ブックオフ | 我々少数派

ブックオフ

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 またブックオフですか。
 「見かけるとつい入っちゃうんだよね。いや、そもそもブックオフを数件ハシゴするつもりで出かけて、それで一日潰したりする日とか、週にいっぺんぐらいはあるからなあ」
 何をそんなに買う本があるんですか。
 「基本的には塾でテキストとして使う本を塾生プラスアルファの人数分を揃えるために、最近は例えば北田暁大の『嗤う日本の「ナショナリズム」』とか大澤真幸の『不可能性の時代』とか仲正昌樹の『集中講義! 日本の現代思想』とか佐々木敦の『ニッポンの思想』とかを探してるんだけど、行くと結局、すべての棚を律儀に全部見て回ることになるから、いろいろ見つけちゃって、ものすごく散財してしまう」
 以前、清水國明なみのヘビー・ユーザーだと意味不明の自慢をしてましたが……。
 「確定申告の時、ブックオフのレシートだけで課税最低限以下まで持っていってみせるとかね。しかしそういえば最近は店内で清水國明のアレ、流れてないねえ、どうでもいいけど」
 はい、どうでもいいです。
 「今日はひとつブックオフに提案がある」
 何ですかいきなり。
 「ジャンル別に本を分類するのはやめてほしい」
 あ、云いたいことは何となく分かります。
 「実際、困るんだよ。正しく分類されてるならいいけど、そんなことまずないから」
 “倫理・哲学”のコーナーにほんとに“倫理・哲学”系の本なんかまず置いてないでしょ?
 「そう、そーゆーこと。試しに一昨日、福岡市内の某店で“倫理・哲学”コーナーにどういう本が並んでいたか、全部メモしてきた」
 またヒマなことを……。
 「とりあえず105円均一の方の“倫理・哲学”の棚には13冊並んでたんだけど、まず1冊目、細木数子『六占星術が教える十二支の読み方』」
 うわ、期待を裏切らない……。
 「2冊目、佐藤泰行『幸運、強運、天運をつかむ最強運』」
 うーん、1ミリたりとも“倫理・哲学”ではない。
 「以下ずらーっと羅列。西部邁・加藤尚武『烈々豪々人生学』、佐田靖治『新世紀の神話 根源への道 解説編』がしかも2冊、大川隆法『「幸福になれない」症候群 グッドバイ、ネクラ人生』、中島義道『働くことがイヤな人のための本 仕事とは何だろうか』、福田純子『人はつまずいた数だけ優しくなれる』、またまた佐田靖治『求道の心得 根源への道 解説編』、桐生敏明『時を超えて伝えたいこと かつて日本に生きた者から、未来の自分に宛てたメッセージ』、またしても懲りずに佐田靖治『日本の神々 根源への道 神界劇第一幕』、鈴木宗男・佐藤優『反省 私たちはなぜ失敗したのか?』、おやまた福田純子『笑顔は人生に効くクスリです』。どーだ?」
 結局、“倫理・哲学”の本は1冊もないじゃないですか。まあしいて云えば確かに中島義道さんは哲学者でしょうけど、ブックオフの棚の分類からいえばむしろ“人生論”みたいなコーナーに並べるべきでしょう。
 「ずばり“労働”ってコーナーもあったよ」
 じゃあなぜそっちに置かないのか。タイトルだけでそれぐらい判断できるでしょう。
 「あとは、西部邁センセイも確かに思想家ではありますから、完全に間違いでもないですが、やっぱりこれも“人生論”ですよね、タイトルから充分。鈴木宗男氏と佐藤優氏の対談本はこれ、どう考えても“政治”コーナーですよね。
 「あるいは“事件・事故”あたりかな」
 他の9冊はもう、完全にアッチ系の本ですよね。
 「うん。いわゆるスピリチュアル系ね。ブックオフの棚的には、“宗教”コーナーだよな。いくつかは“自己啓発”コーナー」
 じゃあ逆にその“宗教”とか“自己啓発”のコーナーには何が並んでるんですか?
 「さすがに“宗教”にしろ“自己啓発”にしろ、こっちはあんまり誤解の余地がないから、もちろんフツーに正しくその分類で合ってる本が多いんだけど。例えば“宗教”コーナーには池田大作とか大川隆法とか福永法源とかの本がちゃんと並んでる。もっとも、モノホンの宗教本と、宗教学・宗教論の本がイッショクタだけどね。梅原猛の仏教論とか、イスラム教やキリスト教の解説書とかが、大川隆法の本と一緒に」
 たしかに区別してほしいです。
 「単に間違いというか、もしかしたらお客が別の棚から出した本を“やっぱ買うのやめた”ってんでテキトーに手近の棚に戻しちゃった結果なのかもしれないけど、比較的分類のマシなそういう“宗教”“自己啓発”コーナーにも意味不明な本がまぎれ込んでるけどね。例えば“自己啓発”コーナーに鷲田小彌太の『自分で考える技術』ってのがあった」
 あはは。あながち間違いでもないような気も……。
 「たしかにあの人の哲学解説本は、“自己啓発”本の扱いでもいいような匂いがいつも漂ってるけど。あと、“宗教”コーナーにはウォルフレンの『人間を幸福にしない日本というシステム』、黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん』、椎名誠の『いまこの人が好きだ!』なんてのがまぎれ込んでた」
 悪意でわざとやってるとしたらなかなかいいセンスだ。
 「それから“歴史”コーナーがまた“倫理・哲学”コーナーなみにヒドいんだよ」
 うーん、イヤな予感。
 「グラハム・ハンコック『神々の指紋』」
 やっぱり!
 「それからグラハム・ハンコック『神の刻印』、それからグラハム・ハンコック&ロバート・ボーヴァル『創世の守護神』……」
 グラハム・ハンコックばっかりじゃないですか。
 「もちろんちゃんとした歴史の本の中に混じってるんだけどね」
 いわゆる“超古代史”、今につながる人類史のさらに前に、消え去った知られざる高度な文明が存在していたっていう、もちろんたいていは宇宙人がらみの、要するに“トンデモ本”ですよね。
 「スタンリー・ビング『イヤなやつほど成功する マキャベリに学ぶ出世術』なんてのも“歴史”コーナーにあった」
 どう考えても“自己啓発”本か、せめてビジネス書のコーナーですよね。
 「マキャベリという名前に引きずられたのか。そもそもブックオフの店員がマキャベリを知っていたってことに驚くね、もはや」
 そこまでバカにしなくても。
 「他にも“歴史コーナー”にはフランク・ジョセフ『超先進文明アトランティス崩壊の謎』、加治将一『石の扉 フリーメーソンで読み解く歴史』といったオカルト本、トンデモ本がいくつも混ざっていた」
 しかしこれまで総統が挙げた例は、全部105円均一の棚でしょ? 通常のコーナーに比べたら、いくぶん……ってレベルではないとしても、それでも多少は扱いがぞんざいになるでしょうし、通常のコーナーはもう少しマシなんじゃないですか?」
 「私ももちろんそう思って、通常のコーナーも調べてみた。そしたら確かに、例えば“倫理・哲学”コーナーには永井均・小泉義之『なぜ人を殺してはいけないのか?』、橋爪大三郎・竹田青嗣・村瀬学・瀬尾育生・小浜逸郎『照らし合う意識』、東浩紀編『波状言論S改』、竹田青嗣『自分を知るための哲学入門』、同『現象学入門』、吉本隆明『柳田国男論集成』といったまあ“正解”と云っていいのが多かった。勁草書房の本も2冊あったし、NHK出版の“哲学のエッセンス”シリーズなんかも置いてあった」
 少しホッとしました。
 「油断するでない。そういう“正解”は“倫理・哲学”コーナーのだいたい半分ぐらいだ」
 うっ。するとあとの半分は……。
 「えー、細木数子『六占星術が教える十二支の読み方』」
 げっ。
 「またしても佐田靖治『新世紀の神話 根源への道 解説編』、同じく『子神たち 根源への道 神界劇第二幕』」
 むむぅ……。
 「福田純子『人はつまずいた数だけ優しくなれる』」
 全部さっきの105円コーナーにあったやつじゃないですか。
 「つまり店員が“間違ってうっかり”置いたわけでも、まして客が戻し間違えたわけでもなく、店員は“確信を持って”これらの本を“倫理・哲学”コーナーに分類していたという恐るべき事実が明らかになったと云えよう」
 たしかに。
 「他にも佐藤泰行『「天運を拓く」実践法 こうして立ち直った! 100人の“奇跡”と“感動”の実録!! 』、尾関宗園『大安心 心配するな、何とかなる』、礪波洋子『諸葛孔明の言玉 中国算命学による2010年版』、秋山眞人・江戸稔『癒される人生は必ずある』、細木数子『宿命大殺界 あなたの人生を翻弄する恐るべきパワー』……」
 うわー、もうやめてください。
 「まだまだ。テリー・コール・ウィッタカー『私がわたしになれる本』、ジェームズ・アレン『大いなる不変の法則』、松原泰道『「足るを知る」こころ』、日木流奈『伝わるのは愛しかないから』、中谷彰宏『大人のマナー』」
 ……。
 「どうしたどうした。ちなみにこれらの本のうちいくつかが本来置かれるべき“宗教”の棚には、加藤諦三『「自分」に執着しない生き方 なぜ悩んでしまうのか』、中谷彰宏『逆転力を高める50の方法』、櫻井よし子・金両基『日韓歴史論争 海峡は越えられるか』、町沢静夫『あなたの心にひそむ「見捨てられる」恐怖 一人では不安でたまらない心理』といった本たちがまぎれ込んでいて笑わせてくれた。さらにご丁寧にも“心霊・オカルト”なんて棚があって、そこには中谷彰宏『たった3分で見ちがえる人になる』、岩國哲人『出雲からの挑戦』の2冊しか並んでなくて、なかなかいいセンスだ」
 ブックオフで一人でニヤニヤ笑いながら書名をメモしてる総統の姿を想像すると悲しいです。
 「あと指摘しておくべきは“社会科学”の棚だな。大量の本がここに分類されていて、中には正しくここに分類されている本もあるにはあるんだが、しかし8割方は以下のようなものだ。面倒だからもう著者名は省く。『なぜ、「あの人」には話が通じないのか?』、『人生の愉しみと成功 5つの決心』、『生きがいの本質』、『江原啓之のスピリチュアル子育て』、『夢をかなえるイチロー力』、『残業ゼロで成果が上がる! スピード仕事術』、『なまけもののあなたがうまくいく57の法則』、『誰とでも15分以上会話がとぎれない! 話し方66のルール』、『本がいままでの10倍速く読める法』、『人を見抜く法』、『一瞬で心をつかむ心理会話』、『小さいことにくよくよするな!』、『バルタザール・グラシアンの賢人の知恵』、『マンション買い方百科』、『思考は現実化する』、『チャクラ 癒しへの道』……」
 “社会科学”という言葉が根本的に誤解されていますね。
 「ほんとに深刻な事態だと思うよ。バイトの中に2、3人、文系の学生を入れとけば、本来はありえない棚だろ?」
 しかし実際、たぶん文系の学生なんかもフツーに雇われているはずですよ。
 「そう。だから問題なんだよ。平均的な文系の教養があれば、いくらなんでもこんな分類はしないはずなのに、要するに想像をはるかに超えるバカがもう世の中の9割方、ことによると99%以上かもしれないってことなんだよね。おれが世に受け容れられないのも当然だよ」
 で、要するにブックオフはいっそ本の分類をやめてくれ、と?
 「いや、完全にやめちゃうとそれはそれでやっぱり分かりにくいんで、だから現実的な提案をしたい。つまり、もういっそ全部、出版社別に分けて、版元のアイウエオ順で並べてほしい」
 文庫と新書の棚の一部はたしかにそうなってますね。
 「“実用書”みたいな分類でね。つまり文庫本は、とりあえず小説を中心に著者のアイウエオ順で並んでるんだけど、ノンフィクションとか、評論とか、ハウツーものは分けてあって出版社別に並んでる。しかし、現状ではこれもかなりいい加減で、アイウエオ順に並んでる中にもちろん小説だけじゃなくて、立花隆や福田和也や呉智英なんかも並んでたりするし、場合によっては講談社学術文庫の柄谷行人の本だって、講談社学術文庫のコーナーじゃなくて“か”の著者のところに並んでたりする。もう分かりにくくて分かりにくくて。それでも文庫本の“非小説”のコーナーや新書のコーナーは、ブックオフの棚の中で例外的に本を探しやすいんだけど、店によってはここすらテーマ別の云うまでもなくメチャクチャな分類がされてることがあって、初めて入った店でそうなってるともう、殺意さえ覚えるね。とりあえず店長出せと。まあ実際にはぐっと怒りをこらえるけど」
 たしかにまったく何の、一切の教養めいたものがない店員にも、出版社別に並べることぐらいはできそうですね。
 「もう小説であるかそうでないかとか、それすらちゃんと分類できない店員ばっかりなんだから、もう文庫と新書と雑誌とそれ以外ってことでまず分けて、それぞれを出版社別にアイウエオ順に並べて、さらにそれぞれを著者のアイウエオ順に並べてくれ。それぐらいどんなバカにでもできるだろう」
 今よりよっぽど目当ての本が探しやすくなりそうですね。
 「今だと例えば北田暁大の『嗤う日本の「ナショナリズム」』を探そうと思えば、まずどーせここじゃないだろうと思いながら“倫理・哲学”のコーナーを見て、やっぱりなくて、“ナショナリズム”ってついてるからもしかしたら“政治”コーナーとかにあるかな、と思って見てもやっぱりなくて、ええいと思って大量のトンデモ本やスピリチュアル本の背表紙をこれでもかと見せられつつ“社会科学”や“ルポ・ドキュメント”のコーナーをしらみ潰しに見て、あるいはと思って“サブカルチャー”とか“趣味・雑学”コーナーを見て、もちろん“小説・エッセイ”の“き”の棚も見て、結局ないってことがほとんどだからね。要するにあるかないかを確かめるためだけに、ほとんどすべての棚を見るしかない。私の提案が受け容れられれば、一般書のコーナーに行って、NHKブックスだから出版社別の“え”の棚に行って、そこで“き”の著者のとこを見ればいいんだからな。ぜひそうしてほしい。っていうか、そうしろ!」