【第11回「TPPが建設産業の「崩壊」を導く」】 講師:京都大学 教授 藤井聡先生
「TPP参加の即時撤回を求める会」第11回会合を開催いたしました。
【日時】 2月23日(水) 8:00~9:00
【会場】 自民党本部702号室
【講師】 「TPPが建設産業の「崩壊」を導く」
~ 日本を「根底」から破壊する「平成の開国」 ~
講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授
藤井 聡 先生
今回は、京都大学の藤井聡先生(写真右)に、「TPPが建設産業の「崩壊」を導く」と題してご講演いただきました。藤井先生は、社会科学に基づく土木政策論を専門とされ、「公共事業が日本を救う」等の著書があり、1月には国土交通部会政策ワークショップでもご講演をいただいたところです。
なお、昨年末に本会で「TPPで輸出は増えない」と題してご講演いただいた中野剛志先生(写真左)
は、藤井研究室に所属していることから、今回もご同席をいただきました。
藤井先生の講演では、冒頭に、世界の貿易動向やTPPにおける米国の狙い等についてご説明いただいた後、TPPの建設産業への影響について、以下のとおりお話いただきました。
(国際入札範囲の拡大による公共事業の停滞)
○ 建設業界は、これまでのWTOルールでも外資参入が可能だったが、ほとんど参入がなかったことから、TPPも楽観視している。
○ しかし、TPPにP4協定がそのまま採用されれば、外資参入基準は大幅に引き下げとなる。
⇒ 発注案件の公示期間の長期化、英語で公文を出すことで行政経費が肥大化し、実務的に建設業者は4、5月の受注はゼロになるおそれ。
(非関税障壁の撤廃による外資参入がもたらす建設産業の秩序崩壊)
○ TPPに参加すれば、外資の需要拡大や非関税障壁の撤廃圧力が高まり、発注ロットの拡大要求、一級土木施工管理技士や現場代理人等の国内ローカル規制の撤廃を要求され、外資参入可能な市場が拡大する。
⇒ 非関税障壁の撤廃に加えて、外資参入により安価な労働力が流入すれば、中小建設業者は生き残れない。建設デフレが深刻化し、建設業界の慣習(契約に基づかない災害復旧支援等)も破壊される。
(TPPで国内建設産業は甚大な被害(影響試算))
○ P4協定に基づく試算では、国際入札案件対象の市場規模は現状2,240億円から5,400億円、コンサルタント業務は現状200億円から2,500億円に拡大。さらに、発注ロットが引き上げられれば、対象案件はさらに拡大し、1兆円規模の国際市場が国内に誕生する可能性。
⇒ これより、国内建設業者の損失は年▲540億円~▲2,500円。さらに、実質GDPの減少効果は、実質GDP▲0.6兆円~▲2.89兆円。
なお、昨年10月の内閣府試算は、平均的な乗数効果が用いられていないため留意。
(TPP参加によるインフラ輸出)
○ 円高、海外労働者の低賃金、世界の建設デフレにより、TPPに参加してもインフラ輸出は増大しない。
○ 日本政府が交渉で重視するのは「輸出産業」であり、「建設」や「農業」等の非輸出産業は、交渉において重視されない。
(TPPが建設産業にもたらす影響(まとめ))
○ TPPでは、建設業界のメリットは限定的。
一方、
①公共事業の停滞、
②建設業界における様々な社会的規範・慣習の解体、
③国内の建設市場への海外企業の促進、
④建設デフレの進行による国内建設業者・コンサルタントの減収・大量倒産
⑤整備されるインフラの質的低下、
といった多くのデメリットがある。
【質疑応答】
質疑応答における主なやり取りは以下のとおり。
Q.建設産業は典型的な内国産業のイメージだが、海外では外資参入の事例はあるのか。
A.発展途上国では事例が多いが、先進国では限定的。ただし、EU諸国は文化的に近いため、事例は多くなる。また、我が国に対しては、韓国や中国の建設業者の参入が想定される。
Q.公的債務の増大による財政不安をどう考えるか。日本がギリシャのようになるおそれはあるか。
A.以下の理由により、財政破綻するおそれは当面無い。(中野先生)
① ギリシャは国債の7割が外国人保有であるが、我が国は95%を国内保有しており、償還金は国内にとどまる。
② 財政破綻時にギリシャは長期金利7%台だったが、我が国は1%台と低水準。
③ 財政破綻時は円安になるが、我が国はむしろ円高。
④ 累積債務の対GDP比は我が国は200%と高水準だが、ロシアやアルゼンチンは50%程度でも破たんした経過があり、この指標は財政破たんにはあまり関係無い。
このほか、「実際にサンクトペテルブルグ(ロシア)では、トヨタ自動車の工場建設でトルコ企業が受注した事例もあり、建設業への外資参入について注意が必要だ」と注意喚起する意見も出されました。