今度の日曜日に行われる別府大分毎日マラソンも、今回で62回目を迎える。大分市の水族館「うみたまご」前をスタートし、別府市内の亀川地区で折り返して大分市営陸上競技場をゴールとする42.195Kmの公認コースを舞台に、3年前のウィーン国際マラソンで5位に入ったポーランドのアダム・ドラチンスキや昨年のこの大会で2位に入ったモンゴルのセルオド・バトオチル、昨年のオタワマラソンで4位に入ったモロッコのアブデルクリム・ブーブケルらの外国勢や「公務員ランナーの星」の異名を取る埼玉県庁の川内優輝や英国ロンドン市で昨年行われた五輪男子マラソンで6位入賞を果たした安川電機の中本健太郎、そして地元大分出身である旭化成の佐藤智之らの国内勢が頂点を目指して火花を散らすが、今回はレースそのものよりもテレビ中継を利用した大々的なPRを行なった話をしたい。

 別大マラソンのテレビ中継は地元の大分放送(OBS)と九州におけるTBS系列の幹事局である福岡市のRKB毎日放送が制作し、国内の30近い系列局で放送される。中継される公認コースはほぼ国道10号線に沿っているが、この国道10号線はJR日豊本線と並走するところが多く、その条件を生かしてJR九州は17年前に新型特急車両「ソニック」のPRを行なった。つまり、走っている選手をバックに新型車両を映して利用を呼び掛けるという目論見である。

 ソニックは最高速度が130Km/hでカーブの多い日豊線の地形状況を考えて振り子式車両となっており、内部もシートのヘッドレストが動物の耳のようになっているなどデザインを手掛けた水戸岡鋭治氏の遊び心が大きく反映されたものになっていた。山口・下松市にある日立製作所の笠戸事業所で車両は製作されたが、その初号機ができ上がってJRの大分車両センターに運ばれてきた時は前の部分を黒い幕で覆っていたが、当然ながらこの演出方法が大きな話題を呼んだ事は言うまでもない。

 さらにJR側は最初に試運転を行う日が別大マラソンの開催日と知って、一計を案じた。そう、先頭を走る選手を伴走するような形でソニックを走らせ、それも徐行させたのである。担当者は前年の優勝者のタイムを参考に予定を組み、当日は別府市の亀川駅にソニックの車両をスタンバイさせて先頭ランナーが走ってきたと同時に、テレビ中継のカメラに合わせる形でソニックを走らせた。先頭をいく選手をバックに走るソニックが実に絵になった事は言うまでもなく、実況を担当したrkbのアナウンサーもこの新型車両について説明、JRにとっては大きなPR効果となる(ちなみにこの時の解説者は日本マラソン界の第一人者であった宗茂氏であったが、アナウンサーから話を振られて「そうですね」と口にしたかどうかは定かではない)。この時のJRの担当者の心の内は、恐らく「してやったり」というところであろう。

 この別大マラソンに限らず、テレビ中継されるマラソン大会ではそれぞれの地元にある大学や社会人のサークルが、沿道で大きなのぼりやポスターなどをテレビカメラの方に掲げて自分たちが主催するイベントなどのPRを行う姿をよく見掛ける。お金をかけずにPRするという点で、マラソン中継というのは格好の手段なのかも知れない。


(追記)この時、ソニックを徐行させて走らせるために後続の特急「にちりん」を10数分遅らせたという。当然ながら、この1件で担当者がJRの偉いさんからこっぴどく叱られた事は言うまでもない。