルのバキもまた、すでに担っているか、これから担うことになるはず。


これらの衝突は、もはや個人のおはなしではすまないものになっているのだろう。波斗山はまったく理解していないようだが、勇次郎の存在がもし失われることになれば、「幽遊白書」で雷禅が死亡した直後の魔界のように、なんらかの面でバランスが崩れ、行動を起こすものが出てくるかもしれない。あるいは逆に、とっていた行動をやめて、決定的に世界の均衡が損なわれてしまうかもしれない。


バキがもしそのレベルに達しているならという条件つきだけれど、ふたりの喧嘩は広い意味では文字通り世界の命運をわけるものなのだ。


総理大臣がじっさいには理解していなかったので、光成はむしろいらぬことをしてしまったというところかもしれないが、金をうけとってしまった以上、波斗山も行動がとれないだろう。


そう考えると30億は安いな。




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