パイレーツ・オブ・カリビアン ~ワールド・エンド~ (7点) | 日米映画批評 from Hollywood

パイレーツ・オブ・カリビアン ~ワールド・エンド~ (7点)

採点:★★★★★★★☆☆☆
2007年5月26日(映画館)
主演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ
監督:ゴア・ヴァービンスキー
製作:ジェリー・ブラッカイマー


 今年の夏映画、「スパイダーマン3」、「シュレック3」、「ダイハード4」、「ラッシュ・アワー3」といった感じで、シリーズものが席巻しまくっているが、その中でも一番の大本命と思われている作品であり、かつ個人的にも期待の高かった作品、そして今年初めて映画館で見ることになったハリウッド作品でもある。

【一口コメント】
 とりあえず、3部作完結と思っていたら、新3部作ではなく、4部目の話が出てきた・・・。一体どうなるんだろうか?


【ストーリー】

 幽霊船フライング・ダッチマン号を操る "深海の悪霊"デイヴィ・ジョーンズが、彼の心臓を奪った東インド会社のベケット卿の軍門に下り、世界制覇をもくろむベケットは海賊たちを次々と撃破していく。
この危機を乗り越えるために、世界各地の海を治める伝説の9人の海賊を集めようと、ウィルとエリザベスはカリブ海を飛び出し、アジアへと旅をするが、最後の一人がキャプテン・ジャック・スパロウであることがわかり、絶望の淵に追い込まれてしまう・・・。

【感想】

 パート1パート2 と世界中で売れまくったこの作品。元はディズニーランドのアトラクションが原作だってことは忘却の彼方へ行ってしまった今日この頃。そう考えると、よくもまぁ、あのつまらないアトラクションがここまでの広がりを見せた!と驚いてしまうのだが、この完結編に関しては広がりすぎて、ちょっと一つ一つが薄くなってしまった感が否めない。
 いかんせん、脚本が今ひとつだったように思う。パート1から続く、「主人公3人以外の人間描写が薄い」というこのシリーズの最大の欠点が、この完結編でもというか、この完結編にもっとも悪影響を及ぼしている。
 例えば9人の海賊が現れるなら、1人1人の簡単な自己紹介があってもいいと思うのだが、それがないため、1、2に出ていない海賊たちはまったくもってどんな海賊なのかがさっぱりわからないし(ひょっとするとDVDの特典で入っているかもしれないが・・・)、最後に一致団結してベケットに戦いを挑む理由付けも薄いというか、無いに等しい。その割りに、クライマックスの映像の中にこの9人が万遍なく登場しているのだから、たちが悪い。どうせ薄いキャラなんだから、映さなくてもいいだろう!と思うのだが、"一応"伝説の海賊"ってことで映しておくか?という考えが見え見えで、せっかくの盛り上がりのシーンも少し興覚め。


 またウィルと父親の関係、そしてジャックと父親の関係といった最も丁寧に描かれなければならないはずの描写も薄く、作品全体を通しての2人の父親の存在感の無さと言ったら、これ以上ないくらいに薄い。
 脚本という意味では物語中盤の中だるみも、どうにかならなかったのだろうか?3時間近い上映時間から考えると、中盤にももう1つ見せ場があっても良かったのではないだろうか?

 それといろいろと謎かけ要素を提示していたものの、半分くらいが謎のままだったのも、見終わった後に気だるさを感じた要因だろうか?例えばダルマが巨大化したのは何の意味があったんだ?しかも分裂してカニになるなんて!?ジャックが妄想の中で石型のカニと遭遇したことと合わせると、この世界の構成にカニが重要な意味を持っている・・・なんて考えられなくもないが、どうだろう?

 とはいえ、次々とキャラが登場しては消える回転の速さ、加えてそれらのキャラが次々と立場を入れ替えて、裏切りの連続って感じの展開は面白い。もしかすると、その辺りの展開を理解するのに苦しむ人もいるかもしれない。
 しかし、そんなやや難解な展開を補って余りうるだけの映像を見ているだけでもこの作品は楽しめる。
 例えば表の世界と裏の世界の変換の時の描写。言葉での説明などまったく不要なほど、単純明快でわかりやすい描写になっていて、NHKの教育テレビ的な映像に見えなくもないのだが、実際の映像はすごく細かい部分までこだわった映像になっていて、これぞハリウッド映画ならでは!という脅威の映像に仕上がっている。個人的にはこの作品の中でもトップ3に入るくらいの見せ場だった。
 またカット割りも良かった。中でも一番面白かったのが、極寒の海。最初は遠景からの船の全景と背後の氷山のカット。次が船、上空からのカット。そして寒さに震えるお笑いキャラのお猿の顔のアップ。普通なら遠景から顔のアップに行くところを船上空からのカットを入れたことで、笑いにタメができ、その次の猿の顔のアップがより生きている。
 そういったところはうまいのに、エンドロール後のシーンはいただけない。10年後という設定なのに、エリザベスはまったくもって年を取っていないので、隣にいる子供と並んでも親子のようには見えない。それがブラッカイマーらしいのだが・・・。
 そんな中でもブラッカイマー節全快なのが、クライマックスの戦闘シーン。巨大な渦巻きの中で2隻の船が渦の中央へと寄り合いながら、砲撃を繰り返し、最終的にはマストが絡み合ってしまうほどの接近戦になってしまうわけだが、その最中で戦いながら結婚式を挙げてしまう主人公2人はやりすぎだろ!?と思いつつも、それでこそブラッカイマーとも思いながら見ていた。
 戦闘シーンで「ファイアー!(撃てー!)」の号令はジャックとバルボッサだけでいいはずだろ!?とか思うのだが、ウィルとエリザベスも叫んでいるため、映像のテンポが少しだけ、そこでトーンダウンしてしまっているのも、ブラッカイマーらしい。

 しかし、このシリーズ、毎回主役が入れ替わっているという珍しいシリーズだったとも言える。パート1に関しては、間違いなく、主役はジャックだが、パート2に関してはウィルが主役のような描かれ方をしていたし、今回のパート3では、いつの間にこんなにも強い女性になったんだ!?ってくらい剣の使い方もうまいし、次々と海賊の男たちを手玉に取っていくのし上がり方といい、エリザベスが主役のような描かれ方だ。

 毎回主役が入れ替わりつつも、それでも3部作として成り立っているという点においては、史上まれに見る3部作だったとも言えるが、主人公をぼかして描いたがために、「ロード・オブ・ザ・リング 」シリーズほどの印象は正直言って、残らなかった。

 逆に考えれば「ロード・オブ・ザ・リング 」と「バック・トゥ・ザ・フューチャー 」のこの2大トリロジーのレベルの高さがとてつもなく高いと言えるわけだ。

 ところで、ディズニーのアトラクションから映画化されたものといえば、「
ホーンテッド・マンション」という作品もあったが、次は何が映画化されるのだろうか?
 個人的にはスペース・マウンテンの実写化を期待したい。