『動物化する世界の中で』 | 我々少数派

『動物化する世界の中で』

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 昨日に引き続き、東浩紀と笠井潔の往復書簡本『動物化する世界の中で』の読書会をやっている。
 2003年に書籍化されたこの本が当時それなりに話題になっていたことは、情報源が限られている獄中からでもうかがい知れたほどだが、何が話題になったかといって、全16回(つまりそれぞれ8回ずつ)の往復書簡の3分の1あたりから両者の対立が急速に表面化し、最後はほとんど決裂状態で終わるその“破綻”ぶりだ。
 獄中で私は、常日頃からチェックしていた『SPA!』と『週刊プレイボーイ』のみならず、シャバではほとんどちゃんとチェックしてはいない論壇誌、もちろん冊数制限があるため『文藝春秋』、『現代』、『中央公論』、『新潮45』の4誌に絞って購読し、時勢に遅れないよう努力していた(そのためシャバにいる時よりも世間の動向にずっと明るかった)が、概して東側への共感を表明する評者が多かったように思う。私も獄中に本書を取り寄せて読んだが、私にはどう考えても笠井側の方が圧倒的にマトモに思えた。
 東は、笠井が全共闘運動の意義にまでさかのぼって現状分析するのを、「また全共闘オヤジの思い出バナシが始まった」みたいな受け取り方をして猛反発する。が、やはり笠井に対しては否定的なスガ秀実が、スガ以前には笠井が“68年の思想”を一手販売していたと形容するように、単なる「思い出バナシ」ではない全共闘論を一貫して提示しつづけてきた希有の存在である。スガ秀実ほどには同時代の論壇の趨勢とはうまく切り結べず、“孤高の思想家”的ではあったが、20代を通じて笠井の熱心な読者であったという前提を欠いていたら、私は現在のスガの全共闘論をちゃんとは理解できなかったろう。
 以前もどこかで書いているだろうが、私は生物学的には同世代の東に、まったく同世代性を感じることができない。端的にそれは、東の経歴にブルーハーツ的なものの影がまったく感じられない(おそらく事実としてブルーハーツ体験がないのだろう)ということである。熱狂するか猛反発するか、方向はどちらでもいいのだが、ブルーハーツ体験こそは私たちの世代を世代として特徴づける最大のものである。熱狂すれば、土井たか子ブームに象徴される80年代後半の社民ムードの一翼を、自覚のあるなしは問わず、なにがしか担うことになったし、猛反発すれば一水会的な方向へ流れることになった。私は当然前者で、その社民ムードの内側からその志向性をラジカルに突き詰めることで結果としてそこから逸脱してゆくという自己形成史を持っている。その逸脱の過程で高校全共闘の記録に出会い、まったく共感して、全共闘運動を「戦後民主主義批判」を軸に理解するという「正解」を得ることができた。社民ムードの枠内にとどまっていれば(実際、多くの同世代はその枠内にとどまった)、全共闘を自分にとって切実な問題として理解することはできなかったろうし、その後、笠井潔やスガ秀実の著作にもピンとこなかっただろう。で、そもそもブルーハーツ体験、社民体験を通過していない東に、笠井の問題意識が切実なものとして理解できるわけがないのだ。
 10代のうちから柄谷行人や浅田彰を読んでいたような東が、私たちの世代を代表しているかのような誤解は、私にはまったく不愉快きわまりない。笠井と東の対話が、全共闘世代と私たちの世代の象徴的な対話であるかに流通する状況が不愉快きわまりない。
 東に限らず、60年代後半から70年代前半に生まれた、生物学的には私と同世代の、論壇で活躍する論者たちのほとんどが、東のような、早熟でありすぎたために同時代のムーブメントに反応できず前時代のムーブメント(80年代初頭のポストモダン言説)に反応して自己形成してしまった、同世代の中でもかなり特殊な部類なのである。このテの論者に80年代を語らせるのは、云ってみれば60年代後半に民青の活動家だった者に全共闘を語らせるようなもので、つまりトンチンカンな話にしかなりようがない。
 私たちの世代を代表して語るのはもちろん『青いムーブメント』の著者である私が最適任ではあるのだが、せめて山本夜羽音や矢部史郎や、あるいは酒井隆史でもいいし、政治運動を通過してないから多少ココロモトナイが『音楽誌が書かないJポップ批評』シリーズなどの常連執筆者である河田拓也だっているわけで、少なくとも東なんかに代表してもらっては困る。
 いつまでこういう不毛が続くんだろう。

 関係ないが、ちなみに今日の上映会は『北の国から'87 初恋』だった。むろん「高く評価」しているわけではなくて、パロディ元としてさんざん使われるくらいの作品は押さえておけ、という趣旨である。全部観てもらうと大変に時間を食うので、シリーズ中どれか一つを選ぶとすればたぶんコレだろうと。