「あのさ、あたしさっきの〈角海老〉行ったのは早稲田の時なの。それから吉原へ。親から学費、生活費もらえないので、実家から通い、奨学金とバイトで大学生活やってたの。だけど娘を徹底的に管理したい親でね。私、屈折した反抗心持ったんだね。実家から学校へまじめに通い、放課後はソープ。あとは紆余曲折を経て、転々。ソープに堕ちた自分に、ときめきましたよ」
箸先が、焦げたロースをひっくり返している。口には運ばない。
「サワーもう1コいくかな。あのね、吉原はひとり相手にすると手取り3万。月に50本の保証だから、月収150万。すごくない? でも、お恥ずかしい話です。何に使ったか、覚えてない。……いまは月収、アハッ、15万円。そこから、奨学金2万円返してます」
ユキの口から、〈親への反撥〉と〈奨学金〉が頻出する。
「こう見えて、やると決めたら必死で頑張る型なんです。だから、学校でもソープでも成績は良かったの。初めは実家に帰らなくなって友達や彼氏の部屋に泊まり歩いて。バイト先の居酒屋の客に、きみならどんな高額バイトも可能とおだてられ、池袋のキャバ嬢になりました。バカみたいな話だけど、月に60万とか稼げたの。ここで奨学金を返上しとけばよかったんですが」
ほどなく親に居所を突き止められ、連れ戻される。吉原のソープに出たのは、そうして親許で「カゴの鳥」になっていたときだった。大学を4年で卒業。IBM、富士通に次ぐ規模のシステムを設計する外資系IT企業に就職した。
「ここでも必死で働き、同じ会社の男とナマでセックスしまくりまして。親なんかどっかへ行け、あたしを追い回すな、もう彼氏だ、もう結婚だって勢いつけたの。奨学金のこと忘れてまして」
いまその2万円の返済が重くのしかかる。
※週刊ポスト2013年6月14日号