近年、いわゆるバリアーフリーやユニバーサルデザインと呼ばれる、身体障害者や高齢者に向けた様々な福祉施策が進められているが、放送の世界においてもそういったバリアーフリーの推進が進められている。

その際たるものが視覚障害者を対象とした音声解説放送や、文字多重放送・データ放送による字幕放送のサービスである。まず音声解説だが、1978年にテレビの音声多重放送(ステレオ、2ヶ国語などのマルチサウンドサービス)が解禁されたことを受け、1980年代から日本テレビ「火曜サスペンス劇場」で試験的に取り入れられた。NHKでは1990年に「連続テレビ小説」と「ドラマ新銀河」など帯ドラマと視覚障害者向けのドラマで取り入れられた。

1980年代以後のテレビ受信機は音声多重のものが当然になっており、特別な機器がなくてももれなく音声多重でステレオやマルチサウンドを楽しめるようになった。それを受けて、視覚障害者にドラマの要点・場面をナビゲーションするというのが音声解説のサービスである。ただ、2時間ドラマやNHKの連続ドラマでは多用されているものの、民放の連続ドラマでは余りそのサービスを取り入れていない。

理由は定かではないが、アナログ放送の場合はステレオとマルチサウンドによる同時並行サービスができないことや、1990年代以後ドラマの大半はステレオ音声で放送するのが主流と化していたことが影響したものと思われ、視覚障害者を取り上げた作品、例えば「盲導犬クィールの一生」や「仔犬のワルツ」などぐらいしかその解説放送が行われていなかった。

現在はデジタル放送でステレオとマルチサウンドの並行が可能となり、NHKではそれまで朝ドラと視覚障害者を題材にした作品以外ではほぼ取り入れられてなかった音声解説を、外国制作のものを除いたほぼ全部(Eテレの道徳ドラマも含め)で取り入れられるようになったが、民放では2時間ドラマでは取り入れられていても、連続ドラマでは引き続き取り入れる傾向が低く、あってもTBSテレビの「月8ドラマ(パナソニックドラマ)」程度にとどまっている。

視覚障害者、あるいは弱視の人にもドラマを楽しめるようにする配慮はデジタル化でちょっとずつ進んではいるが、もう少し増やしてもいいのではないだろうか。

もう一つの字幕放送。1985年頃から聴覚障害者や高齢者で音が聞こえにくい方を対象とした文字放送のサービスが始まった際、NHKの朝ドラで試験的に行われ、その後技術革新で文字放送が拡充したことを受け、バラエティーやドキュメンタリーでも取り入れられるようになった。現在ではゴールデンタイム・プライムタイムの殆どは字幕放送が採用され、ニュースやスポーツなど、これまで技術的に字幕が入れられない生放送のものでも、5-10秒程度のラグはあるがリアルタイム字幕が入れられるようになった。

このサービスは地上波だけでなく、衛星放送でも採用されており、衛星アンテナを設置し、直接受信できる環境であれば、BS・CS(スカパー)の字幕放送を全て見ることは可能であるのだが、ケーブルテレビの場合は地上波・BSはそれを利用できるも、CSはまだ対応していないところが多い。恐らくケーブルテレビの受信装置(セットトップボックス=STB)がCSの字幕放送に対応し切れていないのが要因なのだと思う。

ケーブルテレビの視聴の幅としては、高層ビルや離島・山間部などで電波が届きにくく、過去の共同受信装置の時代から今日のSTBにいたるまで視聴する世帯も多いし、都市部でも衛星の多チャンネル化で視聴者の好みの番組が見れるけども、アンテナを建てるよりもケーブルを通して見た方が予算的なメリットがあるという見向きもあるのだろうが、CSの文字多重放送やデータ放送が見られないのは、そこまでケーブルテレビがサービスを提供するための予算がないこと、あるいはそういったサービスそのものが知られていないというのもあろう。

もう少し、ケーブルテレビもCSのデータ放送・字幕放送を放送のバリアーフリー推進の一環で取り入れてほしい。ケーブルテレビの多くは自治体が第三セクターで営むところも多く、完全民営であっても、市区町村からの委託を得て番組を提供するものも多いから、市民へのサービス還元のためにも実施してほしいものである。