激 突 !(8点) | 日米映画批評 from Hollywood

激 突 !(8点)

採点:★★★★★★★★☆☆
2005年2月4日(DVD)
主演:デニス・ウィーバー
監督:スティーブン・スピルバーグ


 もともとTV用映画として作られたのだが、あまりのできの良さに日本では劇場公開となったスピルバーグの長編デビュー作品。初めて見たのは大学時代の時で、すさまじい衝撃を受けたものだが、公開から30年経った今見てもその衝撃は色あせることがなかった。


【一口コメント】
 天才はデビューした頃から、すでに天才でした・・・。


【ストーリー】
 ある普通乗用車の運転手がハイウェイでタンクローリーを追い越したことからこの物語は始まる。タンクローリーが直後に、スピードを上げ、乗用車を抜き返す。しかし、追い越した直後にタンクローリーはスピードを落とし、乗用車の行く手を邪魔するかのように行く手を塞ぐ。何とか追い越し、ガソリンスタンドで給油をする乗用車。そこにタンクローリーも止まってくる。
 ガソリンスタンドを出発し、しばらくすると再びタンクローリーが猛追してきて、遮断機の下りた踏み切りの前で、タンクローリーに押されて列車に衝突しそうになったり、警察に電話をかけようとしたところ、タンクローリーが電話ボックスに突っ込んできたり、あくまでも執拗に乗用車の運転手を追ってくる―――。

【感想】

 実質的な登場人物は乗用者の運転者1人。もう一方の主役とも言うべきタンクローリーの運転手は最後の最後まで正体がわからない。それ故に主人公は相手とコミニュケーションを取るどころか、その相手が誰なのか、正体を知ることが出来ない―――といった設定が恐怖を際立たせている。
 正体不明のタンクローリーの運転手の代わりというわけではないが、タンクローリーという車そのものが、運転手の感情を表現してくれる。タンクローリーの蛇行運転などの動きや吐き出す煙が、ねちっこさ、憎悪、そして殺意といった感情を表現してくれる。

 そして二台の車の距離感を表現する数々の手法。時にそれは音であり、時にそれは直接的な遠方からの映像であり、時にそれはサイド・ミラーやバック・ミラーに映る車の姿である。中でも二台の車が猛スピードでチェイスを繰り広げている横を通り過ぎながら撮影しているカメラ・ワーク、そしてタンクローリーのボンネットの上から撮ったと思われる映像。この二つの映像はタンクローリーの持つ圧迫感というものを見事に描き出していたと思います。

 そして何より、演出のうまさ。台詞らしい台詞もほとんどなく、乗用車が大型車に追いかけられるだけ。それだけの話なのに、90分近い作品に仕上げられている。しかも全編を通して、緊張感は続き(人によっては、途中でダレル感じがあるかもしれないが・・・)、最後の最後まで、恐怖も持続する。車という現実の世界に存在し、かつ身近な存在でもあるものを恐怖の対象にしていることも、恐怖感をいっそう増している(「
リング」のビデオも同じことが言える)。
 一見、ずっと追われっぱなしのように見えるが、ところどころに休憩というか、"静"のシーン(カフェのシーンや踏み切りの横で寝てしまうシーンなど・・・)がいくつか盛り込まれていることによって、"動"のシーンがより激しさを増している。

 低予算でCGなども存在しなかった時代にシンプルに作られたことが、かえって映像のカット割りのうまさ、演出のうまさを際立たせています。
 これが長編デビュー作だとは思えないスピルバーグの才能が詰まった秀作です。