「ラフ・マシーン」と言っても、モーニング娘。の楽曲ではない(それは「ラブ・マシーン」である)。米国で「奥様は魔女」や「アーノルド坊やは人気者」などのシチュエーション・コメディといった類のドラマで劇中に観客の笑いのようなものが入るが、その笑いはすべて効果音だという。その効果音を入れる機械がラフ・マシーン、つまり「お笑いマシーン」である。

 このラフ・マシーンは大爆笑や失笑など、おかしさに応じたいろいろな笑い声のパターンが機械の中に入っているという。これを操る担当者も熟練された音声担当係で、役者の演技に応じて絶妙な笑い声を入れていく。これも「プロフェッショナル」でないとできない仕事だと言えよう。

 米国はこのように機械化が進んでいるのであるが、日本は臨場感を好むのかいわゆる「笑い屋」というプロダクションに登録されている素人(業界ではこれを「仕出し」と呼ぶ)1500円でやる場合が多いという。素人以外にもスタッフが「笑い屋」をやる場合もある(フジテレビで放送していた「オレたちひょうきん族」はこのパターンである)が、生身の人間はいつもおかしくて笑うという訳ではなく、時にはいろいろな事情で落ち込んだりしている時にも強制して「笑わせられる」という事にもなる。そういう場合は声にも出る訳で、耳の良い視聴者には「ああ、心から笑っていないな」と勘付くという。これはある意味で質の悪い笑いを見せられているのと一緒であり、それに気付かない関係者も多いのであるから、いかに日本のテレビのお笑いが恵まれていないかがわかる。

 あえて言いたい。今からでも遅くはないから、日本もバラエティ中心にラフ・マシーンを導入した方が良いと思う。今ならコンピュータのボイスサンプルで昔よりも多くの笑い声のパターンを生み出す事ができるので、編集でその場に応じた笑い声を生み出す事ができる。1500円でおもしろくもないのに笑う「笑い屋」に比べれば、そっちの方が良い。

 観客を入れて絶対に笑わせる事のできる自信のある演出家ならばラフ・マシーンはいらないが、今のテレビのバラエティの多くは「機械化」の笑いの方がましだと思う。それだけ日本のテレビの笑いは貧弱なのである。